
兵庫県北部に位置する上山高原。豊かな自然が広がるこの地で、21年もの長きにわたり、失われたススキの草原を取り戻す活動を続けている「上山高原エコミュージアム」があります。
今回は兵庫県新温泉町にある「上山高原エコミュージアム」の活動に迫るべく、事務局長を務める橋本さんにお話を伺いました。
牛馬と共にあった草原文化をもう一度

上山高原はかつて人が牛や馬と暮らす農耕の地であり、広大なススキの草原には多くのイヌワシが生息していました。しかし機械化が進んで人の暮らし方が変わると、草原は利用されなくなりました。その結果、木々が無造作に生い茂り、草原を狩場にするイヌワシの生息域もどんどん減っていったのです。
私たちの活動は、上山高原のススキ草原を復活させ、国の天然記念物であるイヌワシの個体数を増やすことを目的としています。だからこそ、まず自然を知っていただく入口として「上山高原エコミュージアム」ではガイドツアーを活動の軸としています。
ガイドがいると山は博物館になる

ガイドツアーは、初心者からベテランまで楽しめるよう、レベルに応じたコースを用意しています。
案内するのは、植物や昆虫に精通した知識豊富なガイドたちです。参加者からは「安心して参加できる」「学びが多くて楽しい!」と好評で、リピーターが多い理由もそこにあります。ガイドと歩くと、山そのものがまるで博物館のように思えてきますよ。
特に人気なのは、洞窟の先に滝が落ちる「シワガラの滝」です。長靴を履いて沢を歩きながら滝へと進むコースは、自然の中を冒険しているようでワクワクしますよ。沢もガイドと一緒に歩くので安心して楽しめます。
安全対策にも力を入れており、シーズン前には警察や消防、役場と協力してコースの点検を欠かしません。
オフシーズンも、雪原を歩く「かんじきハイク」や、上山高原エコミュージアム内で行うリースづくり、子ども向けの木工教室といった企画など行っています。年間プログラムは公式ホームページから確認・申し込みが可能なので、どうぞお気軽に参加してください。
“観光”が“地域のチカラ”に変わる

「上山高原エコミュージアム」というと一見建物を指すように思えますが、私たちは“建物”ではなく“活動”そのものが「上山高原エコミュージアム」だと考えています。
観光ガイドなどで得た収益は、歩道の草刈りや滝の周辺整備、シカ対策といった保全活動に充てられています。参加者がツアーに来てくださることでお金が地域で循環し、安全で美しい山を維持するための大切な資金となるのです。
伐採した木は原木しいたけに活用し、駒打ち体験や販売にもつなげるなど、資源を無駄にしない循環を来訪者にも実感してもらえるよう工夫しています。
こうした取り組みは、上山高原の豊かな自然を守り、元の草原を取り戻すためには欠かせないものです。
さらに体験がきっかけとなり、移住や長期滞在を希望される方も出ています。観光は一度きりの訪問にとどまらず、地域との“関係人口”を育てる入口でもあるのです。
21年の成果と未来に向けて

「上山高原エコミュージアム」の21年間の活動で、ススキ草原は44ヘクタールまで復元されました。かつては雑木林のようになっていた景色が、今は見違えるほど美しい草原へと姿を変えています。
しかし手を止めてしまえば、また無造作な山に戻ってしまいます。近年の温暖化やシカの増加によってススキを後退させないよう、常に手をかけ続ける必要があります。ススキ草原を復活させることは、一度の大きな取り組みで達成できるものではありません。草刈りやシカの増加対策など、地道な作業を毎年繰り返していくことが重要なのです。
私たちは、イヌワシが舞うススキ草原をもう一度取り戻したい。そのために、この活動を次の世代にもしっかりとつなげていきたいと考えています。
未来を担う世代へ――上山の“当事者”になる

私たちの活動は、20年以上にわたって継続してきたものです。法人を立ち上げる以前も、2001年の構想段階から関係者が集まり、草刈りや調査、準備作業を少しずつ積み重ねてきました。上山高原の自然を未来に受け継ぐためにも、私たちはこれからも地道な活動を続けていきます。
人が自然に興味を失ってしまえば、山の魅力も薄れ、保全活動の意義も失われかねません。
皆さんも、まずは来て山を知ってほしい――。そして、参加することが保全につながる仕組みを、現地で実感してもらえたら嬉しいです。
上山高原エコミュージアム
住所:兵庫県美方郡新温泉町石橋757-1(上山高原ふるさと館内)
電話番号:0796-99-4600
営業時間:9:00~17:00
休館日:火曜日(※火曜が祝日の場合はその翌日)、年末年始(12月29日~1月2日)
料金:入館料無料
公式サイト:https://www.ueyamakogen-eco.net/
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