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スポット  |    2025.05.05

人と本、人と人をつなぐ書店づくり「新駒書店」【後編】|長野県南佐久郡佐久穂町

【前編】では、東京から長野県の佐久穂町へ移住して新駒書店を営む近谷浩二さんに、お客さんとの交流やお店を始めてからの発見について伺いました。後編では、少し変わったこだわりの選書とその理由、そして地域の魅力について伺います。

前編はこちら

人と本、人と人をつなぐ書店づくり「新駒書店」【前編】|長野県南佐久郡佐久穂町

古民家ならではの階段箪笥を本棚にしたコーナー

山あいの小さな町から海外へ繋がるしかけ

新駒書店では新刊と古本の両方を扱っています。その数は約3000冊。

「選書はほとんど妻が担当しています。セレクトの基準は、いわゆる売れ筋ではなく長く残ってほしいと思う本。本好きな人にはすごく喜んでもらえているみたいです」

店内には外国文学の翻訳書も多く並ぶ。写真のアジア文学のポケットシリーズ「Read Asia」は、近谷さんが手がけて出版されたもの

そして近谷さんには、翻訳出版プロデューサーというもう一つの顔があります。もう20年以上、日本の文学作品を海外に送り出す仕事に携わってきました。白石一文さんや田口ランディさんなど、著名な作家の海外出版の代理人を務めてきた実績があります。

そのため、新駒書店には他の書店ではなかなか見かけない日本の小説の外国語訳版が並びます。日本語の原書とともに、英語、中国語、台湾語、韓国語などの翻訳版をディスプレイし、翻訳者についても紹介。この「翻訳書の世界」コーナーは、近谷さんの担当です。

オープン当初は近谷さんが海外出版の代理人を務める、白石一文さんの作品がズラリと並ぶコーナーを設置 【画像引用元:新駒書店公式note

「私がたまたま翻訳出版に関わる仕事をしているので、日本の小説がさまざまな言語でも出版されていることを知ってほしいなと思ったんです。それに佐久穂のように小さな町の小さな書店から、海外に繋がるようなディスプレイができれば面白いのでは、と考えて始めました」

他にも、『忍者店長の書籍情報発信局』と題したYouTubeも制作。動画は全編英語で、忍者に扮した近谷さんが日本の文学作品を紹介しています。実は近谷さんは20代の頃、ハリウッドで俳優として活動していました。そのためアクションなどもお手のもので、現在もその身体能力の高さは健在です。YouTubeでは、そんな近谷さんが佐久穂の山々を疾走する姿も見ることができます。今後は、本のことだけでなく佐久穂町の魅力もYouTubeを通して伝えていきたいと話してくれました。

忍者姿で日本の文学作品を紹介するYouTubeには、海外の人からもコメントが【画像引用元:『忍者店長の書籍情報発信局』YouTubeチャンネル】
書店のガレージを改装して、筋トレ好きな仲間と「新駒運動部」も結成
スゴ技を披露してくれる近谷さん

海外のブックフェアでも忍者のコスプレで日本の書籍を紹介し、より一層参加者の関心を引いているといいます。

移住者だからこそ感じる地域の魅力を伝えたい

2階のお座敷では、窓を開ければ千曲川を望みながらゆっくり本を読むこともできる

翻訳出版プロデューサーという仕事柄、海外からのお客さんを案内することも多いという近谷さん。近隣地域だけでなく、インバウンドのお客さんにも佐久穂町に来てもらえるよう、YouTubeなどをもっと活用していきたいと考えています。

「千曲川や八ヶ岳の美しい風景があって、おいしい食べ物屋さんもある。訪れた方はみなさんこの町をすごく気に入ってくれるんです。でも地元の人にとっては当たり前だから、その魅力に気づいていないのかなと感じます。移住者だからこそ、そういった魅力をもっと発信していきたいと思っています」

とはいえ、移住者だけで盛り上がるのではなく、書店を長く続けることで地元の人たちとももっと関係を築いていきたいと近谷さんはいいます。また地域の歴史や風土を学び、外から訪れる人たちに地域の良さを伝えられるようになりたいと話してくれました。

コロナ禍で気軽に出歩けない時期を経ての書店オープン。近谷さんにとって、リアルで人と会うことの貴重さと楽しさを、再認識する経験でした。

「こんなにきれいな空気や風景が無料だなんて信じられない、と今でも思います。自然豊かなこの場所で書店を始めたことは、自分にとっても精神安定に繋がりました。普段出会わないようなお客さんとも知り合えて、一気に元気になったし、人生が変わりました」


佐久穂には、読書にもぴったりの気持ちのいい自然が広がります【画像引用元:新駒書店公式Instagram

最後に、佐久穂町唯一の書店として今後やりたいことは何かありますか?と近谷さんに訊ねたところ、「夢というより妄想に近いんですが……」とひとつのアイデアを語ってくれました。それは「ライターズレジデンスプログラム*」を佐久穂町のある南佐久郡で実施すること。

*作家がある地域に一定期間滞在して、取材や執筆を行うプログラム。ライターズ・イン・レジデンスとも呼ばれる。

「海外では自治体などが主催者となることも多いプログラムを、この南佐久郡でもできたらいいなと考えています。各国から訪れた作家や翻訳家が、みんなで寝泊まりして土地のものを食べ、地域のことを学びながら行う創作活動をコーディネートできたら面白いんじゃないかな、と」

実際、軽井沢や八ヶ岳のエリアに住む作家は多く、創作にすごく良い環境なのではないかと近谷さんはいいます。書店をオープンしたときと同様、自分一人では難しくても、地域の人たちと連携すれば実現も夢ではないかもしれない、と笑顔で話してくれました。

山あいの町の小さな書店が、地元と近隣地域の人たち、さらには海外からのお客さんも繋ぐ場になる。そんな未来もそう遠くないかもしれません。

ぜひみなさんも一度佐久穂町を訪れて、一風変わった忍者店長のいる新駒書店で、ゆっくり本を手に取ってみませんか。

<店舗情報>

新駒書店

住所:長野県南佐久郡佐久穂町高野町2914

営業時間:木金 11:30 – 16:30  土 10:00 – 16:30

     ※営業時間はSNSでご確認ください

公式SNS:Instagram

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この記事を書いた人

那須あさみ

山口県出身→東京都→栃木県→長野県在住4児の母。日々、子どもたちに翻弄されながらもライターとして活動中。趣味は読書、映画鑑賞、ヨガ。お店も人も自然も、まだまだ知られていない地元の魅力をみなさんにお届けしたいと思います。

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