地図を見て「なぜこんなところにお店があるの?」とつい気になってしまう、そんな経験はありませんか?
今回ご紹介する「生シフォンとパンの店Breadroom」も、まさにそんな「ポツンとパン屋」です。
営んでいるのは、夫ふくすけさんと妻のすずさん。
ご自宅の1階を改装した週2日営業というユニークなスタイルながら、パンの美味しさと、お店を営むご夫妻の温かい人柄は、地域の人々に深く愛されています。
おふたりが作っている美味しいパンと生シフォンは、週末限定でしか味わえない、ここだけの味です。
今回はそんなおふたりに、お店のはじまりから未来の展望まで、じっくりとお話を伺いました。
前編では、ポツンとパン屋の紹介と開店までの経緯についてお聞きしました。
後編では、地元民に愛され続けるパン屋の挑戦とこれからについてじっくり伺っていきます。
地図で発見!岩槻の「ポツンとパン屋」へようこそ
「うちはポツンとパン屋なんです」溢れんばかりのやさしい笑顔で迎え入れてくれたのは、妻のすずさん。
お客さんからも「なんでここでパン屋をやっているの?」と聞かれることも多いそうです。
「実際にGoogleマップを見てお店に来たというお客さんも多いんですよ」とすずさんが話します。

大きな国道沿いから少し外れた川沿いを走っていくと、左に数件の住宅が見えてきます。畑に立ててあるのぼりを目印に左へ曲がるとお店が見えてきました。

ご夫婦で営んでいるこじんまりしたパン屋さんです。
駐車スペースは2台ほどで、持ち帰り専門です。ほかのお客さんが購入している間は、次の方は外で待っていました。
お店は土日のみ、10時30分〜14時30分までの限られた時間だけオープンしています。
扉を開けると、そこはまるで別世界。10種類以上の美味しそうなパンがずらりと並び、訪れる人を幸せな気持ちにしてくれます。

人気No.1のキーマカレーパンは2度揚げされており、ザクザク感がたまりません。


そして、左の冷蔵ケースの中にはシフォンケーキがずらりと並んでいます。

お店ののぼりにも書かれている、米粉で作った生シフォンケーキは、お客さんが必ず買っていく主力商品の1つです。
ご夫婦のこだわりが詰め込まれた、きめ細やかなシフォンケーキは、口の中でとろけるようになくなります。1度食べたらやみつきになること間違いなしの1品です。
取材をしたのは、35度を超える猛暑日のお昼過ぎでしたが、常連のお客さんが2組訪問していきました。
なぜ週2日営業?「無理なく続ける」パン屋さんの形とは
パン作りの世界で13年以上経験を積んだ、夫ふくすけさん。その後ヘッドハンティングをきっかけに転職し、労働環境が改善されたといいます。
パン業界の厳しい労働環境を肌で感じてきたからこそ「無理なく長くパンを作り続けるための最善の選択」を追求してきました。
それは、さまざまなパン屋仲間の話を聞き、ふくすけさんの豊富な経験から導き出した1つの答えです。
開店当初から、ご自宅の1階を店舗にして開業し、営業時間を短縮したスタイルを続けています。
大量にパンを作るのではなく、自分たちのペースで、一つひとつ心を込めてパンと向き合う。
このスタイルこそが、「生シフォンとパンの店Breadroom」のパンを特別なものにしている秘訣です。
ふくすけさんを語るうえで外せない話題が、レシピ本へ記載されたご経験です。
「レシピ本に載ったってすごいことですよね」筆者の問いかけに、ふくすけさんから自然と笑顔がこぼれました。
ふくすけさんの技術や経験は多くの人に認められ、パンのレシピ本に掲載されるという実績になっています。
レシピ本に掲載された生食パンは、予約も受け付けているそうです。

都内や茨城、福島など各地を転々としてきたというご夫婦ですが、なぜさいたま市岩槻に店舗兼自宅を構えたのでしょうか?
「広い土地が欲しかったんです」笑顔で妻のすずさんがお話ししてくれました。
今の土地に出会い、通常のキッチンを2つつなげた特注の工房を作ったそうです。
パン屋さんをはじめるためかと思いきや、意外なことにこの時点でパン屋をするとは考えていなかったそうで、筆者も驚きが止まりません。
まずは週末のパン教室からはじまり、気づけば地元の人に喜んでもらいたいという思いから、自然とパン屋さんをはじめる流れになっていったようです。
夫婦二人三脚でパン作りに挑む
「パン屋ではパンを1人で作ることはないんです。でも自分のお店では成形、焼く、包装、販売のすべてをやる必要があるんですよ」
パン屋に詳しくない筆者に、わかりやすく丁寧に説明をしてくれるすずさん。
通常パン作りは分業で担当していく作業とのことですが、自分たちのお店を持つとなると、また違った苦労がありそうです。
「うちくらいのパン屋の規模でも、作るのは時間がかかりますね」とふくすけさんは話します。
食材の買い出しや仕込みは前日から、当日は朝4時に起きて作業を行っているとのこと。
ご夫婦それぞれの得意を活かし、製造は夫ふくすけさん、包装や販売は妻すずさんが担当しています。
最近では、多忙なふくすけさんに代わり、妻であるすずさんも製造に携わるようになりました。
そして、2025年秋ごろからは、すずさんが主体となってお店を営業していく体制を整えていくそうです。

すずさんご自身は、あくまでも「1人では絶対にやらない」と謙遜されます。
しかし、その言葉の裏には、パンを心待ちにしているお客さんのために、なんとかお店を続けていきたいという温かい情熱が強く感じられました。
これからもご夫婦それぞれのペースを大切にしながら、地域の人々に愛され続けるパン屋さんを築いていくーー。その未来の姿が、私たちにもはっきりと見えてくるようです。
すずさんの新たな挑戦が、このパン屋さんの歴史に新たなページを加えていくことでしょう。
次回【後編】では、地元に根ざしたパン屋ならではの心温まるエピソードやつながり、これからの理想の働き方について詳しくお聞きします。
店舗情報
生シフォンとパンの店Breadroom
住所:埼玉県さいたま市岩槻区大野鳥110-7
営業時間:土日営業 10:30〜14:30