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フード  |    2024.10.30

コーヒーを通じて地域の暮らしに溶け込む喫茶店【きりん珈琲】|大田区蒲田

店主の大原さん

2019年10月にオープンし、人通りが多くない場所にも関わらず、土日はモーニングの時間から夕方まで満席が続く人気店。

JR蒲田駅からは徒歩15分ほど、京急梅屋敷駅からは徒歩10分ほどで、商店街を抜けた静かな住宅街に「きりん珈琲」はあります。

店主の大原明日香さんは、休日もさまざまな飲食店を練り歩くほど勉強熱心。「人の何倍も努力しないと周りに追いつけないから」といいます。とても謙虚でありながら、話が進むにつれて「どんな人の日常にも馴染む場所でありたい」という芯の強さが垣間見れました。

強い思いの源と、地域に愛される秘訣はどこにあるのか、伺いました。

中学生の頃から思い描いていた独立

店内風景
和をコンセプトにしている店内

お店を持ちたいと思い始めたのは中学生の頃。きっかけは大原さんの2人のおばあ様でした。
ひとりは、ご自身で駄菓子屋の経営をしていてお酒も飲み、明るく元気。もうひとりは、仕事はしておらず少し体調をくずしがちで、口調もおっとりとしていた。

「対照的な2人を見ているうちに、幼いながらも『何か仕事をしていたほうが将来も元気でいられるのかな』と感じていました。でも会社員になると定年があるし、長く働くうちに任せてもらえる仕事が変わったり限定されたりすると思っていて。そうなると自営業しかないかなと考えていました」

コーヒーカップときりんの絵

大原さんは岐阜県出身。モーニングの文化が盛んで、喫茶店に家族で行く習慣があったことから、お店を持つなら飲食店がいいと思うようになりました。

高校の進路は「経理関係がわかると楽かな」と考え商業高校へ入学。卒業後は「お店づくりも全部自分でやれたらいいかな」とショップデザインの専門学校へ進みます。

しかし授業の多くは建築士を目指すような内容で、学びたいことの違いにより約半年でカフェの専門学校へ入り直しました。

「クラスメイトはデザインや建築を学んでから来ている人ばかりでした。周りのレベルの高さに『これはプロに任せるべき分野だ』と感じたんですよね。そこから考えを切り替えて、何でも自分でやろうと手を広げるのではなく、飲食を学ぶことに集中しようとなりました

生のコーヒー豆
コーヒー豆は店内で焙煎しています

卒業後はコーヒーショップと居酒屋を掛け持ち。その居酒屋の店長が独立する際、立ち上げメンバーとして働くことになり、移り住んだ街が蒲田でした。

「私がお店を出す時の候補は三軒茶屋とか下北沢とか、あとは地元っていう選択肢もあったんです。でも蒲田で働いているうちに、温かい街だなと感じるようになりました。都心でありながら下町感も兼ね備えていて、いいお客さまも多くて、なごやかだなと。

そんなみなさんのちょっとした拠り所になりたいと思い、独立はこの街にしようと決めました

蒲田の飲食店同士の優しさ

コーヒーカップときりんのマスコット

繋がりが広がっていくうちに、蒲田の飲食店が日常的に助け合う関係性であると感じ、感動しているといいます。

コロナ禍の当時、テイクアウトができる飲食店マップを協力して作ったり、助成金の情報交換をしたりしていた話を聞いたそうです。他にも、定期的に食事会を開催し、持ち回りで各自のお店を利用していたことも耳にしたそう。

蒲田の地域性なのか、同じ業態でもお客さんを取り合うのではなく、みんなで頑張ろうという気持ちが強いと感じます。横の繋がりの広さは蒲田の魅力だなと」

以前、きりん珈琲の設備に不調がでた時のこと。コーヒーミルの調子が悪くなった時、たまたま来店していた他店のスタッフさんが異音に気づいて修理をしてくれたり、お店のミキサーが壊れた時には、他店の店主が使っていないものを貸してくれたりしたそうです。

また、お互いのSNSを見て、大変そうな時に差し入れをし合うことも良くあるそうです。

優しさの連鎖なんでしょうね。助けてもらったぶん人に優しくする。その思いを裏切らないように頑張ろうって、気が引き締まります

他店との共同イベントを楽しむ

日替わりコーヒーとスイーツのメニュー
日替わりコーヒーと、旬の味覚を取り入れたスイーツ

きりん珈琲では、和食店やスイーツ店との共同企画や、福祉施設で作られたアイテムの販売、コーヒー豆の焙煎体験会など、ジャンルを超えた交流や体験会を定期的に開催しています。

自分のお店だけではできることが限られていると考え、コラボレーションのお誘いはできる限り引き受けているそうです。

お客さまにいろいろな楽しい体験を提供できればいいな、と常に思っています。スイーツのメニューを毎月変えているのも、月に1回でもご来店いただければ変化を楽しんでもらえるかなと。

あとは単純に、毎日同じ営業をしてるだけでは私自身が『最近つまんないな』って感じてしまうという理由もあります。友達の誕生日会を毎回開きたい、みたいな感覚ですかね。もしかすると私イベント好きなのかも(笑)」

「みなさんの休憩場所になりたい」

モーニングメニュー
選べるモーニングメニュー。大人気の厚焼たまごサンドは、中に入れるトッピングも楽しめます。

平日(水・木・金)は7時から、土日は8時半からモーニングを提供し、ランチ提供もあり、夜は20時までの通し営業をしています。個人の喫茶店では珍しい長時間の営業ではないでしょうか。

誰でもいつでも立ち寄れるお店にしようと思ったんです。例えば、子育て中の方は朝からバタバタと家事をして、やっとお昼ごろに落ち着けるのかなとか、お昼どきが一番忙しい職業の方は休憩時間が遅いだろうなとか、会社帰りに寄れる場所になれるといいなとか、想像して。

こういう住宅街の中で、地域の人に愛されたら嬉しいな、いろんな人にとってひと息つける場所になれたらいいなと思ったので『もう全部の時間帯をやろう!』と決めました」

きりん珈琲の人気メニュー・たまごサンド
厚焼たまごサンド(明太子トッピング)

朝7時からの営業は大変そう……。そんな心配をよそに、笑いながらも熱を込めて答えてくれました。

「実は最初は8時からにしようかと悩んでいましたが、それは自分が甘えているだけだなと(笑)明け方に出勤している人を見て、8時じゃ遅いと感じました。モーニングをやる理由は、1日の最初に栄養バランスよくお腹いっぱい食べて『よし今日も頑張るぞ』と思ってもらいたいからなんです。だから、できるだけ出勤前に寄れそうな時間設定にしました」

居心地のよさの追求

美濃焼のカップ
大原さんの地元・岐阜県で作られている美濃焼の器

筆者が訪問した日も、ご近所と思われるラフな格好の方々がテーブルを囲んでいました。しっかり地域の憩いの場になっていると感じます。その理由について、ご自身で何か思い当たることはあるのでしょうか。

「難しいですね……でもスタッフと共に大切にしているのは、精一杯お客さまのことを考えて営業しているところです。私にとって喫茶店は、肩の力を抜いて、部屋着でもいいからふらっと寄れる、そういう居心地のよさが大事だと考えています。そのためには、間接的な接客が重要というか。

例えばコーヒーカップ。さまざまなテイストを置いているのには理由があって、『お客さまに喜んでいただけそうなものを』という目線で、お出しするときにスタッフ各自で選ぶようにしています。読書している方には倒れにくいようカップの底が細くなくどっしりしたものを、お客さま同士でお話するためにいらっしゃる方には冷めにくいよう厚みのあるカップを、など。

手書き看板

あとは言葉選びや喋り方、挨拶ひとつとっても不快にしてしまう可能性がありますよね。スタッフの採用も、お客さまを第一に考えられるかどうかで厳選しています。お客さまがお皿を割ってしまったとしても、第一声で『大丈夫ですか、お怪我はないですか』と言える人であってほしいんですよね。

相手が気づかないような細かい部分の接客が『理由はわからないけどここ落ち着くね』っていうところに繋がればいいなと意識しています」

「80歳まで現役」でいられるための選択をする

コーヒーを淹れる大原さん
「撮影しやすいように」と、特別にカウンターでコーヒーを淹れてくださった大原さん

現在、いくつかのコーヒーショップで共同して蒲田での「コーヒーフェス」開催を考えているそう。

「数年前から思い描いていたけれど、手が付けられないままでした。そんな時に繋がりのあるコーヒーショップからお誘いがあり、話が進み始めています」

その先の計画を伺うと、1年後、3年後というスパンではあまり考えず「80歳まで元気に現場に立ち続けること」が人生の目標とのことでした。
楽しめるイベントをその時々で考え、しかし無茶はせず、地に足をつけたスタイルで残りの50年ほどを見据えています。

「ありがたいことに雑誌やテレビの影響でお客さまが増えているのですが、接客やサービスがおろそかになるようでは長く続けられないので。今がよければ、ではなく『これで80歳まで続けられるか』を選択の基準にしています

お店の情報

きりん珈琲
住所:東京都大田区大森西7-7-20
電話番号:03-6424-4275(お客さま専用)
営業時間
 月:定休日
 火:14時00分~20時00分(不定休)
 水:7時00分~20時00分
 木:7時00分~20時00分
 金:7時00分~20時00分
 土:8時30分~20時00分
 日:8時30分~20時00分

土日は満席になることが多いため、お店を訪れる際はぜひ公式LINEでの事前予約をおすすめします。
もしくは来店前に電話でお問い合わせください。


最新の営業時間やイベント情報は、Instagram公式LINEにて更新しております。
きりん珈琲のHPはこちら

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この記事を書いた人

眞嶋 ひとみ

東京都在住|普通だという人でも、誰だって人生にストーリーがある。大切なエピソードをうかがい、読む人の気づきのきっかけを紡ぐ。そんな文章を心がけています。

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