
古代穀物「スペルト小麦」をご存知ですか?
スペルト小麦はパンなどを作る小麦の原種で、栄養価が高いのが特徴です。また、最近の情報によると、グルテンの構造自体が品種改良された小麦とは異なり、胃腸に不調をきたすことが少ないとされています。
「ベーグルが好きすぎて、以前から自分で作っていました。あるとき、原材料を作るところから自分でやってみたいと考えるようになり、興味を持ったのが小麦です」

こぼれそうな笑顔で話すのは、スペルト小麦を使ってパンやお菓子を製造販売している『ふくむぎ』の櫻木純子さん。自分で小麦を生産したいとは思ったものの、スペルト小麦の存在を知ったのは少し後の話だといいます。
今回は櫻木さんに、スペルト小麦を栽培するようになったきっかけや現在の活動内容、今後の展望などについて伺いました。
小麦農家に断られた後にスペルト小麦に出合う

小麦の生産に興味を持った櫻木さんは、自分で自然栽培ができるところを探していました。
「小麦の作り方を教えてほしいと有名な小麦農家さんを尋ねたのですが、『あなたはパンを一生懸命勉強した方がいい』とあっさり断られてしまいました」
当時は農業や小麦に関する知識も経験もなかったため、断られるのが当然だと櫻木さんは言います。その後は残念な気持ちを胸に、友人と一緒に畑を借りて何かの作物をつくろうと考えました。
畑を借りるにあたって色々と探してるときに出会ったのが、長浜市内にある『ばんば楽楽ファーム』です。『ばんば楽楽ファーム』はシェア畑の運営もしていたため、友人と二人で畑を借りることにしたといいます。

「スペルト小麦の存在を知ったのが『ばんば楽楽ファーム』さんでした。最初は100gくらいのスペルト小麦から栽培を始めたそうです。4年の歳月をかけて徐々に増やし、ある業者さんからの依頼もあったので5反分のスペルト小麦を作ることになりました」
5反分のスペルト小麦を耕作するのが大変だからということで、櫻木さんに手伝って欲しいと依頼があったそうです。
「作りたいと思っていたので、『喜んで!』とすぐに返事をしました」
当時は保育園の給食調理師として働いていたため、兼業でのスタートです。しかし、期待を胸に取り組み始めた櫻木さんに待ち受けていたのは、400kgの在庫を抱えるというアクシデントでした。
いきなり400kgの在庫を抱えることに

「業者さんに5反分作ってほしいと言われていたのですが、キャンセルされてしまいまして……ですから、いきなり400kgの在庫を抱えるところからのスタートでした」
400kgの在庫を捌くため、さまざまなマルシェに出店したり、小麦粉を販売したりと奔走したそうです。その甲斐もあり、少しずつスペルト小麦を認知してもらえるようになってきました。
「知人の関係でレストランを経営されている方が大量に購入してくださったので、在庫を売り切れました。そのときに色々な人とのつながりもできて、スペルト小麦をすごく好きになってくれる方が増えたので、結果的にとてもよかったと思っています」
なんとかピンチを乗り越え、スペルト小麦についても少しずつ認知されるようになりました。
保育園を退職しスペルト小麦に専念

スペルト小麦の栽培は自然相手です。ですので、やるべき作業があっても、保育園の仕事を優先しなければならず苦悩したと櫻木さんは言います。そんなとき、畑の師匠から厳しい言葉をかけられました。
「そんな中途半端な気持ちで取り組むのなら、僕がスペルト小麦を栽培するから、あんたらは僕から買って加工して販売すれば?」
しかし櫻木さんには、自分で育ててそれを商品にしたいという強い思いがあったため、自分の手で栽培しなければ意味がありません。
スペルト小麦の栽培に取り組み始めてから3年目の2024年9月、櫻木さんは保育園を退職。『ふくむぎ』としての活動に専念することを決意しました。
スタート時のピンチを持ち前のバイタリティで乗り切り、スペルト小麦に専念しはじめた櫻木さん。このまま順調に推し進められるかのように思われましたが、2025年現在さらなるピンチに見舞われています。
2反分のスペルト小麦が病気で黒く……

麦の収穫時期を迎えた6月、櫻木さんは麦の状態がよくないことに気がつきました。
「雨と湿気の影響で、穂が黒くなってしまって……作っていた5反の内2反分は明らかによくない状態でした。残りの3反分も一応刈り取ったのですが、現在は乾燥中でどのようになるのかわからない状態です」
スペルト小麦は穂の殻が厚いため、表皮だけの問題である可能性も考えられます。詳しくは今後検証するとのこと。無農薬での栽培にこだわっているため、今後もこのような問題は起こり得るかもしれません。

櫻木さんは、今回の出来事でスペルト小麦を作ることの難しさを思い知ったと言います。しかし、それでもスペルト小麦にこだわる理由がありました。
「私にとってスペルト小麦は新しい出会いと世界を作ってくれて、私の人生そのものになっていることに気づきました。ですので、またみなさんに幸せを、エネルギーを感じてもらえるものを届けたいと思っています。何年かかるかはわかりませんが、これからも続けていきたいです」
今後も農薬を使わず、自然栽培に挑戦していく強い意志と櫻木さんのエネルギーを感じます。
マルシェや直接販売でファンが急増中

『ふくむぎ』の商品はスペルト小麦を使ったベーグルやパン、クッキー、シフォンケーキ、スコーン、ランチボックスなど。また、小麦粉の販売も行っています。
商品を購入できる場所は、地域のマルシェや直接販売、彦根市の地域循環型未来食堂『みんなの食堂』などです。また、月に数日間のベーグルデーを設けています。店舗を持たない販売形態のため、公式LINEで発信して手渡しでの販売です。遠方の方には郵送での発送も可能とのこと。
『ふくむぎ』一番のファンという中川さんは「プレーンのベーグルが好きで、冷凍している在庫が無くなったら本当に困ります」と熱く語ってくれました。さらに「小麦粉もおすすめ。あと、シフォンケーキも」と、推し活に余念がありません。
櫻木さんの人柄や陰の努力が自然と伝わる、優しい美味しさです。一度食べると感動して忘れられなくなり、ファンが急増中とのこと。
いつの日かスペルト小麦のビールを作りたい

「今回のように、一気に病気になる可能性もあるので、場所を変えて試験的に栽培してみようと思っています」
現在は長浜市内でスペルト小麦を栽培していますが、彦根市に隣接する多賀町でも栽培予定とのこと。多賀町では農業活動を経てさまざまなつながりがあり、すでに農地を借りる予定もあるといいます。
「中山間地帯である多賀の自然のなかでスペルト小麦を育てられることが楽しみです」
櫻木さんは多賀での栽培に期待を膨らませると同時に、スペルト小麦自体にも大きな可能性を感じているとのこと。
「麦茶にしたりお好み焼きにしたりしても美味しいです。麦茶としてお茶を取った後に食べてもプチプチした食感を楽しめます。いつか、スペルト小麦のビールも作りたいですね」
多賀町にはクラフトビールを醸造している『くにうみ醸造所』があり、農業関係でつながったとのこと。櫻木さんの夢は広がります。いつか、スペルト小麦のフルコースを楽しめる日が訪れるかもしれません。
櫻木さんは言います。
「to be continued……」
『ふくむぎ』詳細情報

『ふくむぎ』の詳細情報は以下をご覧ください。
主な商品

- ベーグル
- シフォンケーキ
- アーモンドクッキー
- フィナンシェ
- ランチボックス
- 小麦粉
- 麦茶
- ほか多数
注文・出店情報

出店情報や商品の情報はInstagramをご確認ください。また、ご注文は公式LINEから可能です。
- Instagram:fukumugi_2022
- 公式LINE:ふくむぎ