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フード  |    2025.08.05

小谷村「紀柳(きりゅう)」|温もりあふれる古民家で味わう、釜戸炊きご飯と故郷の恵み

長野県北部に位置し、豊かな自然が息づく小谷村。JR大糸線「南小谷駅」から徒歩5分、また隣接する白馬村から車で約20分ほどの場所に、日本の原風景を思わせる懐かしい香りが漂う場所があります。

築およそ300年の古民家を大切に受け継ぐレストラン「紀柳(きりゅう)」。ここでは、古き良き暮らしの知恵や、温かな記憶が今も息づいています。


この記事では、心落ち着く古民家の雰囲気、釜戸炊きご飯と地元食材を丁寧に仕上げる料理、そしてそれらを支える店主の温かい想いを通して、小谷村「紀柳」の魅力をお伝えします。

「紀柳」とは? 受け継がれる故郷の温もり

「紀柳」は、店主の西澤紀子さんがご自身の父親が生まれ育った実家をリノベーションしてオープンした体験型古民家レストラン。釜戸を使った炊飯体験と地元食材をふんだんに使用した丁寧な食事が人気です。

西澤さん自身もこの古民家で生まれ育ち、小学校に上がる前までを過ごしました。土砂災害により一度は家族で村を離れましたが、その後、再びこの場所に戻るきっかけが訪れます。

お店を開くきっかけは、この家を大切に管理されていた叔父様の他界でした。家を手放すかどうか悩む中、土蔵を両親と片付けていたところ、かつて婚礼などで使われたという漆塗りの食器を見せてもらったといいます。真綿で丁寧に包まれ、大切に保管されていたその美しい姿に西澤さんは心を奪われました。

「昔はこうやって食べていたんだよ、というのを伝承したいと思ったんです」と西澤さん。また、お父様にとって大切な場所を守りたい、小谷村に息づく暮らしの文化や、先人たちの知恵を次世代へ繋ぎたいという願いから、飲食店で働いた経験を活かし、レストランを開くと決意しました。

「まさかこの地で自分がお店をやるとは思っていませんでした」と西澤さん。かつて人が集まる家だったこの場所に、再び活気が戻る姿を、「人が好きだ」というお父様に見せてあげたい、という胸に秘めた思いもあるのだそうです。

「実家のような」温もりと記憶が息づく空間

店舗は、古民家をリノベーションした趣のある空間が魅力です。お客様には「実家に帰ったような感じで、とにかくゆっくり過ごしてほしい」と西澤さんは願っています。

店内では、小鳥のさえずりや近くを流れる姫川のせせらぎなど、自然の音色がより心地よい空間にしてくれます。心が整うような時間を過ごしたい方や、日本の伝統的な生活や文化に触れてみたい方にも、心ゆくまでこの空間を楽しんでいただけるはずです。

炎の恵み。釜戸炊きご飯の魅力とは

提供される食事の大きな魅力は、何と言っても釜戸で炊き上げるご飯です。現代の暮らしではなかなか触れる機会のない釜戸。伝統が息づいたこの場所ならではの体験です。

「粒がしっかり立っていて、何よりおこげの香りがご飯全体を包み込むんです」と西澤さんは語ります。釜戸で炊き上げたご飯は、ふっくらとしながらも心地よい弾力のある仕上がり。

炊き立ての釜蓋を開けた瞬間の、あの何とも言えない香りは、食欲をそそるだけでなく、どこか懐かしい気持ちにさせてくれます。

使用するお米は、大切に選ばれた2種類。小谷村百姓七人衆の「ゆめしなの」と、木島平村産のコシヒカリです。特に「ゆめしなの」は、小谷村のブランド米。「この土地でしか味わえないものを味わってほしい」という願いが込められています。

また、もう一つの木島平村産コシヒカリは、西澤さんが長年食べてきて「美味しい」と実感している、ご縁のある農家さんから仕入れているといいます。

手間暇を惜しまない、体に優しいメニューへのこだわり

漆器の器をお膳で提供する食事7,500円(税込)
陶器の器をお盆で提供する食事 3,500円(税込)

メニューのこだわりは、「ご飯をメインに召し上がっていただきたい」という西澤さんの想いに集約されます。釜戸飯の美味しさを引き立てるように添えられるのは、素朴ながらも滋味深い「おばんざい」の数々。

この日のメニューは、地元食材を使ったふき味噌、焼きナスの胡麻甘酢和え、信州サーモンの香草焼き、プチトマトのシロップ漬け、自家製大豆で仕込んだ味噌を使用したお味噌汁等をいただきました。(※季節によりメニューは異なります)

「無添加で、作り置きはしません。裏山で採れた新鮮な自然の恵みを使っています」と、そのこだわりを西澤さんは話します。春は特に忙しい時期で、山菜などを採取し、茹でて干し、使うときにまた茹でるなど、多くの手間をかけるといいます。「一つも無駄にできない、そんな気持ちです」という言葉からは、食材への深い敬意と、昔の暮らしの知恵が息づいているのが伝わります。

店主の想い、そして「紀柳」が紡ぐ人との繋がり

お店を立ち上げる道のりは決して楽なことばかりではありませんでした。特に大変だったのは、自らの手で改修を進める中で、金槌(かなづち)一つにしても道具の使い方がまず分からなかったことだといいます。しかし、「自分の手でやりたい」という強い想いがあったため、お父様から一つ一つ道具の使い方を教わったのだそう。

リノベーションでタンスを階段から降ろすとき、若い力が無い中、お父様が木とロープを使って巧みに降ろす様子を見て「昔の人の知恵に触れたことが感動でした」と当時を振り返ります。

「思いだけで走ってきたので苦しいと思う瞬間もありましたが、楽しさに変わっていきました」と笑顔で語る西澤さん。買い出し、山での食材採取、料理、そして店内を飾る花まで、一人でこなす日々は多忙を極めます。それでも、「楽しんでやろう」という前向きな気持ちが、彼女を支えています。

そして何より、「紀柳」を支えるのは、お客様との温かい交流です。「本当にお客様に恵まれているんです」と西澤さんは目を輝かせます。

2023年9月のオープン時に県外から訪れた女性客は、1週間の滞在中に2度もお店に足を運んでくれたそうです。「この食事をいただくと涙が出る」と話してくれたそのお客様が数ヶ月後の春、友人を連れて再び訪れたことに、西澤さんは深く感動したといいます。

「やっててよかった、また次もやろうと思える」お客様からの喜びの声が、お店を続ける温かい原動力となっています。

小谷村と共に、これからも

西澤さんは、今後の展望について「国内外問わず多くの方に来てほしい。小谷村でこういう体験ができるんだと認知されてほしい」「つながりを大切にしたいです」と語ります。

そして、最後に添えられたのは、小谷村への想いでした。「おこがましいけれど、もっともっと村が元気になってほしい。そういうお手伝いができればいいなと」。お父様もまた、「もっと小谷村が良くなってほしい」と常に願っているといいます。

「紀柳」は、ただ食事を提供するだけでなく、古民家が持つ歴史、釜戸が伝える温もり、そして西澤さん親子の故郷への愛情が込められた、唯一無二の場所です。小谷村の豊かな自然の中で、心安らぐひとときを過ごしに「紀柳」へ、ぜひ足を運んでみてください。


紀柳
  • 住所: 長野県北安曇郡小谷村大字千国乙10490
  • 最寄り駅: JR大糸線「南小谷」駅から徒歩約5分
  • 交通: 白馬村から車で約20分
  • 電話番号: 0261-88-0885
  • 営業時間: 11:00〜16:00 (月曜のみ〜14:00)
  • 定休日: 火〜木曜
  • 価格:
    • 釜戸炊き体験+陶器の器をお盆で提供する食事 3,500円(税込)
    • 釜戸炊き体験+漆器の器をお膳で提供する食事 7,500円(税込)
  • その他: 12月〜3月は冬季休業。上記体験コースは前々日14時までに要予約。釜戸炊き体験ではお米を2種類からお選びいただけます。(※状況によりご希望に添えない場合もあります)
  • 公式Instagram: https://www.instagram.com/kamado_meshi_kiryuu/

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この記事を書いた人

水田やきいも

【ライター】長野県在住、自然が大好きな2児の母です。体験したことを分かりやすい文章で伝えることを得意としています。「読んだら行ってみたくなる」そんな発信をしていきます。好きな食べ物は餅と餃子。

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