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スポット  |    2025.10.06

「人生にひとしずくのうるおいを」|ちゃぶ台のある本屋さん「本・ひとしずく」【前編】

軒先の赤いのれんをくぐると、ちょっと不思議な本の楽園が。

現代的なエッセイや小説、ユニークなリトルプレスがずらりと並んだ棚は、「どんな本があるんだろう」と好奇心をくすぐる光景。どこか懐かしい雰囲気と思いがけない一冊との出合いに、自然と心が弾みます。

瀬戸の商店街をぬけたその先にある「本・ひとしずく」は、築100年の古民家を改装した町の本屋さん。店主の田中綾さんはまったくの未経験から、40代でこのお店を開きました。オープンから4年たった今は、「ブックマルシェ」を始めとするイベントや展示会も積極的に開催しています。

この記事では綾さんのインタビューを通じて、人と人、人と地域をつなぐ「本・ひとしずく」の魅力を紹介していきます。

オープンまでの道のり

店主の綾さん。ふんわりとした笑みとリラックスした佇まいが、心を和ませます

「『寿命の半分がきちゃった』と思ったんです」

当時、10年以上専業主婦をしていた綾さん。

「人生半分きたのに、妻とか母とかそういう肩書しかなくて…。”田中綾”として何かしないと、自分という存在が死んでしまうと思って」

そう言って笑う綾さんは、自分の存在意義を改めて考えるようになったそう。

「家族のための自分はいるけど、私のための私っていなくて…。母でもなく妻でもなく、私として何かがしたかった。それが社会復帰を決めた理由です。社会の一員として認めてもらいたかったし、外とのつながりも欲しかった」

「私は私として認めてもらいたい」専業主婦の人であれば、誰もが一度は思うのかもしれません。

こうして雑貨屋さんで働き始めた綾さん。実は昔から自分でお店をするのが夢だったと語ります。

「20代のころからお店をやりたかったんです。でも、そんなこともずっと忘れてて…。『そういえば雑貨屋さんとかカフェとかやりたかったんだ』って思いだして、お金をもらいながら修行できると思って雑貨屋で仕事を始めました」

そう明かす綾さんでしたが、実は本屋は候補になかったそう。

「本は好きだったけど、業界の仕組みが複雑なようだったし、始め方もまったく分からなかった。そう思うと、雑貨屋さんやカフェの方が働いたこともあり、身近で想像しやすかったんだと思います」

それがなぜ本屋さんになったのでしょう。

「子どもが大きくなってから本を読む時間が取れるようになったんです。それでもう一度、好きだった本を手に取って読み直しました。そうしたら『本ってやっぱりいいな』って」

穏やかに話す綾さんは、大学では図書館学を学び、図書館司書の資格も持っています。

本好きな綾さんがセレクトしたとっておきの一冊たち

「本って、読むときによって感じ方が違うじゃないですか。『モモ』って本があるんですけど、昔は冒険物語だと思ってたんです。でも、大人になって読んだら全然違って…。時間どろぼうに時間を盗まれた人たちは、あくせく働くことを強いられてしまうという話だった。その本を読んで私も残りの人生について深く考えるようになり、せっかくなら自分の好きなことをしようと決意しました。その時『そうだ本屋だ!』ってひらめいたんです」

その後、綾さんは雑貨屋をやめ本屋の道へ。まったくの未経験からどのように本屋をオープンしたのでしょうか?

「『これからの本屋読本』という本に、本屋のノウハウが書いてあって。著者の方が名古屋でトークイベントをするのを知って、会いに行きました。そこで『営業代行(色々な出版社の本を持って、色々な本屋をまわる仕事)が良いよ』とアドバイスをもらって、出版社の営業代行の仕事を始めたんです」

本屋だけでなく、営業も未経験だった綾さん。雇用される時は「本ならやれる」と熱意を伝えたそうです。

「それと同時に瀬戸市の起業塾に入って、その関係の方に物件をいくつか紹介してもらったんです。その中で紹介された物件のひとつがこの古民家で、一目ぼれしちゃいました。この古い建物の感じが、当初やりたかった古本屋にぴったりだと思ったんです」

しかしながら当時はコロナが大流行する直前。一時は保留にしてもらったものの、いつまでも変わらない状況に開業を決意したそうです。

引用:公式Instagram

その後、クラウドファンディングで資金を集め、2021年5月2日に「本・ひとしずく」をオープン。「ひとしずく」という店名には「毎日の生活に『ひとしずく』のうるおいを届けたい」という綾さんの想いが込められています。

店内の様子

壁一面の棚には現代的なエッセイや小説、ユニークなリトルプレスがずらり。どの本も手に取って読めるようになっています。

話題の雑誌「新百姓」の姿も。限定888部刷られた創刊0号は即完売、3,000円と高額ながらじわじわとファンを増やしている雑誌です。

個性的な装丁のZINEは壁に飾って。気軽に読めるのに、自分だけの一冊が見つかるのもZINEの醍醐味でしょう。

こちらは絵本コーナー。古本と新刊がほどよく混じり、床に座って読めるようになっています。店内には小さなお子さんを連れたママやパパの姿も見かけました。

パレスチナ問題や戦争を扱った書籍コーナー。ページをめくるたび、遠い国の出来事が世界の現実であることに気づかされます。

店内の一角にある「ひと箱本屋さん」。30センチ四方のスペースに並ぶのは、棚主さんたちが選んだとっておきの一冊。憧れの本屋さんの店主になるという、ささやかな夢が叶う場所です。

本のカバーを隠し、内容のキーワードだけを記した「ないしょ文庫」。直感で選んだ一冊が、特別な一冊になるかも?表紙には、お店のイメージキャラクターでもあるしずくちゃんのイラストが描かれています。雨の中でも本を読むほど本好きなしずくちゃんに、子ども時代の綾さんの姿が重なります。

本・ひとしずく

築100年超の古民家を改装し、2021年5月にオープン。新刊、古本、絵本、リトルプレスのほか地元瀬戸市ゆかりの作家作品や本関連の雑貨も取り扱っている。

2023年1月からは2階をレンタルスペース「ふたしずく」として開放し、地域の作家による展示会や本関連イベントなども開催。「せとまちブックマルシェ」などのイベントも多数行っている。 

2025年11月15日(土)・16日(日)には「国際芸術祭あいち2025 灰と薔薇のあいまに」の連携企画として行われる「瀬戸 まちなか本の市」にも参加。近くの商店街では、フリーマーケット形式の古本市「せと末広町 本のさんぽみち」も開催される。

「本・ひとしずく」では「せとまちブックマルシェ 〜ZINE づくりspecial!〜」として、ZINEを自分で作るためのワークショップやトークイベントを多数開催予定。詳しくは公式HPにて。

後編はこちら

「人生にひとしずくのうるおいを」|ちゃぶ台のある本屋さん「本・ひとしずく」【後編】

住所:愛知県瀬戸市陶生町24(名鉄瀬戸線「尾張瀬戸駅」から徒歩約10~15分)

営業日:木〜日 10:00〜16:30(祝日も営業/月・火・水曜は定休日)

駐車場:近くの宮川駐車場が利用可能

公式Instagram

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この記事を書いた人

Risa Suzuki

豊田市生まれ豊田市育ち、フリーライターのrisa suzukiです。 その人・お店だけが持つ魅力を引き出しながら、「会ってみたい!」「行ってみたい!」と思えるような記事をお届けします。 Mediallでは豊田市近郊のナンバーワン・オンリーワンスポットをご紹介。 地元民だからこそ知るステキな人・お店の情報を発信していきます。 イベント取材、インタビューなども柔軟に対応するので、お気軽にご相談ください。

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