地方創生メディア  Mediall(メディアール)

オンリーワン・ナンバーワンがそこにある 応援の循環を作る 地方創生メディア

スポット  |    2025.11.06

新たな事業継承の形を、網干から「本と酒 鍛冶六」【前編】|兵庫県姫路市

兵庫県姫路市網干(あぼし)にある「本と酒 鍛冶六」は、もともと金物店だった建物を改装したお店だ。

「前身である金物屋の意志を受け継ぎたい」「地域に根付いたお店にしたい」との思いで、同市出身の店主・濱田大規さんが、2023年5月にオープンした。

一見すると異色な組み合わせにも思える「本」と「酒」。どのような思いで営業しているのか。開店までの経緯、本や酒へのこだわり、今後の展望について話を伺った。

慣れ親しんだ地で想いを受け継ぐ

大学進学を機に東京へ行き、就職をした濱田さん。飲食店でマネージャーをしていたが、20代後半に生まれ育った姫路市にUターンした。

「幼なじみの父が『網干の商店街の建物を買った。だから帰ってきて、ここで何か商売せんか?』と言ってきたんです。急な話だったので驚いたんですが、悩んだ結果Uターンすることにしました。数年後、その建物の隣にあった鍛冶六を改修、再生するプロジェクトが始まったのを機に独立し、現在に至ります。

昔ながらの商店街に活気がなくなってしまっているのは、他の地域でも起こっている事態だと思います。網干は高校時代を過ごした町で馴染みもあったので、それを寂しく感じていました。商店街の街並みや今ある建物を残しつつ、新しい事業を始めるのも面白いんじゃないか。それが新しい形の事業継承なんじゃないか。そういう思いで『本と酒 鍛冶六』をオープンさせました」

昔からあるものを受け継ぐ想いは、建物だけでなく店名にも派生した。『鍛冶六』はもともと、明治時代から続く金物屋の屋号だったという。

「店名は『鍛冶六』一択でした。昔から馴染みのある方にも覚えていただきやすいですし、お店の建物は一部改修しましたがほぼそのままなので、地域の方々に認識していただきやすいと思ったんです。何より僕自身『鍛冶六』の名前の響きや字体がかっこよくて好きだったので、このまま使いたいと思っていました」

その想いを、不動産屋経由で金物屋時代の『鍛冶六』最後の所有者さんに伝えたところ、快く承諾してもらえた。

「電話で名前や建物をそのまま使わせてほしいと伝えました。すごく喜んでくださり、僕も嬉しくなりました。金物屋の閉業後も残っていた、家紋入りの提灯も譲ってくれました。今は本棚の上のディスプレイとして使っています」

世界が広がる感覚を体験してほしい

店内に並ぶのは、本と酒。この二つを選んだのにも理由があった。

「本もお酒も、嗜好品なんですよね。本を読まなくても生きていけるし、お酒を飲まなくても生きていける。人生になくても、問題なく生きられるんですよね。だからこそ、すごく魅力的だとも思うんです。

本を読んで、頭の中で物語の情景を浮かべたり、その人の言葉遣いにも影響が出たり。お酒を飲んで、ちょっとした味の違いに気づいたり、蔵元に興味を持って足を運んでみたり。どちらもなくても生きられるけれど、あると人生が豊かになると思うんです。自分自身、本とお酒のおかげで世界が広がったと実感しているので、この二つを取り扱うと決めました」

濱田さんの想いが込められたラインナップだが、同時に難しさも感じているという。

「本とお酒、両方好きな方が多いと思っていたんですが、実際はそうでもなかったです。本が好きな方は本しか買わないし、お酒が好きな人はお酒しか買わない。両方を求めて来店してくださる方もいらっしゃいますが、まだまだ少数です。僕としては両方味わうことの奥深さを感じてほしいと思っています。どちらにも魅力を感じて楽しんでいただけるような空間を作るのが、鍛冶六の課題であり、使命でもあると考えています」

熱意ある酒蔵のお酒を鍛冶六で

鍛冶六の店内に入ると、地下に続く階段が。降りるとそこには、店主選りすぐりのお酒が並んでいる。

前職の飲食店勤務時代から、お酒の販売業をやってみたかったという濱田さん。姫路は日本酒の酒どころであるため、地元の老舗酒屋とは違った品揃えにしたいと考えていた。

「酒どころの地域の分、他店との差別化が想像以上に難しかったですね。近くのお店には姫路の地酒が必ず置いてありますし、同じものを置いてもあまり意味がないと感じていました。できるだけ違うものを仕入れようと全国の酒蔵に電話したのですが、うちが小さいお店なのでなかなか難しく……。それでも諦めたくなかったので、必死に問い合わせを続けていました」

そんななか出会ったのが、佐賀県のとある酒蔵だった。電話口で対応してくれたのが偶然、その蔵の社長だったのだ。

「『とりあえず、佐賀においでよ』と言われ、すぐに行きました。姫路から佐賀までのアクセス方法や立地のいいホテルも教えてくれ、行く前からすごく親切にしてくださったんです。現地で一緒にご飯を食べながら蔵のお酒を飲ませていただき、翌日はせっかくだからと佐賀の他の酒蔵も紹介してくださり。すっかりファンになって姫路へ戻ってきました。

その後、社長も鍛冶六に来てくださいました。お酒の売場が小さいので取り扱いは難しいかもと思っていたのですが、店の雰囲気を気に入ってくださっていました。結果、快く取引してくださることになり、翌週には商品が送られてきました。それが酒蔵との記念すべき最初の取引となりました」

電話やメールのように実際に会わなくてもコミュニケーションが取れてしまう時代。しかし対面の方が想いや熱意が伝わるし、その後の関係性も続きやすいと濱田さんは言う。

「その社長とは、今でも年に2回は会います。お酒を交えながら、蔵やお酒について話を聞くのがとても楽しいですね。やはり実際に会う方が、表情や仕草からその方の想いが感じられやすいので、こちらとしても『この蔵のお酒を広めたい』という想いが強くなります」

気になったお酒は店内で立ち飲み可能。気軽に角打ち(かくうち)できるのは、嬉しいポイントだ。

一人でじっくり味わうもよし、居合わせた誰かと話してみるもよし。まるで秘密基地のような空間で、お気に入りの味を探してみてはいかがだろうか。

【後編】では、選書のこだわりやシェア型本棚、今後の展望について伺う。

後編はこちら

新たな事業継承の形を、網干から「本と酒 鍛冶六」|兵庫県姫路市【後編】

本と酒 鍛冶六

住所:兵庫県姫路市網干区新在家644
営業時間:平日 10:00~17:30
     土日祝 10:00~19:00
公式ホームページ:https://kaji-roku.com/

※最新情報はSNSよりご確認ください。
Instagram(酒店)Instagram(書店)X

記事をシェアする

この記事を書いた人

川端 彩香

関西出身、関西在住のフリーライター。 関西ならではのアレコレを、熱量を持って伝えます。 好きな作家は森見登美彦。趣味はスタバのストアスタンプ集め。特技は積読。 毎週土曜のお昼は吉本新喜劇(推しの座員は昔から辻本茂雄)。

関連記事