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スポット  |    2025.11.06

新たな事業継承の形を、網干から「本と酒 鍛冶六」|兵庫県姫路市【後編】

兵庫県姫路市東部に位置する網干(あぼし)。「前身である金物屋の意志を受け継ぎたい」「地域に根付いたお店にしたい」との思いで、同市出身の店主・濱田大規さんが、2023年5月にオープンした。

後編では、選書のこだわりやシェア型本棚、今後の展望について伺った。

前編はこちら

新たな事業継承の形を、網干から「本と酒 鍛冶六」|兵庫県姫路市【前編】

鍛冶六ならではの本のラインナップ

店内の棚には、書籍がぎっしりと詰まっている。店内1階にある本は、濱田さんの母の知人から譲り受けたものと、「棚子」さんのものだ。

「母の知人が『家の整理をするので本をもらってほしい』と言っていると聞いたんです。大切に読んだ本だから売ったり、捨てたりするのは忍びない。だから必要な人がいるなら譲りたい、と。それで、有り難くいただくことにしました。数千冊と、想像以上の量に驚きましたが、文庫本や専門書など、自分では選べないような本が集まりました」

大量の蔵書を手に入れたものの、ラインナップにもう少し幅を持たせたかった。

「何がいいか考えて模索していたときに、シェア型書店の存在を知りました。前身の金物店で使用していた棚もそのまま使えるし、棚ごとに選書の個性がでるので面白いなと思い、導入を決めました」

鍛冶六ではシェア型書店の店主を、店子ではなく「棚子」さんと呼んでいる。棚子さんの職業、年齢、居住地はバラバラで、濱田さんの狙い通り個性のでる棚ばかりだ。

「棚子さんそれぞれの個性を発揮してもらいたいので、月に一度はメンテナンスに……のような縛りや決まりは設けていません。2ヵ月に一度、棚子会議を行っているくらいです。知らない世界を広げてもらうために、各々好きな本を紹介してもらう時間も設けています」

店内に入ってすぐ、ミシン台がある。その上には、棚から飛び出した棚子さんおすすめの本が置かれている。

「『棚子さんのおすすめ本コーナー』なんです。鍛冶六のスタッフが毎回テーマを決めるので、それに沿った本を各々持ってきてもらいます。今回は「そば」がテーマです。過去には眼鏡や水がテーマになりました。同じ言葉でも人によって捉え方が違うので、選書された本を『なるほどなぁ』と面白く見ています。まさに、世界が広がる感覚です」

スタッフさんが決めるテーマも、縛りやルールはない。その分、自由な発想がでてくるので面白いのだという。

宝探しのようなワクワク感を

書籍は2階にもあり、濱田さんやスタッフさんが選書した新刊書籍が並んでいる。

「以前勤めていたスタッフがエッセイ好きだったんです。それがきっかけでエッセイを中心に、新刊を出版社から直接仕入れるようになりました。それまでエッセイはあまり馴染みがなかったのですが、そのスタッフの影響で読み始めたらハマってしまって。今は僕が選書していますが、当初と変わらずエッセイが多めです」

商業出版の書籍だけでなく、自主制作のZINEも多く取り揃えている。

「鍛冶六に来るお客様には、宝探しのような感覚で本を見てほしいと思っています。今まで出会ったことがないような本を見つけてもらって『読んでみようかな』と手を伸ばしてもらえたらと思っています。新しい発見って、いつになってもワクワクするものだと思うので、その感覚を鍛冶六で味わってほしいです」

「鍛冶六だから」と言われる存在になりたい

WEB上であらゆることが完結できてしまうようになった今。「実店舗の必要性や存在意義が問われている」と濱田さんは言う。

「本もお酒も、オンラインで購入できます。そんな中でも『鍛冶六で買いたい』『鍛冶六の選ぶものなら間違いない』と思ってもらえるかが大事だと思っています。そう思ってもらうために、店内・店外問わずにお客様を楽しませるイベントもやっていきたいですね」

無事に2周年を迎えた今年。早くも来年の3周年に向かって、ある企画が動き出している。

「鍛冶六のZINEを製作中です。以前から本を作りたいと思っていたのですが、勝手がわからずどうしたらいいか悩んでいました。そのことを取引している出版社の方に相談したら、お手伝いいただけることになったんです。棚子さんにも文章を書いてもらって、インタビューや対談も入れて……と考えています。本とお酒のお店なので、プロの作家さんの読み物や、姫路のブルワリーさんの話も入れる予定です。創刊なので、気合い入れて作ってます!」

今後に向けてどんどん突き進んでいく姿が印象的な濱田さん。その根底にあるのは、地域を盛り上げたいという思いの強さだ。

「昔の建物が潰されて、空き地になって……というのは、馴染みのない地域で見かけてもどこか寂しい気持ちになります。できれば今ある建物をどうにか活かして、地域の方々に愛される場所を作れないかと常に思っています。

この数年で、鍛冶六のように昔の建物を改装した雑貨店やカフェが周辺に増えてきました。時間はかかると思いますが、同じような取り組みが広がればいいなとも思います。

自分だけでできることには限りがあります。同じ想いを持つ方々と協力しながら網干の地域を盛り上げていきたいです。そして、地域の方々に『鍛冶六が街になくてはならない存在』だと思ってもらえるようになれるのが理想です」

地域を盛り上げたいという、濱田さんの熱意が伝わる「本と酒 鍛冶六」。前身の金物屋の背景を受け継ぎこだわりが詰まった店内で、本とお酒を通して世界を広げてみてはいかがだろうか。

本と酒 鍛冶六

住所:兵庫県姫路市網干区新在家644
営業時間:平日 10:00~17:30
     土日祝 10:00~19:00
公式ホームページ:https://kaji-roku.com/

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この記事を書いた人

川端 彩香

関西出身、関西在住のライター。 好きな作家は森見登美彦。趣味はスタバのストアスタンプ集め。特技は積読。毎週土曜のお昼は吉本新喜劇(推しの座員は昔から辻本茂雄)。

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