
移住先・静岡県浜松市で感じた孤独。そんな日々を変えたのは、クラフトコーラ作りを通じた地域との出会い。“好き”が、居場所と自信をくれました。
結婚や転勤など、さまざまな事情で知らない土地へ引っ越した経験のある人は、少なくないでしょう。
家族や友人と離れ、知る人がいない土地で暮らすことは、孤独に感じることもあるはずです。
今回お話を伺った内藤愛理さん(ないとうえりさん、以下愛理さん)もその1人。
結婚を機に愛知県から静岡県浜松市へ移住し、知っている人、頼れる人は夫しかいない生活が始まりました。
そんな愛理さんは、現在、言語聴覚士として働きながら、浜松クラフトコーラを販売する「カカワルストア」の店長を務めています。
移住当初は、孤独に感じることも多かったと話す愛理さん。
しかし、自分の好きなことを楽しんでいるうちに、自然と地域との関わりが増えていったそうです。
愛理さんの移住ストーリーから見えた、地域との関わり方。
「カカワルストア」店長という役割は、愛理さんにとって浜松市で暮らしていく自信に繋がりました。
移住先で地域との関わり方に悩んでいる方、何か挑戦してみたいけれど躊躇している方、そのような方にとって本記事が今後のヒントになれば幸いです。
※本記事の内容は、2024年11月18日取材時の情報です。
新天地「浜松市」での戸惑いの日々

取材を通じて印象的だったのは、愛理さんが移住直後に感じていた孤独でした。家族も友人もいない土地で、日常の小さな不安が積み重なっていたそうです。
浜松市へ移住することに抵抗はありましたか?
正直なところ、乗り気ではありませんでした(笑)結婚するとなったとき、夫が浜松市で事業を始めて安定してきた頃で、浜松市へ一緒に来てほしいと言われました。
住み慣れた町を離れ、家族や友人とも気軽に会えなくなってしまうし、仕事も変えなければいけない。また、将来のことも考えました。これから出産するとして、産後は何かと頼りたいこともあると思います。やはり、頼れる家族が近くにいないことが不安でしたね。
だからこそ、「何年か後に愛知に帰ると約束してほしい」と夫に伝えました。
「今はっきり年数はわからないけれど、子どもが小学校に上がる前には戻れるように仕事を頑張るね」と夫から言われ、数年なら我慢しようと思ったんです。
そして、2023年2月に浜松市へ引っ越しました。私は、4月に新しい職場で働き始めたため、一気に環境が変わりました。
家族や友人が近くにいないと、精神的に大変でしたよね。
心の拠り所みたいなものが夫だけになってしまって、辛かったですね。
近くのスーパーや病院、それさえもわかりません。毎回どこに行こうか調べて、帰り道もわからないから、また調べるという感じでした。引っ越しを経験した方はわかると思いますが、小さいストレスが積み重なっていきました。
一番精神的に堪えた出来事が、引っ越して2か月後くらいのゴールデンウイークにあった浜松市のお祭りです。地元のお付き合いで行くことになり、夫は仕事のため、私1人で行きました。
私自身、そのような雰囲気に飛び込める性格ではあったのですが、誰も知らないところにポツンと1人というのは辛かったです……。私のなかで我慢していたものがプツンと切れて何もできなくなり、3日間くらい実家へ帰ることにしました。
ある程度元気にはなったのですが、そのとき、自分だけの居場所が必要だと気づきました。私は私でいられる場所がほしくて、夫の妻として生きていくことが私を苦しめていたんだなと。
そこから何か行動されたんですか?
そうですね。愛知県にいたころから一人飲みが好きだったため、自宅近くで1人で飲めるお店を探してみました。
そこから自然と交流が広がって、浜松市での生活を楽しめるようになってきました。
「地域の人と仲良くしなくてはならない」と思うと気疲れしますが、自分の好きなことで広がった交友関係は、移住前と同じ自然体な自分でいられると思います。
出会うべきときに出会った、中田島砂丘マルシェの砂おじさん

転機となったのは「砂おじさん」との出会いでした。愛理さんの“好き”が、このマルシェでの縁を引き寄せたように思えてなりません。
浜松クラフトコーラ作りに参加したきっかけを教えてください。
きっかけは「砂おじさん」こと、松下さんとの出会いです。砂おじさんは夫の知り合いで、中田島砂丘マルシェの主催者でした。
中田島砂丘マルシェは、遠州灘海浜公園・風車公園という、浜松市の観光地である中田島砂丘に1番近い公園で開催されています。夫はそのマルシェを手伝っており、私も遊びに行くようになりました。
そのような状況のなか、中田島砂丘マルシェでクラフトコーラを作って評判もすごく良いけれど、売り手がいないという話が出ていました。
そこで夫が「僕の妻、やりますよ!」と私を推していたんです(笑)私自身、素材にこだわったものや体に良いものにもともと興味があり、「おもしろそう!」と思いました。2023年7月から中田島砂丘マルシェに関わるようになりました。
外に出ることで出会いがあったんですね。
そうですね!私が加わったことで、浜松クラフトコーラを販売する「カカワルストア」も立ち上がり、自分の役割ができたように感じて嬉しかったですね。
【カカワルストアとは】 一般社団法人 中田島砂丘観光協会が運営。「カカワルストア」は、浜松市内のマルシェ等に出店し、浜松クラフトコーラを中心に販売しています。 |
カカワルストアは、浜松に関わるモノ、コト、ヒトなどを通じて浜松のことを発信するという意味が込められていて、それを私自身が身をもって体験していると思います。
浜松の恵みが詰まった一瓶「浜松クラフトコーラ」は天然の味そのもの

取材中に、浜松クラフトコーラを炭酸割でいただきました。心と体にすっと染みわたる、やさしい甘さとほのかなスパイス。土地の恵みがぎゅっと詰まったその一瓶には、愛理さんの想いも宿っているようでした。
浜松クラフトコーラには浜松の素材が使われているんですよね。
はい。100%国産で、一部スパイスとキビ糖、黒糖以外は浜松市で採れた素材を使用しています。たとえば、浜松市の名前にも入っている松は「市の木」とされていて、浜松クラフトコーラには浜松市で採れた松の葉が使われています。
他に特徴的なものとしては、黒文字(くろもじ)という木の皮です。和ハーブに精通している製品開発担当の「草おばさん」こと、横井さんが浜松市で黒文字を調達しています。これだけ質の高い黒文字を入れたクラフトコーラはないと、「カカワルストア」一同自負しています!
時期によって入れる素材が変わるので、その違いを感じることも楽しいですよ。たとえば松の木は、茶色い松ぼっくりになる前の青い状態の実を使うこともあります。
甘みもこだわっていて、白砂糖は一切使わず、キビ糖と黒糖で甘みを出しています。
浜松クラフトコーラの説明をしている愛理さん、本当に楽しそうです。
嬉しいです!私自身、病院で働いていることもありますし、実は体を壊して入院した経験もあります。体に入れるものには気を遣っていて、自分が興味のある事柄と一致しました。
だからこそ、食品添加物や着色料などを入れていない、この浜松クラフトコーラが大好きです。親バカかもしれませんが、世のクラフトコーラのなかでも浜松クラフトコーラが一番おいしいと思っています!自分が店長として、胸を張って販売できることが何よりも大切だと感じています。
毎回同じような素材が入っていますが、今回の生産分はりんごのような味がするとか、実際はりんごが入っていなくても味の変化を感じられます。そのような自分の感性を発見できることも興味深いです。さまざまな土地のクラフトコーラを飲み比べてたくさん研究したことも、楽しかったですね。
瓶詰めにあたって、3人で工場見学に行かれたとか。
砂おじさんと草おばさん、私の3人で浜松クラフトコーラを商品化するために、瓶詰め工場へ見学に行きました。砂おじさんと草おばさんはちょうど私の親世代で、家族旅行のようでした!
実際、マルシェに出店したときも砂おじさんの娘だと勘違いされています(笑)
印象に残っているのは、高速道路から見える草をGoogleレンズみたいに、「これは〇〇!」と草おばさんが教えてくれたことです。見える草すべての名前を教えてくれて、あらためて草おばさんの知識量に驚きました。
無理せず自分の“好きなこと”で地域と繋がる

「地域と関わらなきゃ」と頑張るのではなく、自分らしく好きなことを楽しむ姿が印象的でした。無理をしていないからこそ、愛理さんの周りには自然なつながりが広がっていったのだと思います。
「カカワルストア」は愛理さんにどのような影響を与えましたか?
地域のことをすべて受け入れなくてよいと思えるようになりました。自分の好きなことで広がった交友関係があれば、地域の一員になれると感じています。
浜松市へ移住した当初は近所と職場しか知らなかったので、「このなかで生きていかないといけない」と思っていましたが、自分の居場所ができることで住みやすくなりました。
自信をもって伝えられることが増えたことも嬉しいです。自分の仕事にも誇りをもっていますが、言語聴覚士だけではこんなにもワクワク話せることはなかったと思います。
そのほかには、「カカワルストア」の活動をSNSで発信しているからか、友人から浜松市への移住の相談をされることもあり嬉しいです。
これから浜松市でやりたいことはありますか?
「カカワルストア」の店長として、浜松クラフトコーラがご当地コーラとして愛されてほしいと思います。
砂おじさんは浜松市を愛してやまない人、草おばさんは和ハーブを愛する人、私は自然のものを使っている浜松クラフトコーラが大好きな人。私は私なりの視点で、浜松市の一員として浜松クラフトコーラを広めていきたいと思います。
個人的に浜松市でやってみたいことは、ジビエ料理を解体から教えてくれる料理教室に行くことです!一人飲みをしていたとき、その料理教室を開いている方と出会い、私自身、料理も好きなので興味を持ちました。いちから挑戦してみたいと思っています。
地域とのつながりに悩む人へ
「地域と関わろうと思って関わらなくてもいい」という言葉は、地域に馴染めない、地域で何かやってみたいと思いながらも一歩踏み出せない方にとって、目から鱗が落ちる言葉ではないでしょうか。
愛理さんの場合は、一人飲みが好きで、そこから出会いが広がりました。ほかにもスポーツや趣味など、外に出て自分が好きなことを始めれば、自然と地域の人と関わり、いつの間にか輪が広がっていくと筆者自身も思います。
「カカワルストア」の情報
店名 | カカワルストア |
運営元 | 一般社団法人 中田島砂丘観光協会 |
公式Instagram | https://www.instagram.com/kakawaru_store/ |
公式オンラインショップ | https://kakawaru.base.shop/ |
出店先 | 中田島砂丘マルシェ ほか |
出店情報 | 公式Instagramのストーリーズをご確認ください |