
関東の南東に位置し、千葉県の多くを占める房総半島。鴨川シーワールドや野島埼灯台、鋸山、そして海水浴場など、観光スポットも数多く点在しています。1997年に東京湾アクアラインが開通したことで、東京都や神奈川県などから観光客が訪れやすくなりました。また、都心部への車や高速バスでの移動が容易になったことから木更津や君津、富津エリアは移住先としても人気です。
しかし、房総半島はとても広いため、ピンポイントで観光スポット等を訪れたことはあっても、「くまなく見て回った」という人は少ないでしょう。今回ご紹介する『房総半島1周300K』は、そんな房総半島を自らの足でぐるりと走ってしまおう…という驚きのマラソン大会です。
房総半島1周300Kとは?
千葉県の房総半島を1周するウルトラマラソン。コースは約300kmにおよび、必要な荷物は自分たちで背負って走ります。以下地図の通り、房総半島を海沿いの道を基本としながら“ぐるり”と1周。途中には数か所のチェックポイントが設けられており、必ず通過して写真を提出しなければいけません。
スタート&ゴールは市原市にある「薬湯市原店」。途中の鋸南町にある「パクチー銀行」からスタートする(ゴールは同じ)約210kmの部門も用意されていました。制限時間は300kmが55時間、210kmが45時間。どちらも走りながら二晩を越すことになります。
会場に集まる大勢の猛者ランナーたち

スタート前になると、大勢のランナーが会場へ集まってきました。受付を済ませた後は、みなさん荷物を整理したり服装を整えたり。大会が長丁場で過酷なこともあり、ライトや水分などの必携品も漏れがないかチェックされていました。
顔見知りが多いのか、笑顔で談笑するランナーの姿も。県内在住者が多いかと思いきや、県外からも大勢の参加者がいらっしゃっています。当日は30℃を超える真夏日。そんな中、300kmもの距離を走りにわざわざ千葉県へ来てくださるとは…県民として嬉しいことです。
富津岬で美しい富士山がお出迎え

1日目の朝9時、元気にランナーがスタートしました。混雑を避けるため、1人ずつ順番で走り出していきます。本大会では7か所のエイドステーション(給水等が行える場所)があり、まずは46.7km先にある「富津岬」を目指します。いきなりフルマラソン以上の距離ですが、300kmから見れば短い…のかもしれません。

京葉工業地帯を通り、市原市から袖ケ浦市、そして木更津市へ。そこで待っているのが、第一チェックポイントの「恋人の聖地」です。可愛らしいタヌキの像があり、横には訪れたカップルが付けた近いの南京錠があります。
これらチェックポイントは写真を撮影してエイドステーションでチェックを受ける(ちゃんと撮影=通過していないと戻らなくてはいけない)のですが、この「恋人の聖地」は行くのもちょっと大変。

高さ27m、長さ236mという、“日本一高い歩道橋”である中の島大橋を渡らなければいけないのです。皆さん笑顔を見せてくれていますが、歩道橋は坂になるため苦行だったことでしょう。

しかし、中の島大橋の入り口にオアシスが。大会公式とは別に、応援されている方々が”私設エイド”を出してくれていました。出場者の家族や友人、あるいはとにかく応援したいという方まで…コース上では何度も私設エイドが現れて、ランナーを癒してくれます。この温かな人との関わりも、大会の魅力といえるでしょう。

そして到着した、第一チェックポイントの富津岬。県立富津公園内にあり、プールや展望台は観光客にも人気のスポットです。炎天下をここまで走り抜いたランナーの中には、さすがに大きな疲労が見え始めている方も。これから日が暮れ始めて最初のオーバーナイトラン(夜通し走る)に入るため、リタイアを決断するランナーもいたようです。

暑さの一方で天気に恵まれたため、富津岬からは美しい夕焼けと共に富士山が見られました。多くのランナーが、この絶景を目にして癒されたことでしょう。富津岬は半島の東に飛び出した形状となっており、海をはさんですぐ目の前には八景島や横須賀などの街が見られました。
美味しいジビエカレーを食べてパクチー銀行で小休憩

次に目指すのは、92.3km地点にあるパクチー銀行。210kmのスタート地点でもあります。走るペースはランナーによって違うため、すでに先頭から最後尾までバラバラ。一人ぼっちになることも増えるため、他ランナーと出会えば自然と声を掛け合います。

そんな中、パクチー銀行には210kmに出場するランナーが集まっていました。210kmは制限時間が長く、300kmのランナーがほとんど到着しないうちにスタートしていきます。まるで遠足にでも出かけるように笑顔いっぱいのランナーですが、こちらも過酷であることに変わりはありません。スタートが夕方なので、早めについて観光やグルメを楽しんだ方もいたようです。




パクチー銀行はカフェになっており、ランナーにはジビエカレーが提供されました。住んでいる地域によっては、ジビエを食べること自体が珍しいのでは?さらに栄養たっぷりなカレーは、走って疲れたランナーのお腹を満たしてくれたことでしょう。
カレーを食べながら小休憩していると、他ランナーもやってきて会話が弾む…なんていうことも。また、スタッフやボランティアの方々もたくさんいるので、その交流から元気がもらえそうです。特に夜になって静かな道を一人で走ってきたランナーにとっては、とても居心地の良い空間だったのではないでしょうか。
やっと半分、房総半島の最南端へ

パクチー銀行を後に、さらに目指すは滝口エイド。房総半島最南端に当たる、野島埼灯台の近くです。周囲は暗闇に包まれ、ランナーは前後にライトを灯して進みます。走るペースによって夜間にどこを走るのかは違いますが、コース上は街灯の少ない場所が多いため安全対策は欠かせません。

基本的には国道など大きな道路を通りますが、歩行者が少ないこともあってか、歩道が狭くて走るには危険な場所がいくつかあります。そうした場所では、車の通りが少ない迂回路がコースとして設定されていました。
南房総へ向かう道でも迂回路がありましたが、山道のためアップダウンがランナーを苦しめたことでしょう。しかし、緑に囲まれた道はとても清々しく、周囲からは鳥のさえずりが聞こえるなどリフレッシュにもなります。
そして迂回路を終える頃には、館山に到着します。ここまでコースはJR内房線の近くを通っていましたが、以降しばらく路線から離れることに…。つまり、いくら辛くなってもリタイアしにくくなります。そのため、館山駅付近で足を止める方も多かったようです。

コース上で「ここ通るの!?」と驚くのが、館山市にある洲崎神社です。富津岬のように西へ飛び出していて景色は最高。ただ、この階段を上った先にある本殿がチェックポイントとなっています。階段は150段もあり、ここを駆け上がったランナーは…恐らくいないでしょう。高所恐怖症なら、目を瞑ってしまいたくなるくらいの急な階段。ただ、洲崎神社は源頼朝に縁があるとも言われており、館山に来たなら足を運んで見て頂きたいスポットの一つです。

館山市下町交差点から南房総市和田町まで、約46kmは「房総フラワーライン」と呼ばれる海岸線の道路を走ります。時期的にあまり花は咲いていませんでしたが、「日本の道百選」にも選ばれているそうです。日差しを遮るものがないため暑くて過酷ですが、時折右手側から広い海を眺めることができます。

終わりの見えない房総フラワーラインの先にあるのが、第三エイドの滝口駐車場です。距離はスタートから148.4km、これでやっと半分に到達しました。房総半島のほぼ最南端、目の前には海が広がります。ここから、あとは半島の東側をあと半分!どんな光景が待っているのか、後半戦へと続きます…