
四国の玄関とも呼ばれる徳島県鳴門市は、淡路島から大鳴門橋を渡ってすぐの場所にあります。世界26カ国の西洋名画を再現した大塚国際美術館や、世界三大潮流の一つである鳴門海峡に巻く渦潮は人気観光スポットとしても有名です。休日・祝日は観光客で賑わう鳴門海峡付近に、静かに日々運航する渡船「さざなみ」の渡船場があります。現在鳴門には3隻の渡船があり、無料で利用できます。今回は、そんな鳴門の歴史深い渡船について紹介します。

鳴門市、渡船の歴史
鳴門市は自然豊かで、海に近く、山や川も市内に多くあります。橋や車が稀だった江戸時代、川の多い鳴門市では、平田舟やいかだは人々の生活を支える大切な交通手段でした。藩政時代(江戸時代中期以降)の陸上輸送は馬が主役でしたが、馬では150㎏ほどの荷物しか運べないので、重量にも耐えられる舟運は経済面でも重宝されました。塩や砂糖などは上流へ運ばれ、木材・薪炭・藍などは下流へと舟で運ばれました。当時舟の利用には必ず船賃が発生していたものです。※⑴
江戸時代には盛んでいた渡船ですが、橋や自動車の普及により減り、今では3隻の船だけが残っています。3隻の船の内、2隻は民営、1隻は県営だったものを昭和20~30年代に市が引き継ぎ、今日に至ります。利用者は減ってしまいましたが、今でも学生や車の運転をされない方にとっては大事な交通手段の一つです。

親しまれ続ける3隻の船
黒崎渡船
黒崎港~高島港の間を行き来するのは、300年以上前から続く市内で一番古くからあったと思われる渡船です。※⑵ 現在は「なると丸」と言う名前の船が使われ、43人まで乗船可能です。※⑶ 高島港の先には鳴門教育大学があり、利用者には多くの留学生や地元の高校生が見られます。多くの利用者は自転車を載せて乗船しています。乗船所要時間は3分、午前6時半から午後8時まで運航しています。
岡崎渡船
鳴門海峡に最も近い土佐伯港を繋げる岡崎渡船は、昔は馬車が渡船場付近で待ち伏せし、渦潮見物にも用いられたそうです。※⑵ 今では市が所有する「さざなみ」号が使われ、旅客定員は30人ほど。※⑶ 岡崎港側には、釣り場の他、海が見える美味しいカレー屋さんや明治時代から営む味噌屋さんもあり、ちょっとした海辺の探索にも便利な場所です。
島田渡船
漁村の側にひっそりとある堂浦港、その先にあるのは島田島へ渡る唯一の渡船場。堂浦港~島田港を往復する「第二小鳴門丸」は3隻の船の中では一番小さく、旅客定員は12人です。現在市からの委託で、室撫佐漁協が母体となって設立した(有)島田渡船が運航しています。※⑶

渡船の楽しみ方
潮風を肌に感じ、船に乗りながら海を眺めるだけでも楽しいですが、渡船場の近くには鳴門市のおすすめスポットが沢山あります。黒崎~高島港へ渡った先にはグルメや、子供が思いっきり遊べる「海底にたたずむ船」をイメージした遊具のあるウチノ海総合公園があります。海を見ながらジョギングやバーベキューも楽しめます。
島田港へ着けば、瀬戸内海を望む絶景スポット、鳴門スカイライン四方見展望台から遠くはありません。渡船には自転車での乗船が可能なので、サイクリングにも持って来いです。展望台のすぐお隣にはドリンクとスイーツが美味しいカフェも。SNSで有名になった「ハート島」も、ここで見ることができます。
土佐伯港まで行くと、鳴門の有名な観光スポットの数々が楽しめるのはもちろんのこと、淡路島と鳴門を結ぶ大鳴門橋を背景に海辺でゆっくり寛ぐのもおすすめな過ごし方です。また、土佐伯港がある大毛島には鳴門の特産物のわかめを安く購入できる直売所も幾つかあります。
車での移動では見られない鳴門の風景を、ぜひ船の上からご堪能ください。
参考資料:
※⑴『鳴門市史』中巻15~19ページ。
※⑵ 木下昇三『鳴門今は昔』33~39ページ。
※⑶ 鳴門市「渡船」https://www.city.naruto.tokushima.jp/kurashi/sumai/kotsu/tosen/ (2025年6月9日アクセス)。
*天候により、運航中止になる場合があります。土日・祝日は一部の運航時間の変更があります。詳しくは鳴門市の渡船運航時刻表をご参照ください。