「すっごくおいしいからさ、一緒に食べに行こうよ」。
徳島県阿南市にある「麺場水や」は、品格があり、穏やかな時間が流れているラーメン屋。
その雰囲気と絶品を堪能できることから、大切な人を連れていきたくなるお店です。
そんな「麺場水や」のマスターである田村豊文(たむら・とよふみ)さんと妻の佳代子(かよこ)さんに話を聞き、醤油麺のこだわりと大切な人を連れていきたくなる理由について探りました。
醤油麺のこだわり、無化調スープ
きれいに澄んだスープ。
口に運ぶと、柑橘類の香りがふわっと鼻を通った後、優しい和風のスープが喉を通り、気持ちがホッとして体が緩みます。
鮮度にこだわり、地元で仕入れた野菜や出汁の素材を前日から水につけ、15時間以上かけてじっくり出汁を抽出。
スープ作りは佳代子さんが担当しており、豊文さんはその仕事ぶりに抜群の信頼を置いています。
「出汁とりは非常にデリケートで、難しい。ガスの火力と会話するように煮出すのがポイントです。化学調味料を一切使用しない分、じっくり時間をかけて黄金色のスープを完成させます。彼女の寸分違わぬコンピュータのような仕事には、ある意味、脱帽です」(豊文さん)
妥協点を下げない。いかなる時も最高の一杯を
「少しでも妥協したら、作品としてアウト」と語る豊文さん。
「我々は一日に何十食も作るんやけども、お客さんにしてみたら生涯の一食かもしれません。どの作品も、どの料理も一番の状態で出すことにこだわっています。僕は若い頃から『着眼高ければ、すなわち理を見て岐せず』という考えで生きてきました。着眼点が高いほど、煩悩に惑わされないという意味です」(豊文さん)
細部にまでこだわれば、美味しさがブレることはない――。
最高の一杯を提供し続けるため、時には夫婦で指摘し合うこともあるのだとか。
「麺を湯切りするのは僕の作業で、麺をスープに絡めるのは彼女の作業なんやけども、この時間もピタッと合わさんとね。一番美味しい状態でお客さんに提供するのが大事なんですよ」(豊文さん)
“尊さ”にあふれる店内。料理に込められた想いとは
「水や」という店名は、水屋箪笥(みずやだんす)に由来しています。
水屋箪笥は、江戸から昭和の時代に使われていた食器棚。
冷蔵庫が普及していない時代に食べ物も入れられるよう、中段の扉に金網が張られているのが特徴です。
「僕が子どもの頃、母が水屋箪笥におやつを入れてくれとったんですよ。学校から帰ったら、一番におやつを食べる。それが毎日の楽しみでした。『水や』と名づけたのは、おやつ箱のような美味しいものが食べられるワクワクを感じてほしいと思ったからです」(豊文さん)
店内の至るところに、由緒ある家具や道具が彩られています。
「新しいもんでなしに使い込んだものが好きなんです。前に使った人の愛情を感じ取れるのがいいですよね」(豊文さん)
これらの道具はすべて、豊文さんが長い年月をかけて少しずつ集めたものです。
座敷と座敷の間、仕切りとして使われているのは簀戸(すど)。
簀戸とは、すだれをはめこんだ建具で、もともとは暑い季節に風通しを良くするための戸として使われていました。
「この簀戸は、17年前に80歳を超えた方から頂いたものです。嫁入り道具だったらしいんですけどね、『捨てようと思っていたものを活かしてくれて、ありがたい』と泣いていました。親が一生懸命働いて、嫁入りする娘に買い与えたものだと考えると非常に尊い」(豊文さん)
親が子を想う気持ち――。
「そんなつもりでね、料理もしよるわけなんです」と笑う豊文さん。
水やのラーメンを食べて、何とも言えない温かい気持ちになり、大切な人を連れてまた食べに来ようと思う理由。
それは、作り手の豊文さんと佳代子さんから愛情を注がれた優しい一杯だからではないだろうか。
阿南市に来た際は、ぜひ麺場水やの醤油麺をご賞味あれ。
麺場水やの情報
住所:徳島県阿南市津乃峰町長浜250-17
電話番号:0884-28-0032
営業時間:11時〜15時(Lo14:30)
定休日:日曜日・月曜日※祝日営業
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