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アート  |    2025.11.07

正倉院 THE SHOWで五感がひらく歴史体験|東京・上野の森美術館

2025年9月20日から11月9日まで、東京都台東区・上野の森美術館で開催中の「正倉院THE SHOW」にお伺いしました。今回は、数々の展示の中から印象深いポイントをピックアップしてレポートします。

1300年前の宝物がいま蘇る・正倉院 THE SHOWとは?

奈良・東大寺の正倉院は、約1300年もの間、時代の荒波を越えて宝物を守り続けてきた奇跡の宝庫です。その背景には、聖武天皇と光明皇后という二人の存在がありました。

国家の安寧と人々の幸福を願い、彼らが残した祈りの数々が、今日もなお宝物の一つひとつに息づいています。本展では、彼らの思いとともに受け継がれてきた物語が、映像や資料展示を通して鮮やかによみがえります。

聖武天皇 ― 仏教国家を築いた理想の君主

聖武天皇(701〜756)は、奈良時代の第45代天皇です。

戦乱や疫病など社会不安が続くなかで、仏教の力で国家を安定させようと考え、「鎮護国家(ちんごこっか)」という理想を掲げました。

その象徴が、東大寺大仏(盧舎那仏)の建立です。巨大な大仏造立には全国の人々が関わり、国家的な一大プロジェクトとなりました。

光明皇后 ― 貧民救済に取り組んだ慈悲の心

光明皇后(701〜760)は聖武天皇の皇后であり、文化・福祉・医療にも深く関わった人物です。

貧しい人々のために施薬院(病院)や悲田院(救済施設)を設けるなど、仏教精神に基づいた慈善事業を進めました。

また、正倉院に納められた多くの宝物の中には、聖武天皇ゆかりの品が少なくないのですが、聖武天皇の遺愛品を光明皇后が自らの手で奉納した際の目録「国家珍宝帳」は、正倉院宝物の原点とされています。

超高精細映像が映し出す・細部の美と技

正倉院の宝物の魅力は、歴史的価値だけでなく、ひとつひとつに宿る技と美にあります。

精緻な螺鈿細工や木画、色鮮やかな染織品…

それらは肉眼では捉えきれないほどの緻密さで、当時の高度な技術と美意識を物語ります。

最先端の3Dスキャンと超高精細映像が、正倉院の至宝を細部まで鮮やかに映し出し、まるで内部を直接覗き込んでいるような没入感を味わえます。

天下第一の名香「蘭奢待」に出会う・香りが開く記憶の扉

展示の中でも特に印象的なのが、天下第一の名香と称される香木・蘭奢待(らんじゃたい)の香りの再現です。

足利義政や織田信長など、歴史の名だたる人物たちがその香を求めたという逸話を持つこの香木の香りは、時を経て現代で再現され、今なお人々を魅了し続けています。

香り体験コーナーで嗅ぐ香りは、記憶の奥に眠る感覚を呼び覚まし、時空を超えて過去と今とを静かに結びつけてくれます。

同じエリアには、天下第一の名香として知られる蘭奢待のレプリカも公開されています。

1300年の美はつながっていく・現代クリエイターの挑戦

1300年前に生まれた美は、決して過去のものではありません。

現代のアーティストたちは、正倉院の宝物からインスピレーションを受け、新たな表現を通してその精神を未来へとつないでいます。

ファッション、音楽、写真、陶芸。

多彩なジャンルの作品が空間を彩り、伝統と創造が交わる瞬間を目の当たりにするとき、私たちは文化が生き続けるということの本当の意味に気づかされます。

デザイナー/アーティストの篠原ともえさんは、正倉院の文様や色彩を現代の感性で再構築し、繊細で華やかな衣装として表現。

音楽プロデューサー/ベーシスト亀田誠治さんによるオリジナル楽曲は、会場全体に響き渡り、空間に音という新たな命を吹き込んでいます。

両者の作品は、過去と未来をつなぐ創造の証として、展示体験をさらに豊かなものにしてくれます。

五感で感じる歴史・見るだけでは終わらない展示へ

正倉院THE SHOWの魅力は、単に宝物を「鑑賞する」だけにとどまりません。

香り、音、映像、光の五感すべてを通して、私たちは1300年という時の流れの中に深く入り込んでいきます。

「歴史は教科書の中だけではなく、今ここで生きている」。

展示空間を出たあとも心の奥に残る余韻が、それを静かに教えてくれます。

正倉院THE SHOW 概要
展覧会名「正倉院 THE SHOW
-感じる。いま、ここにある奇跡-」
会期2025年9月20日(土)~11月9日(日) 
※会期中無休
開館時間10:00~17:00
(※入館は閉館の30分前まで)
会場上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
交通アクセスJR 上野駅 公園口より徒歩3分
東京メトロ・京成電鉄 上野駅より徒歩5分
主催上野の森美術館、「正倉院 THE SHOW」実行委員会(読売テレビ、読売新聞社、TOPPAN、角川メディアハウス)、日本テレビ放送網、BS日テレ
監修宮内庁正倉院事務所
協賛タケモトピアノ
技術協力エプソン販売
協力高砂香料工業
後援TOKYO MX、J-WAVE
公式サイトhttps://shosoin-the-show.jp/

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この記事を書いた人

ハラカズコ

大田区出身・在住のメディアライター&アロマクリエイター。「まちに根ざした視点」で、香りと文化が交わる瞬間を文章と企画に落とし込みます。Mediallでは、多様な文化や伝統、価値観がカオスに混ざり合いながら、レトロでありながら最先端でもある「東京」の魅力を発信中。「懐かしいのに新しい」「混沌としているのに心地いい」──そんな二面性を大切にしながら、読者の五感に響く記事を届けています。

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