
飲食店や商店が軒を連ね、下町の東京を感じることができる地域、浅草。今回ご紹介するカフェ「昆虫食TAKEO 浅草本店」で楽しむことができるのは、こだわりの昆虫食。初心者でも食べやすいメニューから上級者も満足する通好みの逸品まで、多彩なラインナップがそろっている。昨今、SNS上でも話題を集めている昆虫食の魅力について、店長の三浦みちこさんにじっくりとお話を伺った。
初めての人も、リピーターも満足する昆虫食カフェ

東京メトロ銀座線「田原町駅」から徒歩3分。下町の雰囲気を感じながら歩いた先にあるのは「昆虫食TAKEO 浅草本店」だ。築60年の古民家をリノベーションした店舗で、店先の「昆虫食」と書かれた提灯がお出迎えしてくれる。







東京・浅草で生まれ育った三浦さんにとって、昆虫食は決して珍しいものではなかったようだ。
「浅草には老舗の佃煮屋さんが多いんですよ。幼少期からイナゴの佃煮が普通に食卓に並んでいました。海外旅行先でも、サソリなどの昆虫を見つけると積極的に食べていました。美味しそうだなと思うものは何でも食べてみたいんです」
そんな昆虫食に親しんできた三浦さんは、2017年にTAKEO株式会社へ入社。「お客様と対面で関わる仕事がしたい」と当初から店舗を開くことを念頭に考えていたそうだ。当時のTAKEOでは昆虫食の販売をオンラインでのみ行っていた。その翌年、2018年に浅草店の実店舗を立ち上げ、店長を務めている。
繭の刺身からタガメサイダーまで。「グロさ」を感じないメニュー

メニューを見て迷っているお客さんに、三浦さんが必ず尋ねる大事な質問がある。「甲殻類のアレルギーはありますか?」という安全確認だ。
昆虫は甲殻類(エビ・カニ)アレルギーを持つ方に同様のアレルギー反応を起こす可能性がある。そのため、安全性を考慮して、体質に合わせて安心できるメニューをおすすめしている。決して無理に昆虫食を勧めることはない。
また、三浦さんは「来店される方の多くが昆虫食初心者なので、食べやすさを意識しています」と話す。虫の形がそのまま残っている料理ではなく、粉末にしたり、細かく刻んだり、見た目も美しく仕上げている。虫の存在感を感じさせない、初心者向けの昆虫食メニューが充実しているのが特徴だ。

初心者向けのメニューとは、一見すると昆虫食には見えない。その代表格として、まるで刺身のような見た目の昆虫食「まゆ刺し」をご紹介したい。2022年秋に新メニューとして登場してSNSで大変な話題となった。Xの投稿は、3日間で約6,000件の「いいね」を獲得している。
魚の切り身に見えるこちらは、カイコの繭(まゆ)だ。通常は絹糸として衣服になるものを、食材として活用するというアプローチだ。このメニューは養蚕家を驚かせたそうだ。繭の中に入っているサナギも食べることができるので、カイコの繭を含めて、捨てるところが無い究極のメニューだといえる。

タガメエキスを0.3%配合した「タガメサイダー」も昆虫食初心者におすすめ。フルーティな青リンゴのような爽やかな香りを楽しむことができる。売上の一部は水生昆虫の基礎研究支援のために使われ、2020年4月から2024年3月までの4年間で56万円の寄付金を集めている。浅草を訪れる修学旅行生の手土産として人気で、グッドデザイン賞も受賞している。

昆虫をしっかりと味わいたい方におすすめしたいのが、シロップ漬けタガメ付きドリンク「めっちゃ タガメサイダー」。東南アジアで一般的に親しまれている昆虫食材・タガメをまるごと使った、店舗限定の看板メニューだ。昆虫食への入口として人気を集めている。

パウチ商品の「宮崎スズメバチ」は、TAKEOの自然環境への取り組みを語る上で重要な商品。地域の山で約30年間続けて蜂を採取しても、その間資源量の減少は見られていない。昆虫は山からの頂きもの。資源管理にも細心の注意を払い、環境や生態系に配慮したメニュー開発を行っている。

色のグラデーションが美しい「恋するレモン」は、昆虫写真家の平井文彦さんと法師人響(ほうしと ひびき)さんのユニット「TOKYO BUG BOYS」とのコラボドリンク。昆虫の魅力を写真で伝える彼らとのコラボレーションは、外部クリエイターとの積極的な交流を大切にするTAKEOの魅力あふれるメニュー。着想源は「モンシロチョウの仲間にはレモンの香りがするオスがいる」という自然界の不思議。使用するレモンフレーバーは昆虫を使用していないため、付き合いで来店した昆虫食に抵抗のある人でも安心して楽しめる。
みんなでワイワイ!交流イベントで広がるファンの輪

昆虫食カフェにはどんな人が訪れるのだろう。三浦さんにお客さんの来店動機について伺った。
「来店のきっかけは様々だけれど、『ぽこピーの動画を見て、昆虫を食べたくなって来ました』という方が多くいらっしゃいます」と話す三浦さん。「ぽこピー」とは、タヌキの忍者・甲賀流忍者ぽんぽこと自主制作ショートアニメの主人公・ピーナッツくんの2人組VTuberユニット。2022年にYoutube 『ぽんぽこちゃんねる』で、その二人によるTAKEO浅草本店での昆虫食実食レポートを公開し、3年経った今でもその影響力は続いている。
アニメ・映画の影響から来店する事例もある。『忍たま乱太郎』や『ライオン・キング』で昆虫を美味しそうに食べるシーンを見て、「無性に虫が食べてみたくなった」と来店する方もいるそう。全く異なるアプローチから、昆虫食に結びつくのは興味深い。
「最近は女性の一人客なども増えてきていて、徐々にではあるけれど昆虫食を食べているお客様層の広がりを感じています」と三浦さん。昆虫は「馴染みのない食材」というイメージが根強く、他人に話すと「引かれるのではないか」という不安を抱く人が多かった。そのため、これまで昆虫食を楽しむ人の多くは、周囲に知られないよう密かに味わっていたのが実情だった。
しかし最近は、昆虫食が徐々に世間に受け入れられ始めている。事実として、実店舗を通じて多くのファンとの交流が行われている。SNSなどで気軽に発信や交流できる現代は、楽しみながら昆虫食と関わることができる良い時代といえる。

TAKEO浅草本店では、昆虫食リピーター向けのファン交流会「ぷちぷちタガメナイト」を定期的に開催している。昆虫の魅力を語り合う場であり、初対面の参加者同士が昆虫食をきっかけに新たなつながりを築くことを目的としている。イベントの反応は上々で毎回盛況だ。
イベント限定メニューには、「バッタの素揚げ」「蚕ソーセージのバター醤油」などが登場。その他にも限定の特製アルコールドリンクやフードが楽しめる。一人では昆虫食を食べる勇気が出なかった方でも、参加者同士の交流のおかげで、楽しみながら新しい味に挑戦する光景がよく見られるという。普段の生活では昆虫食を楽しむ仲間がいない方も、このイベントでは昆虫食愛好家が多数派となる。居心地の良さを感じながら、のびのびと昆虫食を食べることができる。無料で参加できる気軽さもあり、昆虫食ファンに人気の出会いの場となっている。

昆虫食を知らないあなたへ。新たな食の可能性を伝えたい

2013年にFAO(国際連合食糧農業機関)が出した報告書では、人口増加や地球温暖化で世界の食べ物が足りなくなると予想されている。今後、昆虫が未来の食材となる可能性はあるのだろうか。三浦さんに見解を聞いてみた。
「昆虫が未来の食材の選択肢になる可能性については、TAKEOとしてはそこまで考えていませんでした。でも最近は、その可能性を感じています。気温上昇の影響で、暑すぎて鶏の卵が採れないといった問題が発生しています。昆虫は気温が高くても養殖できるので、タンパク源として代替となる可能性は大いにあると思います」
三浦さんが現在の「昆虫食の認知度」について考えさせられる出来事があった。外部の食イベントでTAKEOが出店した際にお客さんに問われた質問である。
「食のイベントに参加したとき、昆虫食を一切知らない方から『虫って食べられるの?』と質問されたんです。『食べられます、浅草にTAKEOの昆虫食カフェもあります!』と答えると、驚きの声が上がりました。
TAKEOの店舗には、昆虫食をよく知っている方が来店しますが、一歩外に出ると昆虫食を知らない人ばかり。何かをきっかけに昆虫食をもっと知ってもらいたいと思っています」
昆虫食は、異常気象や地球温暖化という課題に立ち向かう新たな食材として、大きな可能性を秘めている。三浦さんの言葉にあるように、まだ多くの人にとって馴染みのない存在だ。過去、日本人はイナゴの佃煮を自然に受け入れてきた歴史がある。昆虫食がスーパーの棚に当たり前に並ぶ未来が来るとすれば、それは食の選択肢が豊かになった社会の象徴と言えるだろう。

TAKEO 浅草本店
営業時間:
平日:12:00~19:00
土日祝:12:00~20:00
TEL:03-5830-7970
定休日:
火曜日・第1土日(臨時休業あり)
住所:
〒111-0035 東京都台東区西浅草1-3-14 2階
アクセス:
・つくばエクスプレス「浅草駅」徒歩10分
・東京メトロ銀座線「田原町駅」徒歩3分
SNS :
・公式サイト:https://takeo.tokyo/
・X (旧Twitter):https://x.com/takeo_tokyo/
・Instagram:https://www.instagram.com/takeo.tokyo/




