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人  |    2025.07.30

細さわずか0.2ミリ!医療業界も注目する精工パッキングの極細輪ゴム|東京都葛飾区

皆さんはビクトリア型(トムソン型)平板打ち抜き加工を知っていますか?刃が埋め込まれた板で素材を加圧し、打ち抜く加工法です。打ち抜かれたものは、私たちの身近にあるさまざまなものに使用されています。有限会社精工パッキング(以下、精工パッキング)は、この加工法で世界一細い輪ゴムを開発。しかも、その輪ゴムの技術は医療機器にも活用されているんです!どのような輪ゴムなのか、取締役社長を務める平井秀明(しゅうめい)さんに話を伺いました。

今まで打ち抜いたものは数百種類以上!3代続く町工場です

アナログの打抜機で作業をする平井さん。棚に並ぶのがビクトリア型(トムソン型)です

精工パッキングは1961年に葛飾区高砂で創業。ビクトリア型(トムソン型)の平板打抜き加工を専門とし、特に小さい部品の加工を得意としています。私たちの身近にあるものでいえば、エアコンの内部にあるパッキン、ヘルメットや膝サポーターのクッション材、ランドセルの中の芯材などを加工しています。

現在社長を務めるのは、3代目となる平井秀明さん。18才だった1992年に精工パッキングに入社し、2015年に取締役社長に就任しました。平井さんの就任以降、他社から加工を請け負うだけでなく、オリジナル品の製造にも力を入れ、積極的に同社のアピールを行っています。

偶然見つけた端材が新製品のアイデアに

医療用シリコンを打ち抜いた極細輪ゴム。切れ込みに見えるところが輪ゴムです

平井さんは代表取締役に就任した1年後に、葛飾ブランド「葛飾町工場物語」に自社の技術の申請を試みました。葛飾ブランド「葛飾町工場物語」は、葛飾区の製造事業者の優れた技術により製造した製品等を認定する制度。ところが、申請には技術を言語化して伝える必要がありました。

「私はずっと技術者として働いてきたので、いざ技術を表現するとなったときに、困ってしまいました。そのとき、偶然見つけたのが素材を加工したときに出た糸のような端材でした」(平井さん、以下同)

これを輪の状態で製造することは難しく、調べても同じようなものはなかったことから「これがうちの唯一無二の技術だ」と確信します。「正確な寸法精度を測って加工できる」という自社の技術の可視化のために、0.2ミリから作れる極細輪ゴムとして製品化しました。

この極細輪ゴムのアピールのために、平井さんはさまざまなメディアに出演。すると、あるとき、平井さんがこの製品についてラジオで話しているのを聴いたという男性から電話が。その男性は、大学病院に勤める医師・松尾康正さん(現在はクリニックの院長)で、なんと極細輪ゴムを使用した医療機器の製造を依頼してきたのでした。

約5年かけて医療機器を開発

直径約1.3センチの内視鏡用牽引バンド。1円玉よりも小さい!

「メディア出演を立て続けにしたことで、問い合わせが多かった時期でした。松尾先生の話もその1つだろうと思っていたら、本気で医療機器の開発を考えていらしたので、とても驚きました」

松尾さんは消化器と内視鏡を専門とする医師です。内視鏡で大腸内ポリープの切除の治療をする際に糸で病変を持ち上げることがありますが、途中でたるんでしまい、切除に手こずることがありました。しかし、伸縮性に優れた極細輪ゴムを使用すれば、効率的に治療ができると考え、平井さんに医療機器の開発を持ち掛けたのでした。

平井さんは、最初は驚いたものの、自社の技術を試したいという思いから、初回の打ち合わせ時に快諾。こうして開発を始めたのが2019年のことでした。

松尾さんのアイデアを元に平井さんが型の図面を起こし、打ち抜き型の製造を業者に依頼。出来上がった型で医療用シリコンを打ち抜くというのが製造プロセスです。

細くすると耐久性が下がり、太くすると伸びが悪くなる。さらに、治療後のスムーズな回収のためには、力を入れれば切れる程度でなければいけない。その細かい調整のために、繰り返し試作品を作りました。

2~3カ月に1度くらいのペースで試作品を作り 、試した型は20面以上にも及びます。こうして約5年の時間をかけて「内視鏡用牽引バンド」が完成したのでした。

「誰かから『医療機器の製造は1~2年はかかる』と聞いていましたが、こんなにかかるとは思っていませんでした。型代、材料費、人件費などの負担が大変でしたね。もし他社が先に類似品を販売し始めたら、当社の製品は日の目を見なかったかもしれません。そう考えると、販売できてよかったです」

と、平井さんは笑います。

この製品は保険適用され、2025年7月22日からの販売を予定しています。

葛飾区の中小企業一丸となって、地域を盛り上げたい!

「ポレット」は14色、「ズボラップ」は6色を展開

「保険適用される医療機器を町工場で製造するというのは、なかなかすごいことらしいです」

と、平井さんも誇らしげです。臨床試験の段階では、使用した医師の評判も良く、平井さん、松尾さんの狙い通りに機能しているといえそうですね 。

偉業を成し遂げた平井さんに、気になる今後の展開を聞いてみました。

まず1つ目が、クリエイターの応援。精工パッキングの理念として「全力応援」を掲げていて、極細輪ゴムの技術の使用に限らず、クリエイターが作りたいものをサポートしたいといいます。

2つ目がオリジナル製品、「ポレット」と「ズボラップ」の販売です。軟質塩化ビニールシートを同社の技術で打ち抜いたもので、材質の吸着性を生かし、名刺、マスク、ノートパソコンなどを折りたたむだけで収納できる小物入れです。

最後が葛飾区への人材流入を推し進めることです。他の地域と同様、葛飾区の町工場も人材、後継者が不足しています。平井さんは近隣の学校への出張授業や職場体験の受け入れなどで、葛飾区の町工場で働く人を増やしたいといいます。

「私は一般社団法人東京中小企業家同友会の葛飾支部長を務めており、仲間内で『葛飾区全体を盛り上がよう』という機運が高まっています。葛飾区が盛り上がれば、ひいては日本経済の活性化につながるかもしれない。だから、葛飾区を活性化するために、時間を惜しまずに動き続けたいですね」

関連リンク

有限会社精工パッキング:https://www.seikopacking.tokyo/

精工パッキングオンラインショップ:https://seikopacking.thebase.in/

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この記事を書いた人

増田 洋子

東京都在住。インタビューが好きなフリーランスのライターで、紙媒体とWebメディアで執筆中。ネズミを中心とした動物が好きで、ペット関連の記事を書くことも。

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