
豊田市内から約1時間。すぐそばを矢作川が流れる小渡町は、夏には川遊びや釣りを楽しむ人たちで賑わう場所です。
そんな小渡町で7月中旬から8月末まで開催されるのが「小渡夢かけ風鈴」。無数の風鈴が奏でる涼し気な音色と川のせせらぎが、町全体を包み込みます。近隣からも多くの観光客が訪れる、この町ならではの夏の風物詩です。
今回は「風鈴寺」増福寺前住職さんのお話とともに、「小渡夢かけ風鈴」の様子を紹介します。来年の夏の予定にぜひ加えてみてください。
小渡町について
豊田市の北東部に位置する小渡町は、人口200人ほどの小さな山間の町。古くは岩村や明智、足助を結ぶ交通の要所とされ、宿場町としても栄えていました。
美しい山の景色と青く澄んだ川が調和する小渡町は、「水の郷百選」にも選ばれる清流の郷。近くには県内でも希少な放射線泉(ラドン温泉)を持つ小渡温泉もあり、夏には温泉とともに花火大会も楽しめます。
矢作川の河原にある「おど観光やな」も人気のスポット。鮎のつかみ取りや川遊び、バーベキューのほか、子ども向けの小さな池も用意されています。炭火でじっくり焼いた鮎は、皮はパリパリ中しっとり。そのほか、お刺身や甘露煮、鮎飯など、豊富なメニューがそろっています(営業期間7月~10月)。
「風鈴寺」増福寺

「小渡夢かけ風鈴」のメイン会場となる増福寺は、1616年に開創された曹洞宗の禅寺です。境内にはなで仏として愛される「賓頭盧(びんずる)尊者像」も鎮座し、自分の身体の悪い場所をなでることで病気やけがなどが治るとされています。
「風鈴寺」とも呼ばれる増福寺は、全国初の「奉納風鈴の寺」としても有名。2002年から始まった奉納風鈴は、今では7000個以上奉納されているのだとか。風鈴に吊るす短冊は願い事別に色分けされ、風で短冊が切れると願い事が叶うと言われています。
増福寺
住所:〒444-2846 愛知県豊田市小渡町寺ノ下18-19
電話番号:0565-68-2615
アクセス:東海環状自動車道「豊田藤岡IC」より約35分/中央自動車道「瑞浪IC」より約45分
豊田市足助方面より小渡交差点を右折
駐車場:本堂前6台
きっかけは地域活性を願う住人の想いから
2002年から始まった「小渡夢かけ風鈴」は、地域活性化を願う地元の人たちの想いから始まりました。
「2005年に旭町が豊田市に編入されることになって、役場の人たちも豊田市街に出ていくようになったんです。そうなると人も少なくなってしまうし、商店街も活気がなくなってしまう。それで、地元住民が集まって真剣に考えたんです。『町を盛り上げるにはどうしたらいいか』って」
柔らかな表情で告げる前住職さん。時折風鈴を振り返りながら、懐かしそうに目を細めます。
「そんな中で、風鈴はどうかという案が出てね。外部からも意見を聞いて、風鈴に願い事を書いた短冊をつけようという話になったんです。でも、願い事を書いた風鈴を家の軒先に吊るすのは気恥ずかしい。それで、『お寺に持って行こう』となったそうです。昔から願い事は必ず神社仏閣に来るものだからね」
そんな住人たちのお願いを快く引き受けた前住職さん。翌年から、地元商店街を中心とした「小渡夢かけ風鈴」が始まります。
風鈴と増福寺の不思議な縁
実は風鈴と増福寺には不思議な縁が。
「ここの宗派は曹洞宗です。曹洞宗を切り開いたのは道元禅師なんですけれど、学びを深めるために中国に渡ったんですね。でも、中国ではなかなかよいお師匠さんに出会えなかった。そんな中、天童寺の如浄禅師(にょじょうぜんし)と出会ったんです。その後、如浄禅師のもとで道元は修行し、日本に帰ることになります。その際、如浄禅師が贈ったのが風鈴の詩だったんです」
まさかの不思議な縁に、前住職さんもびっくりしたそうです。しかも、風鈴が奉納されるようになってから知ったのだとか。
「ちりりんちりりんという風鈴の音は、天の風が鳴らしてるんです。その音に乗せて、短冊に書かれた想いを届ける。天の声はなかなか聞き取れないけどね」
そう言って小さく笑う前住職さん。みんなの幸せを願う気持ちは天にきっと届いていることでしょう。

境内には風が吹くたび一斉に揺れる無数の風鈴が。涼やかで清らかな音色が山すそに広がっていきます。日本ならではの鐘の響きに、自然と心もすっきりします。

奉納される風鈴は、南部鉄器を使用した「南部風鈴」。深く澄み渡った音が特徴的な南部風鈴は、「残したい日本の音百選」にも選ばれています。

短冊は赤、緑、紫、黄色、青の5色。赤は縁結び、緑は家内安全、紫は学業成就、黄色は商売繁盛、青は無病息災です。それぞれ模様が違うのも、選ぶ楽しさのひとつ。追加の短冊も1枚100円で購入できます。

そのほか、御朱印帳や絵葉書、手ぬぐいなどのお土産も。自由に利用できる一文字写経も用意されていました。

町一帯が会場となるため、商店街にも多くの風鈴が飾られています。色とりどりのガラス風鈴が飾られたベンチは写真映えも抜群。

「小渡夢かけ風鈴」期間中は、さまざまなイベントも行われています。こちらのお店では風鈴の絵付け体験を開催していました。

絵付けに使う風鈴は工房で手作りとのこと。店内では小さなお子さんを連れた家族連れや、年配のご夫婦が楽しそうに絵付けをしていました。来年も、絵付け体験を行う予定だそうです。


「あそこのかき氷おいしいよ!」とおすすめしてもらった「やぶさんのフルーツかき氷」。ふわふわのかき氷には、果肉の乗った自家製ソースがたっぷり。火照った身体に心地よく染み込んでいきます。

「やぶさんのフルーツかき氷」はこちらの無料休憩所で食べることも。休憩所内には近隣店舗の食事メニューも紹介されています。

商店街の入り口にある「御菓子処ひだや」さん。100年以上の歴史を持つ老舗和菓子屋で、奥三河の食材を使用した四季折々の和菓子を提供しています。

「夢かけ風鈴」開催中は、期間限定で「ゆめ風鈴」も販売。風鈴をイメージした、この時期だけの夏のスイーツです。透明感のある水色のゼリーに金魚が浮かぶ姿は、涼しい夏の景色をそのまま閉じ込めたかのよう。

レモン風味のゼリーの中に青梅あんが入った「ゆめ風鈴」。
爽やかな酸味とやさしい甘さがふわりと重なり、心地よい味わいが口中に広がります。ぷるんと弾むゼリーの食感が、スプーンを入れるたびに楽しませてくれるでしょう。

そのほか、和素材を使用した葛バー「涼しん棒」や「どら焼きアイス」も。どちらも暑い夏にぴったりのひんやりスイーツ。食べ歩きにもぴったりです。
※「ゆめ風鈴」「涼しん棒」「どら焼きアイス」は8月末で販売終了です。
小渡で出会う、ひと夏の思い出
山あいの小さな町で鳴り響く、涼やかな風鈴の音色。川のせせらぎや蝉の声と溶け合い、ここでしか味わえない夏の情景を描き出しています。
地域の人々の願いから生まれた「小渡夢かけ風鈴」は、訪れる人の心を優しく癒やし、忘れられない思い出を残してくれるはず。来年の夏は澄んだ青空の下、涼やかな音色に耳を澄ませに小渡町を訪れてみてはいかがでしょうか。