名古屋駅から車で30分、伝統工芸品「有松・鳴海絞り」で知られる緑区鳴海町に「有限会社こんせい」があります。創業は1916年で、現社長の近藤泰仁さんは3代目。同社では絞り製品の製造とともに、絞りの魅力を広めるため「体験ワークショップ」を開催しています。これらのワークショップは国内のみならず海外でも開催され、大変な人気だとか。今回は有松・鳴海絞りの魅力と、体験ワークショップの人気に迫りました。
400年の歴史がある有松・鳴海絞り
有松・鳴海地域で絞り染めが始まったのは400年ほど前にさかのぼります。当時は名古屋城築城のために全国各地から人が集まっていました。その際に豊後の国(今の大分県)の人が絞り染めの技術を持ち込んだことがきっかけだといわれています。この地域で絞り染めが盛んになった理由はいくつかあります。
①木綿が手に入りやすかった
三河と知多に木綿の産地があったことで、材料が入手しやすい環境でした
②藍が自生していた
鳴海町から1.5kmほど東にある相原郷には、藍染の原料となる藍が自生していました。
③農業に適さない地域だった
鳴海町近辺は農作物が育ちにくく、農業以外の生計手段として絞り染め加工が内職として根づきました
④販売経路に恵まれていた
鳴海は東海道五十三次の40番目の宿場町として、旅人で栄えました。斬新で美しいデザインの有松・鳴海絞りは故郷へのお土産として大人気となり、全国に知れ渡ることになりました。
「完全分業制」が崩れて存続の危機に
有松・鳴海絞りは、「柄の決定」「型彫り」「絵刷り」「くくり」「染色」「糸抜き」「仕上げ」という工程があります。
これらは「完全分業制」でした。それぞれの職人が独自に技を磨くことで、100種類以上の絞り模様ができたといいます。
しかし、時代とともに絞りの需要が減少しました。さらに、「くくり」の工程を人件費が安い韓国や中国の工場に委託するようになり、職人が激減。
ついには職人不在の工程ができてしまい、有松・鳴海絞りは存続の危機に追い込まれていきました。
「しぼり屋」から始まった、こんせいの歴史
こんせいは「しぼり屋」として現社長の祖父である近藤清一氏が創業しました。しぼり屋とは、お客様から絞りの要望をうかがい、それを形にするために企画して職人に依頼していく仕事です。2代目の近藤典親氏は職人が激減する現状を目の当たりにして、地域から絞りの文化がなくなることを危惧。地元の小学校に出向いて、子どもたちに絞りを教える活動を始めました。40年ほど前から始まったこの活動が、現在の体験ワークショップの基盤となっています。
3代目で現社長の近藤泰仁氏が事業を継承した2012年には、しぼり屋を継続するのが難しい状況でした。絞り関係の仕事は1〜2割ほど。主な仕事は刺繍などの加工品を中国に発注し、それをアパレル業者に卸すことでした。
しかし、次第に加工品の需要も減少して経営が困難に。
「最後に手元に残ったものが、絞りだったんです」と語る近藤社長。そして、絞りの仕事を増やしていく決意をしました。しぼり屋ながら独自にくくりの技法や染色を研究。自社工場でしぼり製品をつくるようになりました。
転機となったトリノでの「雪花絞り」体験ワークショップ
転機が訪れたのは2015年です。父から受け継いだ小学校での絞り体験が名古屋市の目にとまり、姉妹都市であるイタリア・トリノで、絞り体験のブースを出店する機会に恵まれました。
どうしたらイタリアの人にも喜んでもらえるか。考え抜いた結果、だれでも簡単に楽しめる「雪花絞り」の体験ワークショップを開発しました。これが大盛況。「絞りの出来栄えにびっくりして喜ぶお客さんの姿に、心に打たれました。改めて絞りの可能性を感じましたね」と、帰国後は大人向けの体験ワークショップを開催するようになりました。
雪花絞りとは、布を三角に折りたたみ、三角形の頂点や底辺を染料で染める技法です。簡単な工程で美しい幾何学模様ができるのが特徴です。体験ワークショップでは主に手ぬぐいを染めます。
同じ工程でも、染色につける位置や深さによって仕上がりがまったく違うといいます。
「実際にやってみてください!」と促され、体験ワークショップに参加しました。
雪花絞りを体験してみた!
布の折り方は、正三角形と直角三角形の2種類。折り方は至ってシンプルです。
三角形のどの部分に、何色をつけるかを決めます。染色する部分によって柄が変わります。
いざ、染色へ。迷いなく入れるのがコツだそう。つけるのは数秒〜数十秒です。
つけ終わったら、すぐに洗い流します。その後脱水して完成!
作業時間は15分ほど。それなのに、1枚として同じ手ぬぐいはありません。
それぞれの感性があふれる豊かな模様。他の人の作品をみてインスピレーションを受け、2枚目をつくる人もいました。
どれも美しいです。でも、やはり自分の手ぬぐいが一番愛おしく感じました。
絞りの文化が再び広がる未来へ
近年は絞りに対する価値観が変わりつつあるといいます。かつては細かく色ムラがない均一な模様が高級とされていました。
「今の若い人は、柄の細かさよりもパッとみたときの雰囲気を大事にします。だからこそ、大胆な柄のほうが喜ばれることがありますし、染めのムラは個性だとして受け入れられています」と、同社では新しい価値観を柔軟に取り入れながら、若い人に向けた絞り染めを提供しています。
また、インスタグラムなどを活用して発信活動に力を入れています。
「完全分業制が消失したのは残念なことですが、独自の製品を生み出せるようになったという側面もあります。新しい有松・鳴海絞りの魅力を、これからもっと発信していきたいです」と語る近藤社長。自社で染めた製品や、体験ワークショップの様子を積極的に発信しています。最近はインスタグラムをみて遠方から体験ワークショップに参加する人が増えています。
台湾など海外でも体験ワークショップを展開している同社。海外の体験ワークショップも毎回たくさんの人に喜ばれているそうです。
「若い人、そして世界の人に魅力を知っていただくことで、絞りの文化が再び広がっていく未来を期待しています」
雪花絞りの体験ワークショップは、毎月第2月曜日にオアシス21で開催中。その他各地で開催しています。自社工場での体験ワークショップも予約可能です。
名古屋の旅の思い出として、伝統文化の有松・鳴海絞りに触れてみてはいかがでしょうか。
お店の情報
有限会社こんせい
住所:愛知県名古屋市緑区鳴海町字下中21番地 詳しくはこちら
TEL:052-624-0029
Mail:konsei0029@gmail.com
ワークショップの詳細は、公式ホームページ、Instagramでご確認、お問い合わせください。
参考文献・サイト
有松・鳴海絞会館ホームページ https://shibori-kaikan.com/
国立国会図書館サーチNDLギャラリー https://ndlsearch.ndl.go.jp/gallery