
「幻の魚」と呼ばれ、70年ものあいだ絶滅したと思われていた魚――クニマス。
その生きた姿に会える場所が、富士山のふもと・西湖にあることをご存知でしょうか?
今回、奇跡の魚「クニマス」がひっそりと暮らす「クニマス展示館」へ足を運んできました。
クニマスとは? 〜絶滅の悲劇から、奇跡の再発見まで〜

クニマスは、もともと秋田県の田沢湖にのみ生息していたサケ科の魚。
戦時中の1940年、発電のために強酸性の玉川温泉水が田沢湖に流入し、湖は死の湖へと変貌してしまいます。
以降、クニマスは一度も姿を見せることなく、「絶滅した魚」とされてきました。
ところが2010年、京都大学名誉教授・中坊徹次氏とタレントのさかなクンがタッグを組んだ調査により、西湖にクニマスが生き残っていることが明らかになりました。
手がかりとなったのは、戦前に田沢湖から他県へ卵が移されていたという地元漁協の証言。
その証言をもとに調査が進められた結果、山梨県・西湖でクニマスの子孫がひっそりと命をつないでいたことがわかったのです。
まさに“奇跡”の発見。日本中が歓喜に湧いた瞬間でした。
「クニマス展示館」へ!

クニマスの生態や歴史を楽しく学べるのが、こちらの「クニマス展示館」。

「西湖ネイチャーセンター」と同じ建物にあり、入館は無料。「営業中」の看板が出ていたら気軽に入れます。

中に入ると、まず目を引くのは立体地形模型。
周囲の山々に囲まれた西湖が、クニマスの命を守る“天然の水槽”であることがよくわかります。

館内の一角には、実際に生きたクニマスの成魚を間近で観察できる水槽もあります!
スラリとした姿、うっすら黒みがかった体色、そして鋭い目つき。泳ぎ方はまさにサケそのもので、どこか誇り高く、美しい。

「絶滅なんかしてなかったよ」と語りかけてくるような、力強い存在感に心が震えます。
学ぶ・知る・考える——中坊徹次教授が伝えたかったこと

クニマスの再発見に大きく貢献したのが、京都大学名誉教授の中坊徹次先生です。
絶滅とされていた魚を「生きている」と証明するには、確かな知識と、何より“信じる力”が必要でした。
中坊先生は、クニマスの存在が確認されたときの想いをこう語っています。
「絶滅種とは、いったん人間が失った生き物。生きているだけで奇跡なんです」
自然と人間の関係、そして失われかけた命の尊さが凝縮されている言葉です。
クニマスは、ただ珍しい魚というだけでなく、私たちに「自然とどう向き合うべきか」を問いかけてくれる存在なのです。
富士山を望む、西湖の静けさの中で

展示館を出て湖畔を歩くと、目の前には雄大な富士山が広がります。
青く澄んだ西湖の水面は、70年にわたりクニマスを守ってきたのかと思うと、感慨もひとしおです。
自然の神秘と人の知恵、そして小さな命の強さが交差する——西湖は、そんな豊かな物語を秘めた場所です。
小さな展示館から広がる、大きな物語

クニマス展示館には、奇跡の魚を通じて自然や命のことを考える、豊かな時間が流れています。
展示ひとつひとつに心がこもっていて、訪れた人に静かに語りかけてくるような、あたたかい空間です。
「絶滅したはずの魚が、今ここに生きている」
その驚きと感動は、子どもにも大人にも伝えたい“奇跡の物語”。
西湖を訪れたら、ぜひクニマスに会いに行ってみてください。
静かな水の中で悠々と泳ぐその姿が、きっとあなたの中にも何かを残してくれるはずです。

そして、もうひとつおすすめしたいのが「西湖コウモリ穴」。
国の天然記念物にも指定されている溶岩洞窟で、ヘルメットをかぶって進む探検体験は、ひんやり涼しくて夏にぴったり。お子さんにも人気のスポットです。

奇跡の魚と神秘の洞窟。
どちらも楽しめる西湖エリアに、この夏、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?
西湖漁業協同組合 クニマス展示館
〒401-0332 山梨県南都留郡富士河口湖町西湖2068
◾️営業時間
3月から11月まで 午前9時から午後5時
12月から2月まで 午前9時30分から午後4時30分
◾️定休日
3月から11月まで 休館日なし
12月から2月まで 毎週水曜日