
奈良旅行のお土産選びに迷っていませんか?定番も良いですが「人とは違う、長く使える特別なもの」や「奈良らしい伝統を感じながら、日常に取り入れられるもの」をお探しなら、奈良の伝統技術「蚊帳(かや)織り」から生まれた雑貨ブランド「ならっぷ」がおすすめです。
一見シンプルな見た目ながら、使うほどに柔らかく、驚くほど水を吸い、すぐに乾くという魔法のような布製品が店内に揃っています。この記事では、抜群の機能性から奈良の伝統を受け継ぐストーリーまで、知ればもっと好きになる「ならっぷ」の魅力を余すことなくご紹介しましょう。
蚊帳織り(かやおり)とは

「ならっぷ」の製品を知るためにとても大切なのが「蚊帳織り(かやおり)」という特別な布です。蚊帳とは、昔、寝るときに蚊などの虫から体を守るために、ベッドの周りに吊るして使っていた、1mm程度の隙間のある平織の布を指します。
「ならっぷ」の商品で使われている蚊帳織りの布は、目の粗い布を何枚も重ねて作られています。「布が1枚だけだと商品にするのが難しいので、何枚も重ねることで、いろいろな場面で使える生活道具を作っています」と話すのは、丸山繊維産業の3代目社長、丸山欽也さん(68歳)です。

例えば、お土産で人気のふきんは6枚の布を重ねて作り、たくさんの水を吸うバスマットは10枚重ねというように、使う場所によって布の枚数を変えています。
蚊帳織り布の特長は、水をよく吸うことと、すぐに乾くことです。普通のタオルは、表面のループ状の糸が水を吸います。しかし、より水を吸わせようとすると、空気が通りにくくなって乾きにくくなるのが欠点です。
対して蚊帳織りは、糸と糸の間が1mmほど開いた布を何枚も重ねて作られた布です。たくさんの小さな隙間ができ、水が細い隙間に自然に吸い込まれ、毛細管現象でスポンジのように水をすばやくたくさん吸えるようになります。隙間がたくさんあるので、空気がよく通り、とても早く乾きます。ばい菌が増えにくく、においがつきにくいので、清潔に使えるのも蚊帳織りのメリットです。
蚊帳織りの良さはそれだけではありません。もう一つ特別なのは、使えば使うほど柔らかくなっていくことです。「使い続けると固くなるタオルとは逆に、蚊帳織り製品は使うほどに糸が柔らかくなります」と丸山社長は語りました。この特徴から、時間をかけて大切に育てるような感覚も味わえるのが「ならっぷ」製品の良さです。
奈良の伝統産業「蚊帳織り」の歴史と現在

奈良町は、明治時代から蚊帳をたくさん作る場所として有名でした。しかし、昭和40年代(約50年前)に下水道が整備されたり、エアコンや網戸が多くの家に付けられたりして、蚊に悩まされることが少なくなりました。そのため、蚊帳はだんだん必要とされなくなっていきました。
多くの蚊帳を作っていた会社は、同じ織物の技術を使って、レースカーテンやふすまの布、寝具など、別の製品を作るようになりました。丸山繊維産業も、農業で使う資材(作物を守るための寒冷紗)を作る事業に変わりました。丸山社長によると「今でも蚊帳の布を最初の糸仕入から最後の商品まで一貫生産しているのは、奈良県では私たちの会社が最後です」という状況です。
ブランド「ならっぷ」誕生秘話:人との縁が紡いだ発信拠点

蚊帳織りが少なくなっていく中で、「ならっぷ」というブランドは人と人のつながりから生まれました。丸山社長は笑顔で「すべては人のつながりから始まっています」と話します。
大きく変わるきっかけになったのは、故・恵中三市蔵さんという画家との出会いです。恵中さんは自分のアトリエ(絵を描く場所)を地域の人たちに開放し、子どもたちに絵を教えるなど、積極的に自分の作品を世界に発信していました。その姿に強く心を動かされた丸山社長は「自分たちの工場と技術の良さを、もっと多くの人に伝えるための『発信基地』が必要だ」と思ったのです。
こうして、奈良の蚊帳織りの技術と魅力を多くの人に直接伝えるための場所、ねっとわーくぎゃらりー「蚊帳の夢Ⓡ ならっぷ」が奈良市内に誕生しました。
他社の追随を許さない「一貫生産」の強み
「ならっぷ」製品の独自性を支えるもう一つの柱が「一貫生産体制」です。丸山繊維産業では、布を織って、染色・プリントまで、形を整えて、縫い合わせて商品にするまでのすべての工程を、自社の工場で行っています。

通常、織物製品の多くは準備工程や布の製織、染色・プリント、縫い合わせるといった工程を担う会社がそれぞれ別々です。しかし、丸山繊維産業は糸さえあれば、自分の会社だけで最初から最後まで全部作ることができる珍しい会社です。このように一つの会社ですべての作業ができることが、とても大きな強みになっています。
すべて自分たちだけで製品を作る強みは、新しい商品をすぐに考えて作れることです。良いアイデアを思いついたら、すぐに試作品を作ることができるため、少ない数からでも新しい商品を作ることが可能です。他の会社のように布を作る会社と縫う会社が別々だと時間もお金もかかります。しかし、丸山繊維産業は自分の工場だけですべてできるので、お客さんの希望にすばやく応えられます。

良い品質にとことんこだわれることも強みの一つです。すべての作業を自分の会社でできるので、より良い品質の商品が作れます。例えば、他の会社の製品は、1インチ(約2.54cm)の中に縦と横それぞれ19本/吋~20本/吋の糸を使うのが普通です。しかし、丸山繊維産業では23本の糸を使うことで、水をよく吸い、厚みがあって、触り心地の良い布を作っています。
また、ふきんの巾を普通のものより5cm大きい35cmにしたり、重ねる布の枚数を1枚多い6枚にしたりと、細かい部分まで工夫しています。他の会社のように作業を分けると、会社同士のやりとりが必要になるので、時間もお金もかかってしまいます。
試行錯誤から生まれた、人気商品の開発ストーリー

「ならっぷ」のお店を最初に開いた時は、売っている商品の種類が少なく、大変なこともあったと丸山社長は話します。その後、お客さんの意見をよく聞いたり、人気のある商品を調べたり、自分たちの持っている技術を見直したりする中で、少しずつ商品の種類が増えていきました。
異業種連携が生んだ「ふすま地ブックカバー」


「ふすま地のブックカバーは、お店に来たお客さんから『ポストカードの絵柄でブックカバーがあったらいいな』という意見をもらって作りました」
今では160種類以上の柄があり、中には天皇陛下にお贈りした特別な品物もあります。筆者も使っていますが、本屋さんでもらえる紙のカバーと違って、丈夫で長く使っても壊れないので便利です。光が当たると表面が少しきらきら光るのもきれいで、持っていると嬉しい気持ちになります。
希少性の高い、手染めの「紙帳シリーズ」


「蚊帳織りの技術を使って平たい紐を織り、手で染めて、裏側を強くする加工をした紙紐の製品も作りました。手で染めたので一つ一つ違う風合いが特徴ですが、効率良く作れないため、今はあまり作っていません」
今、お店で売っているのはブックカバーとタペストリー(壁に飾る布)、紐そのもの。お店で見かけたら、買うチャンスです。筆者も店に行って買いましたが、他の商品と比べると数が少ないと感じました。
240種超のデザイン!看板商品「絵便りふきん」

今や「ならっぷ」の一番人気の商品となっているのが「絵便りふきん」シリーズです。人気の秘密の一つは、たくさんのデザインがあることです。少ない数からでも印刷できるインクジェットプリンターを導入したことで、今では240種類以上のデザインを扱っています。「目標は、毎日違う柄を選べるように365種類です」と丸山社長は語ります。季節の花や奈良らしい絵、かわいい動物の絵など、好きなデザインを選ぶ楽しさも「ならっぷ」のふきんの大きな魅力です。

プリント技術があることで、一般の人からデザインを募集したり、イラストを描く専門家と一緒に作品を作ったりする新しい企画もできるようになりました。「ならっぷ」のふきんは、ただきれいなだけではなく、何度も試して改良したり、いろいろな人とつながったり、新しい技術に挑戦したりしてできた物語のある商品です。
直営店で体感する「ならっぷ」の世界観

奈良市の奈良町にある「ならっぷ」の直営店は、商品を買うだけでなく、蚊帳織りの深い魅力を感じられる場所です。「店の天井や照明のかさにも、自分たちの会社で作った撚り紐の織物を使っています」と丸山社長。お店全体で「ならっぷ」のブランドの世界観を表現しています。

お店に来るお客さんは、リピーターが多いそうです。「『実際に使ってみて良かったからまた来ました』という声をよく聞きます。『ここの工場で作っているから』という理由で来る人は、まだ少ないかもしれませんが」と丸山社長は控えめにいいますが、これは商品そのものの魅力が強いという証拠ともいえるでしょう。
未来へ継承する、奈良の伝統と作り手の使命

昔は日本一の生産量を誇った奈良の蚊帳づくり。その歴史と技術を若い世代に伝えていくことが、丸山社長の大切な役目だと考えています。
「今、『なぜ蚊帳織りのふきんなのか?』というブランドの一番大事なところを改めて考え直し、もっと詳しく、分かりやすく伝えていく取り組みを進めています。ただ『昔は蚊帳をたくさん作っていたから』という説明だけでなく、歴史的な背景や技術の価値を、物語として丁寧に伝えていきたいです」

奈良県織物工業協同組合の理事長としても、丸山社長は「奈良の蚊帳織り」という地域の特産品を守り育てることに力を入れています。組合が認めたロゴマークを商品に貼り、本当に奈良で作られた蚊帳織りの製品であることを証明する取り組みを進めているそうです。
「ならっぷ」製品を手に取るあなたへ

「ならっぷ」製品、特にふきんは、買ったばかりの時はのりがついているため少し硬いのが難点。柔らかくするには熱いお湯で3分ほど煮ると良いと丸山社長は教えてくれます。洗濯するときは洗濯ネットを使うことをすすめていました。織り目が粗いため、強く洗うと縮んだり形が崩れたりする原因になるそうです。できれば手で軽く絞り、自然に乾かすのが一番良いと仰っていました。
奈良の歴史と共に育ってきた「ならっぷ」の蚊帳織り製品は、毎日の生活で使いながら、だんだん愛着がわく特別なもの。奈良に行くときはぜひお店に立ち寄り、独特の手触りと物語を感じてみてください。あなたの心に残る素敵な品物が見つかるはずです。
店舗情報
【店舗名】蚊帳の夢Ⓡ ならっぷ
【住所】〒630-8371 奈良県奈良市光明院町5番地
【電話番号】0742-22-8851
【営業時間】
- 日・月:10:00〜19:00
- 火〜木:11:00〜19:00
- 金:10:30-19:00
- 土:11:00-19:00
- 祝日:曜日に準ずる
【ウェブサイト】https://naramachi.nawrap.com/
【アクセス】近鉄奈良駅から徒歩 約10分
※専用駐車場はありません
本社・本社工場
【企業名】丸山繊維産業株式会社
【住所】〒632-0062 奈良県天理市長柄町695番地
【電話番号】0743-66-1282
【ウェブサイト】http://www.maruyama-seni.co.jp
※店舗情報は取材時の情報と異なる場合があります。最新の情報は公式ウェブサイト等でご確認ください。