野菜の種には2種類あるのをご存じですか?固定種と一代交配種です。
一代交配種は、人工的に作りやすいように交配されている種です。 そのため、発芽が揃い、虫や病気に強く、大きさや収穫時期も揃います。生産者にとっては育てやすいです。
一方で固定種とは自然のものです。いびつなものが多く、香りや味が強いのが特徴です。 一代交配種と 大きく異なる点は、固定種は、その土地でしっかり育ったものを選んで種を残していくことで、その土地に合った種になっていくことです。
飯能の土壌でしっかり育った固定種を選抜し、種を残していくことで、その土地に根ざした農業をしたい。そう語るのは、2023年秋、新規就農を果たした男児3児のママ「わんぱく農園」園主の川口ゆう美さんです。
【プロフィール】「わんぱく農園」経営、川口ゆう美さん(平成元年生まれ)愛媛県出身。大学卒業後いくつかの職を経て結婚、退職。出産を機に飯能市へ移住。独学で農家を始める。ご主人は会社員。
固定種こそ、ありのままの姿
「一代交配種はとても育てやすいものではあるのですが、人工的に交配されたせいか違和感がありました。自然のもの(固定種)っていびつなものが多いんです。でもそれが私にとっては当たり前の感覚なんです」
どちらにもメリットデメリットがあるが、川口さんは固定種に惹かれました。
ご自宅の庭はお子様たちの研究所。自由に楽しく学べるラボのような場所です。
「お客様にお出しする前に必ず自分で一回育てて食べてみた上で、販売用のものを畑に植えるので、子どもと一緒に家庭菜園ですね」
学校では学べない素敵な経験です。お子様も自分のすきなものはわかっていて、来年はブルーベリーを育てたいとか。幼少期に親子で「命を育てる」経験はかけがえのないもの。食育の場でもあります。
しかし、こうして子育てをしながら農業をはじめるまでは決して平たんな道のりではなかったそうです。
やりたいことに、とことん突き進みたい
「大学卒業後、いくつかの職業を経験していくうちに、何かこう自分の中で突き進んで追求できるような環境でお仕事したいという気持ちが出て来ました。自分でどんどん展開していくような働き方が合ってると思ったんです」
20代の同級生が家庭菜園で取れたものを持ってきてくれたり、周囲には趣味や本業で農業に携わっていた人が多かったそうです。そういう経緯もあり、農業をやりたかった川口さん。それが「自分の中で突き進んでいく道」だったのですから、とても幸せだと思います。
そしていよいよ、まずは区画整理された菜園を借りて野菜作りを始めました。周囲の人との交流にも恵まれ、固定種の存在を知った彼女は、その強い香りや味に魅力を感じ、本格的に農家になることを決意しました。
子ども3人、一人で農家になるということ
農業大学も出ていない。ましてや 3 人子供がいて 1 人は乳幼児、 0 歳児。どこから手を付けていいか分からなかったのも無理はありません。
しかしここでくじけないのが彼女の今後を大きく変えていくことになります。自分と同じ境遇の人を探し始めたのです。
すると長男のママ友の知り合いで、子どもを2人育てながらサツマイモを育てている女性の存在を知り、連絡を付けてもらいました。この素早い行動力は「一人でやっているからできる」こと。これこそが彼女のやりたかった仕事の仕方だったのです。
「運も良かったんだと思うんですけれども、本当に農業をやりたいと思ってからは、人との出会いにもとても恵まれているんです」
サツマイモ農園の人から、隣の日高市で慣行農法(従来の方法で農薬なども使う)を教えてくれる人がいることを知り、川口さんはそこで1年間、修行を積みました。
飯能の土壌で固定種を育て、種を残していく
川口さんが固定種に惹かれた理由のひとつに「種を残していく」つまり種が受け継がれていくというのがあります。金時人参を例にして説明してくれました。
「種の性質や生産地、その年の気候や気温、天気によって育ち方が違います。その中でも生き抜いてしっかり大きく育つものもあるんです。これを選抜して種を残していきます。今年は 1 年目になるので、この飯能の土地でもしっかり育ったものを選んで種を残していくということを優先しています」
一代で終わるのではなく、種は淘汰されながらも受け継がれていくと言う点に、持続可能な農業を見た気がしました。
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