「僕には、もう二度と会えないお母さんが三人いるんです」
そう言って言葉を詰まらせた、NPO法人『ここ』の理事長である三科元明さん。
三科さんは現在、大阪吹田市を中心にフリースクールを4校運営しているほか、『大阪府フリースクール等ネットワーク』の立ち上げ時には代表理事を務めた経験もあり、メディアにもたびたび取り上げられています。
「不登校から生まれる負の連鎖を根本から解決したい」
強い信念をもとに活動を続ける三科さん自身は、不登校を経験したわけではなくごく普通の恵まれたご家庭で育ったとのこと。なぜそれほどまでにエネルギーを注げるのか、フリースクール『ここ』が生まれた背景を紐解きます。
これまで15年以上子どもの支援と不登校に向き合ってきた三科さんの半生は、不登校で今も苦しんでいる当事者の親子はもちろん、周囲にいる不登校の家庭への理解を深め、社会全体を変えていける可能性に満ちています。
夜の繁華街、路上ライブで出会った子どもたち。原点であり「ここ」の始まりだった
三科さんは20歳の頃、バンドを組みドラムを担当していました。梅田の繁華街で路上ライブをする三科さんは、路上生活者のおじさんや夜遅くになっても家に帰らない子どもたちと出会い、仲良くなっていったそうです。
中でも、行き場のない小中学生が売春をしているという事実は、三科さんに大きなショックを与えました。
「子どもを搾取する大人を絶対に許せなかった。
初めは、とにかく子どもたちが働く風俗店の看板を壊したり、電話ボックスの中の張り紙を全部剥がしたりと、手当たり次第やってましたね。そんなことしてるうちに、悪目立ちしてしまって、危ない人に追いかけられたこともありました。
でも、途中で気づいたんです。
僕がそんなことをしても、この子たちは働くことを辞めないし、むしろ働く場所を奪うことで行き場を失ってしまうのではないかって」
そこで三科さんは警察と連携して、夜回りを始めます。そこでは、薬物でボロボロになってしまった子たちをたくさん見てきたといいます。夜回りのようなことを仕事にしていきたいと考え、吹田市の適応指導教室(現:教育支援センター)で有償ボランティアスタッフとして働くようになります。
「子ども支援は路上ライブがきっかけでしたが、不登校が社会課題であると強く認識したのは適応指導教室でのボランティア経験です。フリースクールを作る大きなきっかけにもなりました」
もっと遊べる居場所を作りたかった
「ただ、適応指導教室では中学を卒業したら、その後の彼らに関与できなくなってしまうんです。そこからがスタートなのに、何かあった時に力になれないのは辛いですよね」
三科さんは中学卒業後の追跡ができないか、教育委員会に掛け合ってみましたが義務教育期間修業後の支援は諦めるしかありませんでした。
そこで、高校に進学したあとでもセーフティーネットとしてつながっていられる場所を作ろうと思いフリースクールを設立したそうです。
「と、表向きにはそういう理由なんですけど、実は僕はその子たちともっともっと遊んでいたかっただけなんです」
三科さんは路上ライブで出会った子たちとも、もっと遊びたかった、つながっていたかったと話していました。それは、三科さんが ” 出会った人をみんな幸せにしたい ” と今も変わらず持っている信念につながります。
そうして、『ここ』が誕生し、はじめは仲間とボランティアでスタートさせました。
反発を受けながらも勉強中心のカリキュラムに変更。自立して、本当に幸せになるために
今は、学校に近いような授業のカリキュラムが組まれていますが、設立から8年間は学習のカリキュラムはなかったといいます。
「結局、本当の子どもの幸せってなんだろうと考えた時、社会から必要とされることだと思うんです。それには、とくにこれからの時代は答えのない問いに仲間と向き合って、行動して修正していく力が必要だと感じています。幸せになるには、答えのない問いに向き合う力が必要で、それを一緒に身につけていこうと繰り返し話しました。すると子どもたちも、やりたい。と言ってくれたんです。そこから(学校寄りのカリキュラムが)始まりましたね」
カリキュラムを作ることや、学校に寄せた時間にすることには当然反発があったそうです。しかし、三科さんはもしも高校に進学したり復学できたとき、できるだけこれまでの生活とのギャップをなくして、社会に求められ、自己を肯定し、感謝されてお金を得る存在になってほしいという思いを伝え続け、今の形になっていったと話します。
不登校で孤立する母親。それが最大の課題
フリースクール設立から10年間、三科さんは他でアルバイトをしながらフリースクールをボランティアでやっていました。そのうち、卒業生たちが『ここ』で働きたいと言ってくれたり、知り合いに声をかけて手伝ってもらったりしていました。
スタッフにお給料を渡せるようにするためにも『ここ』は設立から10年目にして初めて保護者から月謝をいただくことにしました。
しかし、現状では不登校になってしまった子のために働く時間や場所を変えたり、仕事を辞めざるを得なかったりするケースも少なくありません。
「とくにお母さんは、どこにも相談できないまま孤立してしまう人が多いです。 “ この子をお願いします ” そう言って、二度と会えなくなったお母さんもいます……。不登校の子を抱える母親の孤立は社会にどれだけ負債を与えるか。この負の連鎖を根本から断ち切るには、社会を変えていかないといけない。僕は『ここ』の活動を通じて、社会を変えていきたいんです」
『ここ』を卒業してからも、保護者と気軽に話し合える関係を続ける三科さん。保護者の方とサーフィンに出かけたり、遊んでいたりする時がとても楽しいのだとか。
誰もが幸せになるために。そのために「ここ」がある
『ここ』の長期的なビジョンは
「学校に行っている行っていないに関わらず誰もが受け入れられ、自立できる社会を目指す」
ことです。
学習だけでなくアクティビティを積極的に取り入れているので、本当は体を動かすことが好きな子や保護者の方には『ここ』はぴったりです。もちろん参加するかしないかは、子どもの意見が尊重されます。やりたくなければ、やらなくてもいいのです。
『子どもたち一人ひとりに幸せになる権利がある』
ありのままの自分をさらけ出して生きることができる場所『ここ』は、保護者にとっても理解者とのつながりが持てる居場所となります。
『ここ』から、社会を変えていく活動を続けています。
学校へ行けないと悩んでいる方は、一度『ここ』の扉をたたいてみてください。
NPO法人 ここ
HP:https://npokoko.org/
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TEL:06-6382-5514
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