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フード  |    2026.03.11

名前のない八百屋さん|安くて新鮮な野菜を届ける地域に欠かせない存在

店名も看板も出さず、静かに野菜を売り続ける名前のない八百屋さんが、愛媛県松山市にあります。それでも毎日のように人が立ち止まり、「これ、ええね」「また来たよ」と声をかけられるお店です。

店主の大久保さんは、現在75歳です。かつて30年にわたりパン屋を営み、のちに野菜販売を通して地域の暮らしを支えてきました。

安さや鮮度を声高に語ることはありませんが、「新鮮な野菜を安く食べて、元気でいてもらえたらそれでいい」という大久保さんの姿勢は、長年多くの常連客に支持されています。

商売を超えた“地域との関係性”が積み重なった結果、日々の生活に欠かせない存在となってきました。本記事では、派手さはなくとも確かな価値を持つ、名前のない八百屋さんの日常と想いを紹介します。

店の名前を出さない理由

平和通りに面しておりアクセスしやすい

「お店の名前はないんですか」と尋ねると、大久保さんは迷いなくこう答えます。

「必要ないから」。この八百屋さんに来るのは、ほとんどが顔なじみの方です。場所も、売っている野菜も、価格帯も、すでに分かっている人たちが日常の延長として立ち寄ります。

新しく知ってもらうために名前や看板を出すことよりも、今日も必要としてくれる人に野菜を渡すことの方が大切だといいます。名前を付けて広げることよりも、静かに続けることを選ぶ。その姿勢には、商いを「生活の一部」として捉えてきた大久保さんらしさが表れています。

名前はなくても、信頼はすでに根付いています。

30年の商いの変化

新鮮な食材が並びます

大久保さんはもともと、30年ほどパン屋をしていました。その間に八百屋で修行し、パンを焼く傍ら、少しずつ野菜も並べるようになったといいます。

「珍しいやろ。パン屋の中に野菜」パン屋を一度やめたあと、友人がこの場所を貸してくれました。野菜販売を続けていたある時、「やめられたら困る」というお客さんの声が届きます。

「それで、またちょっと始めたっていう感じやね」大きな決断や再起の物語ではありません。ただ、必要とされているから続ける。それが、この八百屋さんの原点です。

【商品特徴①】とにかく新鮮。見れば分かる野菜

キャベツの甘みを存分に味わえました

「すごくいい大根ですね」そう声をかけると、大久保さんはにこやかに値札を指します。

「安いやろ」産地やブランドを大きく打ち出すことはありません。けれど、並んでいる野菜はどれも張りがあり、色が濃く、手に取った瞬間に鮮度が伝わってきます。

【商品特徴②】仕入れ基準は“自分の目と感覚”

旬のみかんが豊富に揃っています

野菜の仕入れ基準を聞くと、迷いなくこう答えます。

自分が見て決める。果物は、食べて決める」長年続けてきた経験から、見ただけで分かることが増えました。もちろん失敗もあるそうです。

「美味しいと思って買ったら、そうでもなかった時もある」その正直さこそが、常連客との信頼をつくってきました。

【商品特徴③】毎日が特売。目玉商品はつくらない

非常に立派な大根

この八百屋さんには、「今日の目玉商品」はありません。理由は明快です。

「毎日が特売みたいな値段つけてるから」スーパーのように特定の商品を安く見せることはしません。経費を抑え、その分を価格に反映する。

その積み重ねが、「ここは安い」という評価につながっています。

安く売る理由は、利益よりも日常

10歳以上若く見える大久保さん

冷暖房はありません。暑さも寒さも、すべて自然のままです。

「経費を下げる分だけ、安く売れる」シンプルですが、続けるには体力も覚悟も必要です。

それでも続ける理由を聞くと、答えはとても穏やかでした。「新鮮な野菜を安く買って、いっぱい食べて、元気でいてもらえたらそれでいい」

常連客との距離感がつくる安心感

お客さんからの注文が殺到しています

名前のない八百屋さんには、毎日のように顔を見せる方がいます。大久保さんは、常連客との関係について「特別なことは何もない」と語ります。印象に残るエピソードを尋ねても、「特にない」と即答するほどです。

それは、日々のやり取りがあまりにも自然で、特別と感じる必要がない関係性だからかもしれません。

野菜を選び、短い言葉を交わし、また明日も来る。その繰り返しの中で、信頼が少しずつ積み重なってきました。会話がなくても成り立つ安心感と、必要な時には言葉を交わせる距離感

その心地よい関係性こそが、この八百屋さんが長く愛され続けている理由の一つです。

これから先やりたいことは「ない」

地元の方から愛されるお店

「これから先、やってみたいことはありますか」と尋ねると、大久保さんは、少し考えてから静かに首を振ります。

「特にないね。あとは、何年続けられるか、それだけやな」
新しい挑戦や事業の拡大を語ることはありません。年齢のこともあり、今は無理をせず、これまで通りの日常を続けていくことが何より大切だと考えています。

毎日野菜を並べ、荷物を出し入れし、片付けまできちんと終える。その一つひとつは簡単なことではありません。

「これを毎日やるだけでも大変なんよ」と語るその言葉には、長年商いを続けてきた重みがあります。特別な未来像はなくとも、今日を丁寧に積み重ねていく。その姿勢こそが、大久保さんの商いそのものです。

名前はなくても確かに必要とされている

地域に欠かせないお店だと話すお客さん

名前を付けず、特別なこともしない。それでも大久保さんの八百屋には、今日も人が集まります。

毎日野菜を並べ、言葉を交わし、片付けまできちんと終える。その積み重ねが、地域にとって欠かせない存在を形づくってきました。

「やりたいことは特にない」と語りながらも、目の前のお客さんに向き合い続ける姿勢は、商いの本質そのものです。75歳になった今も続くこの日常は、決して当たり前ではありません。

名前はなくても、確かに地域の暮らしを支えている八百屋さんが松山にあります。

基本情報
  • 住所:〒790-0807
    愛媛県松山市平和通1丁目4-1
  • 営業時間
    【平日】10時から15時
    【土曜祝日】10時から12時
  • 休日:日曜

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この記事を書いた人

世界のわたなべけん

地域に眠る人・場所・想いを取材し、 文章✕映像✕出版✕AIで編集、 世界に向けて発信しています。 神社仏閣、地域活動、仕事など、 現場に足を運び、空気感を伝えることを大切にしています。 地域の価値を最大化し、世界に届けるのがテーマです。

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