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フード  |    2023.07.28

マエジマ製パン「変わらぬ幸せな味」を追求して15年、オーナー夫婦のパン屋を続ける想い

岐阜県可児市
人口約10万人、木曽川と可児川が流れ緑も多い自然豊かな街。

名鉄日本ライン今渡駅から車で7~8分。住宅地やお店を見ながら車を走らせると、白い三角の建物が見えてきます。

街並みに馴染む、おしゃれな佇まい

ここはマエジマ製パン。
オーナーである前島さんご夫婦が営む街のパン屋さんです。

2008年にオープンしてから、こだわりのパンを求めて連日お客さんが絶えない人気のお店。特に土曜日には、店の外にまで行列が続きます。

中に入ると、ふわりと香ばしくいい香り。約60〜70種類のパンたちが出迎えてくれます。

ところ狭しとパンたちが並んでお出迎え

中でも人気なのは、ミルクフランス。
ぱりっと香ばしい生地に、なめらかで甘くとろけるようなミルククリームが相性ばつぐん。1人でもぺろりと食べられます。

そして、店内を見渡すと目を引くのは、色鮮やかなデニッシュたち。色々な果物が宝石のようにきらきらと輝いて、思わず手が伸びます。

取材当時(2023年7月)は、もも・オレンジ・ベリー・チョコナッツの4種類

「定番のものを、と思っているけど、デニッシュで季節を感じてもらえたら」そう語るオーナー。デニッシュを並べることに憧れもあったと言います。

何度も生地を織り込んで寝かせ、丁寧に作られたデニッシュ生地は、クロワッサンやコルネにも姿を変え、人気の品々となっています。

ぱりぱりの生地に濃厚なクリーム、コアントロー(オレンジのリキュール)がアクセント
デニッシュ生地は3日間丁寧に織り込んで作られている

そのほかにも、子供たちに人気な可愛らしい菓子パンや、食欲をそそる惣菜パン、噛むほどに味がでるハード系のパンなどがあり、見ているだけで楽しくなります。

子供たちに人気のあのキャラクター!「かわいいパン」はチョコとカスタードの2種類
実はオーナー夫婦いちおしの天然酵母のパンは、ドライフルーツやクリームチーズなどと相性抜群
ハード系のパンが目の前にたくさん並んでいる

そんな、地域の人々に愛される味を日々生み出すマエジマ製パン。その裏では、オーナー夫婦のひたむきなパン作りへの想いがありました。

パン屋巡りの新婚旅行で出会った衝撃

新婚旅行はさすがパン好きの2人。全国のパン屋をめぐることに。東北からはじまって、旅も終わりに近づいた時、神奈川にある「ブノワトン」と出会いました。

現在「ブノワトン」はオーナー高橋さんの逝去によって閉店。「ムール・ア・ラ・ムール」と店名を変え、オーナーの意志を継いだ弟子さんが営んでいる。
(参照:ムール・ア・ラ・ムール公式HP)

スタイリッシュな外観もさることながら、形も味も他のパンとは別ものだと感銘を受けたと言います。「ブノワトン」では、できるだけ国産小麦にこだわり、当時は珍しかった製粉もオーナー自身でする。そして熟成させて、手間暇をかけてじっくり作り上げるパン。それを目の前で見て味わった時に、パン作りへの考えが変わったようです。

「発酵と熟成、同じ意味に捉えられるけど、自分は熟成って言葉を使うかな。単に大きくする発酵というよりも、1時間でできることを2時間、3時間かける。そこで味に差が出てくるんじゃないかなって思った」

「パン屋を続けられるだろうか」先の見えない不安と闘う日々

可児市から20kmほど北へ向かった山に囲まれた町「七宗(ひちそう)町」。ここが、オーナー夫婦の始まりの地でした。

縁があって、店をオープンさせて1か月。出だしは好調で生活していけると思っていた矢先、1か月ほどして客足が遠のいてしまったと言います。

「フランス人の元で修行していたのもあって、そのままのスタイルでお店を始めたし、ハード系(硬めのパン)が自分たちは好きなんだけどね。1か月経ったら急にお客さんが来なくなって…たぶん周りに合っていなかったんだね。」

平日には、工場や町の高齢者の集まる場所に赴いたり、イベントや道の駅でパンを売る。そして土日にはもちろんお店でも。

道の駅「ロックガーデン・ひちそう」の外観 (国土交通省中部地方整備局HPから引用)

夫婦にはちょうど、赤ちゃんが産まれたところでした。当時生後4か月だった小さな娘さんの育児をしつつ、自分たちの作ったパンを食べ、改善点を話し合い、試行錯誤する毎日。

「いつも、どうしたらいいのか考えていた。2人で考えてた時間が成長させてくれたと思っている」

同じ頃、名古屋で開催された勉強会に参加したこともさらなる成長のきっかけに。全国の名だたるシェフたちのトップレベルの技術や様々な考えを目の当たりにしたことは、今のパン作りの土台になっていると言います。

長く続いた苦悩を乗り越えて、心機一転可児市へ

2008年6月。「マエジマ製パン」がオープン。

小さなお店はいつもお客さんでいっぱい

最初は3、4人のスタッフとともに始めた小さなお店でした。ゆかりのない土地で、最初はお客さんとの距離が遠く寂しさを感じる時期があったそうです。しかし、少しずつお客さんがお客さんを呼び「おいしい」と言ってくれる。こだわりの商品を買ってくれて、不安な気持ちもほどけていったと言います。

2009年春、2人目の娘さんが産まれ、仕事と育児の両立は本当に大変だったと振り返ります。お客さんやスタッフが増えるにつれて、品質を維持することや接客に頭を悩ませたことも。

忙しい日々の中で、厳しくも真摯にスタッフと向き合い、店の味を守ることに邁進して、反省と改善を繰り返して今に至った過程は心を打たれるものがありました。

そして、お話を聞いていて興味深かったのは、いくつものパンがある中で、あまり売れないものもあることです。例えば、もちもちよりも、ずっしりとした重厚感で食べ応えのあるベーグル。毎週買いに来てくれる人もいれば、まったく手に取られないことも。

ベーグルは水曜日限定

「10人のうち10人すべてに気に入ってもらうってよりは、2、3人気に入ってくれる人がいればという考え方。わかる人にはわかるって味を生み出してるのかな。優等生を作ろうとは思ってないんだよね。なんかちょっと違う、くせがあるものを特にフランスパンとか、ハード系のパンでは意識していると思う」

「幸せ」を感じるパンを届けるために

「おいしいパンをずっと作っていたいね。スタッフたちが独立して、生産力が落ちてしまったとしても、一生現役でやっていきたいかな。老いとの闘いにはなると思うから、常に言い聞かせていて」と真摯な表情を浮かべているオーナー。

尊敬する東京の恩師は70代になった今でも、自分より年下の講師の話に耳を傾け、メモを取り、勉強を続けているといい、自分もそうありたいと語ります。

オーナーに日々意識していることを尋ねると

・食に関するものからアイデアを貯めておく(パン・ケーキ・食べ物・雑誌など)
・味覚に敏感になっておく(食べたときに何が入っているか考える)

とのこと。五感を研ぎ澄ませ、日々パンと向き合う。

普段見るもの食べるものすべてにインスピレーションを得て、学び続けることが、パン作りの品質の維持につながっている。パン作りに欠かせない、気温や湿度。変化する毎日だからこそ、変わらない味を届けたいと語ります。

商品づくりは、オーナーと奥さん、それぞれのアイデアが降りたときに、その都度、一緒に話し合うと言います。

「職人は満足したら終わり。毎日作りながらも満足しない。流行り物ではなく、今あるものに磨きをかけて、お客さんを裏切らないものを作り続けたい。パンを食べた時、幸せだなって思ってもらいたいね」

取材当日、厨房ではオーナーをはじめ、スタッフのみなさんが、協力して仕込みをしていました。

漂うパンの香りとともに、パンに対する愛情までもが感じられる空間でした。

変わらない味を届けながら紡がれるマエジマ製パンの歴史。これからも地域の人のみならず、多くの訪れる人を魅了し続けるでしょう。

【店舗情報】
マエジマ製パン
住所:岐阜県可児市今渡2499ー7
電話:0574ー62ー8408
営業時間:水~土 10:00~19:00 (売り切れ次第閉店)
定休日:日~火
予約:電話で可能
支払い方法:現金のみ
駐車場:20台 (第一駐車場、第二共同駐車場の総数)

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この記事を書いた人

川地 優衣(かわち ゆい)

岐阜県に住む年子2児の母。育児に奮闘しつつ、複業フリーランス(日本語教師/ライター/フォトグラファー)として活動中。好きなものは旅行と自然と音楽。カフェを巡ったり、花を撮影したり、歌ったりして過ごすのが好きです。30年住んだ自然豊かなふるさと岐阜県が大好き。地元の素敵な場所やそこで生業をする人たちの想いを記事にしていきます!

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