中山道と甲州街道の交わる宿場町として栄えてきた歴史がある長野県下諏訪町。
そんな下諏訪に人々の生活に寄り添う菓子店「ronron」があります。
開業してから5年もの間、店主である鈴木祐美さん(以下、ゆみさん)は、お菓子の製造から販売までを一人で担ってきました。
「将来はお店をもっと“小さく”し、お客さんとの交流を大切にし続けたい」と語るゆみさん。このような考えに至った背景やお菓子作りへのこだわりを聞きました。
「気軽に立ち寄れる菓子店」を目指して
ケーキ店や菓子店に対して「誕生日など特別なイベントの日に行く場所」といったイメージを持っている人もいるかもしれません。しかし、ronronが目指すのは「気軽に立ち寄れる菓子店」です。
実際、仕事の休憩時間や息抜きにふらっと訪れるお客さんも多いそう。店内にはケーキやクッキー、ドーナツ、マフィンなどが並び、特別なイベントがなくても、ついつい立ち寄りたくなるような居心地のいい雰囲気です。
店名である「ronron」は、フランス語で、猫がリラックスしたときに喉をゴロゴロと鳴らす音をあらわしています。
「猫が縁側でくつろぐようなイメージで、気軽に立ち寄ってもらうことを目指しています。タルトもお皿にナイフやフォークではなく、手づかみで食べてもらうのがいいですね」とゆみさんは笑います。
“おいしく安全であること”は譲れないポイント
ゆみさんのイチオシメニューは、旬のフルーツを使用したタルト。フルーツに合わせてタルト生地の製法を変えるといったこだわりようで、四季折々のおいしさを楽しめます。
「日本にはせっかく四季があるので、フルーツで季節を感じてもらいたいです」とゆみさんは語ります。
そして、もう一つゆみさんが大切にしているのが、素材へのこだわり。お菓子の材料には、できるだけ国産のものや農薬不使用のものを使用し、安全性を重視しています。
「お客さん自身やお子さんが食べたり、誰かに贈ったりするためのお菓子なので、“おいしく安全であること”は譲れません」
お菓子店を食べ歩いたりオンラインでお菓子を購入したりして、味やサイズ、値段、食べたときの感じ方などを研究しているゆみさん。消費者目線も踏まえながら「ronronで出すのであればどうするか?」も考え抜いており、お菓子作りに対する強い信念が感じられます。
お客さんの声が菓子作りのインスピレーションに
ゆみさんがお菓子作りを学んだのは、東京の代々木にある小さな個人店のお菓子屋さん。最初は接客や接客補助から入り、徐々に厨房でお菓子作りの知識を身につけていきました。
そのお店は、営業日と仕込みをする日が明確に分かれており、お菓子作りを集中的に学ぶにはもってこいだったそうです。「段階を踏んでステップアップできるので、すごくいい環境でした」と、ゆみさんは当時を振り返ります。
接客を担当する中でも、大きな気付きがあったそうです。それはお客さんの声を聞くことで、お菓子作りのインスピレーションが湧いてくること。
「代々木の菓子店はお客さんとの距離が近く、声を直接聞けるからこそ“次はこうしよう”と思えるんです。なので、製造や販売といった役割が明確に分かれている形態の店舗は、もしかしたら私には向いていないかもしれません」
接客をしながらお客さんの声を聞いた経験があったからこそ、製造から販売までを一人で担うronronのスタイルが確立されました。
ronronでは大切にしている軸はぶらさずに、お客さんの声を取り入れながら、お菓子作りをしています。
人の温かさに惹かれて下諏訪町へ!ronron開業
代々木の菓子店に勤めていたときから「ゆくゆくは自分の菓子店を開業したい」という思いを持っていたゆみさん。
なかなか踏み切れずにいたそうですが、行動のきっかけになったのは、結婚・妊娠・出産といったライフステージの変化でした。このまま東京で過ごすのではなく、温かい人たちに囲まれて子育てできるような環境へ移住したい…と考えたのです。
「下諏訪への移住の決め手は、町の方々の温かさです。通りすがりでも、“こんにちは”と声をかけてもらえるのが衝撃的でした。子供が一人で歩くようになったときも、自分からあいさつができる子になってほしいなと思い、移住することを決めました」
仕事がゼロになる移住という選択に至ったときに、ずっと挑戦してみたかった菓子店の開業を決断したそうです。
子育てを意識し、移住と菓子店開業を決断したゆみさん。
2019年7月4日に、晴れてronronをオープンしました!
オンラインショップがつないだ交流の形
2024年11月現在、お店がオープンしているのは週に3日ほど。食感や味がベストなタイミングで提供できるよう、週に7日フル稼働でお菓子を製作しています。
実は2人目のお子さんを妊娠したタイミングで、お店を閉めていた時期もありました。生まれたばかりの赤ちゃんを抱えながら、お客さんに満足していただくのは難しいためです。
しかし、お店を閉めていても、家賃などの経費はどうしてもかかってしまう。
そこでチャレンジしたのがオンラインショップの開設でした。
オンラインであれば、自分のペースでお菓子を製作し発送できるので、子育てと両立しながら働きつづけられます。
現在もオンラインショップは稼働中。絵本から飛び出してきたようなかわいいクッキー缶や季節のお菓子、コーヒー豆などを不定期で購入できます。
子育てとの両立の意味合いが強かったオンラインショップ開設ですが、思わぬ形で役立つことになりました。
それは引っ越してしまったお客さんとも交流が続くこと。ronronに通っていたお客さんが引っ越しても、オンラインでronronのお菓子を購入し続けてくれるそうです。
遠く離れてしまったお客さんとも、お菓子を通して交流がつづいていくのは、お客さんとの交流を大切にしているゆみさんらしいですね。
目標は「お店を小さくして、やれることは増やす」
そんなゆみさんに今後の目標をうかがったところ、「お店を小さくしていきたい」という思わぬ答えが返ってきました。
なんでもお店を小さくしオープンキッチンのような形態にすることで、製造と販売の場所を近づけ、お客さんとの距離をさらに縮めていきたいそうです。
現在の店舗形態は、製造場所と販売場所が仕切りで区切られています。お菓子作りの途中で販売スペースに立つと、お客さんに「買ってすぐ帰らなきゃ」と遠慮させてしまう可能性があるとゆみさんは考えます。
しかし、わざわざ来店してくれたお客さんには少し一息ついて、おしゃべりも楽しんでいってほしい。
だからこそお店をオープンキッチンの形態にすることで、お客さんに気を遣わせず交流を楽しめるような店舗作りを目指しています。
現在は使用をストップしているイートインも再開させ、お店を小さくしながらも、やれることは増やしていくことが目標です。
ゆみさんのお子さんが学校から帰ってきたら、イートインでお客さんに混じって宿題をする…なんていう未来も思い描いているそう。
「下諏訪はつながりがある町。“お友達からronronのお菓子をもらった”という理由で来店してくれるお客さんも多く、リピートにもつながっています。
私も菓子店で店員さんとおしゃべりするのが好きなので、ronronに来店するお客さんにも気兼ねなくおしゃべりを楽しんでほしいですね」
下諏訪の温かな雰囲気と、交流やつながりを大切にしているゆみさんの想いがマッチしているからこそ、ronronは町の菓子店として愛されているのかもしれません。
下諏訪を訪れたときには、絶品のお菓子とおしゃべりが楽しめるronronに立ち寄ってみてください。
店舗情報
店名:ronron(ロンロン)
住所:長野県諏訪郡下諏訪町社東町16-14
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/ronron.kashi/
オンラインショップ:ronronkashi.stores.jp
※営業日・営業時間は公式インスタグラムをご確認ください。