長野県の東部に位置する佐久市。首都圏からのアクセスの良さや私立小学校の新設を理由に、近年移住先としても人気の高いエリアです。その中心部から車で20分ほどの臼田地区に、オープンして3年目のカフェ「EDIT COFFEE ROASTERY」があります。オーナーの井出太輝さんは、コーヒー豆の焙煎からフードやスイーツの調理、接客をすべて1人で担い、市内の酒蔵とのコラボイベントも企画してきました。そんな井出さんにお店づくりのこだわりや、目指す姿について伺いました。
お客さんとの対話から、好みに合うコーヒーをおすすめ
EDIT COFFEE ROASTERYのオープン時間は朝8時。メニュー表には、コーヒー豆の種類や原産地の記載がありません。「本日のコーヒー」とだけ書いてありますが、常時7〜8種類の豆を用意しているといいます。
「コーヒー豆の銘柄や産地がバーッと書いてあっても、選ぶのが難しかったりよくわからなかったりしますよね。だから、あえて『本日のコーヒー』としか書かず、あとはオーダーのときに極力お客さまの好みを聞いておすすめするようにしています」と井出さん。コーヒーは「ちょっと苦手」「よくわからない」という方にも、そんな先入観を一新するきっかけとなるコーヒーの味に出会ってほしいと考えているそうです。
「お客さまの好みに寄せた味のものにすることもあれば、例えば『コーヒーの酸味が苦手で……』という方には『酸味はあるけれど、これなら飲みやすいかも』という味のものにしたりと、その時々のお客さまとの会話からさまざまな提案をしています」
コーヒーはあまり得意ではなかったけれど、お店に通ううちにコーヒーが好きになったと言ってくれるお客さんもいると、笑顔で話してくれました。
元々は佐久市を離れ一般企業に就職していた井出さんですが、オーストラリアに滞在した際、現地に根づくコーヒー文化に感銘を受けたことがきっかけでコーヒー業界へ転職。軽井沢に本店を置く丸山珈琲で修行を積んだ後、独立してEDIT COFFEE ROASTERYをオープンしました。
「カフェでコーヒーを日常的に飲むという人はこの辺りではまだまだ少ない印象です。もっとカジュアルにおいしいコーヒーを楽しめる場を地元にも作りたいと思い、生まれ育った土地に近い場所で開業することを選びました」
地域性のあるメニューで酒蔵とコラボ
オープン当初から、せっかく地元に戻ったのだから地域性のあるメニューを提供したいと考えていた井出さん。そこで作り出したのが、日本酒とコーヒーを合わせたカクテルです。米づくりに適した気候と千曲川の清流に恵まれた佐久地域には、13の酒蔵があります。
EDIT COFFEE ROASTERYの斜め向かいにアンテナショップを構えている佐久の花酒造もそのうちのひとつ。開店前のあいさつに訪れたとき、地酒の「佐久の花」を試飲した井出さんは、自身が持っていた日本酒のイメージとは違う味わいに感動したといいます。
「コーヒーのテイスティングのときに感じるフルーツのようなフレーバーがあって、日本酒とコーヒーは意外と似通ったところがあるかもしれないと感じました。これは2つを合わせたらきっとおいしい、とインスピレーションが湧いたんです」
そうして生まれたコーヒーと日本酒のカクテルをよりたくさんの方に楽しんでもらおうと、2023年8月には初めてのイベントも開催しました。佐久の花酒造の高橋寿知社長による日本酒についての話を聞きながら、日本酒の飲み比べや、希望に応じてノンアルコールのコーヒーカクテルも楽しめるというものです。
このイベントはその後も約2ヶ月ごとに毎回異なる佐久地域の酒蔵とコラボをしながら行われており、10回目となる次回は戸塚酒造とのコラボで、2025年2月を予定しています。最近では東京や埼玉など遠方からも参加者が訪れるほど人気のイベントで、より多様な方々に参加してもらいたいとの思いから、参加者は抽選によって決定しています。
「開店して間もない自分が歴史のある蔵元さんと一緒に取り組む貴重な機会を得られることは、とてもありがたいと感じています。お酒離れが言われている若い世代にとってもなじみのあるコーヒーとかけ合わせることで、日本酒への新しい興味や関心のきっかけにもなるとうれしいです」
地元で0から事業を始めるという選択肢があることを伝えたい
最近ではカフェ業の傍ら、近隣の高校で探求学習の時間に外部講師を務めることもあるという井出さん。若い世代にどのようなことを伝えたいと考えているのでしょうか。
「進学や就職のタイミングで佐久を離れる人は多く、ほとんどがそのまま戻ってきません。自分もそうだったように、戻っても職が探しづらいイメージがあるんじゃないかと思います。だからこそ、自分が0から立ち上げたお店を継続していくことで、若い人たちが地元で新しいことを始めるという選択肢を持つきっかけに繋がっていくといいですね」
井出さんの生き方がひとつのロールモデルとなり、お店や事業などさまざまなチャレンジをする人が増えていけば、佐久地域もますます活気のある町になるかもしれません。
「佐久市には近年特色のある小・中学校が次々に開校し、教育移住をする方々が増えています。でも子育て世代に限らず、何か新しい取り組みをするための移住を考えている方がいれば、自分の経験も含めてお話できればうれしいので、ぜひ遊びに来てください」
コーヒーが大好きな人も、普段はあまり飲まないという人も、そして何か新しいことを始めたい!という人も、EDIT COFFEE ROASTERYを訪れれば、ステキな出会いがあるかもしれません。
店舗情報
EDIT COFFEE ROASTERY
住所:長野県佐久市臼田67-15 1F
電話番号:080-7797-2264
営業時間:8:00〜18:00
定休日:火曜 ※臨時休業有り
公式サイト:editcoffee.jp
公式SNS:Instagram https://www.instagram.com/edit.coffeeroastery/