東京都東村山市と言えば、何が頭に浮かびますか?
お笑い芸人の「志村けん!」と答える人が多いかもしれませんね。
しかし、東村山市の大御所は、志村けんさんだけではありません。
居酒屋のルーツとなった酒舗「豊島屋本店」の酒蔵、豊島屋酒造が東村山市にはあるのです。
※酒舗とは、酒を販売するお店。または酒を飲めるお店のこと
豊島屋酒造では、毎週土曜日に酒蔵見学を開催しています。老若男女、海外の人も集まる“酒も縁も醸す酒蔵見学”とは。
豊島屋酒造とは
豊島屋酒造は、東京都東村山市で酒造りを営む酒造会社です。
その歴史の始まりは、400年以上も前に遡ります。
安土桃山時代から江戸時代へと移り変わる直前の1596年(慶長元年)。初代・豊島屋十右衛門が神田鎌倉河岸(現在の千代田区内神田)で、“酒屋”兼“立ち飲み居酒屋”の「豊島屋」を創業しました。
その後、現代のひな祭りに欠かせなくなった“白酒”を販売し広めるなど、東京最古の酒舗として、400年以上の長い歴史を刻み続けています。
酒屋兼立ち飲み居酒屋から始まった豊島屋ですが、明治時代の中期からは兵庫県の灘地方で清酒づくりを開始。
昭和初期には、豊島屋は酒屋の「豊島屋本店」(神田猿楽町)となり、酒蔵は東村山市に移転。醸造を担う「豊島屋酒造」と会社を分離独立させました。
現在では、白酒をはじめ、金婚(きんこん)・屋守(おくのかみ)・利他(りた)といった清酒、みりん、全国でもわずかな蔵でしか醸造していない熟成酒「貴醸酒(きじょうしゅ)※」などを醸造・販売しています。
※貴醸酒…水で仕込む日本酒とは異なり、一部を清酒で仕込んだお酒のこと。とろみがあり、甘く濃厚なお酒
江戸の情景と蔵人の想いが伝わる「酒蔵見学」
豊島屋酒造の酒蔵見学は、毎週土曜日の11時から開催されています(事前予約は不要)。
豊島屋酒造の大きな門の前で待っていると、11時頃に案内人の髙橋さんが出迎えてくれました。
豊島屋酒造の商品が購入できるお店「KAMOSHI no BA(かもしのば)」に通され少しすると、おじ様や赤ちゃんを抱っこしたママ、海外の方々などが続々と集合。客層の広さから、酒蔵見学の人気ぶりが伺えました。
参加料1,000円を支払い歓談していると、KAMOSHI no BAの外へ案内され、いよいよ酒蔵見学が始まります。
豊島屋がルーツとなった数々の日本文化に驚く
落語家のような小気味よい口調で語る案内人の髙橋さん。江戸のまちの活気が目に浮かぶような解説で、創業当時のまちの様子や、豊島屋酒造の成り立ちに想いをはせることができます。
中でも一番驚いたエピソードが、ひな祭りにお供えする”白酒”を庶民に広めたのは豊島屋だということ。
てっきり白酒はお雛様のような身分の高い人々の間で飲まれていたお酒だと思っていましたが、豊島屋が販売し、江戸の庶民の間で流行したお酒なのだそうです。
さらに、居酒屋のルーツも豊島屋だといわれています。
創業当時の豊島屋が始めた“酒屋兼飲み屋”が、江戸のまち(神田)で流行し、日本に居酒屋文化が根付いたそうです。
豊島屋が古くから大切にしている行動指針は「不易流行(ふえきりゅうこう)」。守るべきものは大切に守りながら、変えるべきことは大胆に変えていくという意味の言葉です。
この指針のとおり、品質・お客様や取引先からの信頼・職人気質・暖簾を守りつづけながら、新たな挑戦をしつづけたからこそ、豊島屋はさまざまな文化のルーツを生み出せたのかもしれません。
この他にも、髙橋さんの解説では豊島屋が生み出した文化を知ることができます。解説の合間に質問できますので、気になる方はどんどん質問してみましょう!
「途方もない時間」と「手間暇」をかけて醸造する蔵人に感謝したくなる
酒蔵に入ると、日本酒特有のフルーティーな甘い香りに包まれ心地よい気分に。まさに今この場所で、日本酒がつくられていることを実感できます。
蔵の中では、髙橋さんが米洗いから日本酒を搾り出すまでの醸造工程を詳しく教えてくれました。
一番印象に残ったのは、巨大な醸造タンクの上にあがり、中を覗いたこと。
タンクの中を覗くと、酵母が発酵する際につくりだす二酸化炭素の泡がぷくぷくと湧いています。日本酒は微生物の力でつくられていることを実感できる貴重な体験でした。
実はこの巨大タンク1台に、2.5トンのお米が仕込まれているのだそう。
しかし、2.5トンのお米を1度ですべて仕込むわけではなく、3回に分けてタンクに少しずつ仕込んでいき、やっと出来上がるのだといいます。
その理由は、タンク1台分の大量のお米を1回で仕込んでしまうと、雑菌が繁殖し醸造に失敗した時の損失が大きいため。
そのリスクを避けるため、
お米を少量ずつ洗う→蒸す→数日かけて米麹をつくる→米麹・蒸し米・酵母・水を加えてタンクで仕込む
という工程を3回繰り返す三段仕込みをしています。
仕込みの回数を重ねるたびに発酵状態を確認し、狙った味が作れるように調整をしているのだそうです。
豊島屋酒造では、多い時には4段、5段仕込みになるそう。
「菌たちに早く仕事をさせると荒い仕事をしますね。ところが、ゆっくり仕事をさせると、きめ細やかな仕事をしてくれるんです」と語る髙橋さん。
工場のような機械的な大量生産を選ばず手作業で手間をかけてつくる理由は、繊細な味わいのある日本酒づくりにこだわる故だということが伝わりました。
杜氏を含めたった5人で、膨大な時間と手間をかけて生み出される豊島屋酒造の日本酒。「こんな美味しい日本酒をありがとう!」と感謝せずにはいられなくなりました。
違いがわかると面白い。5酒の日本酒・貴醸酒・みりんを「飲み比べ」
酒蔵見学の後は、「KAMOSHI no BA」で豊島屋酒造の5種の日本酒・貴醸酒・みりんを飲み比べられる嬉しい時間。
髙橋さんが純米酒・純米吟醸酒・純米大吟醸酒のつくり方と味わいの特徴、試飲用のお酒の特徴について教えてくれます。
この日に用意していただいた試飲用の日本酒は、次のラインナップ。
- 純米大吟醸 無濾過生原酒 NEON(PINK)…精米歩合50%
- 純米吟醸 無濾過生原酒 NEON(BLUE)…精米歩合55%
- 特別純米 無濾過生原酒 NEON(GREEN)…精米歩合60%
- 金婚 山廃純米 無濾過生原酒…精米歩合70%・天然酵母を使用する山廃仕込み
- 金婚 純米無濾過生原酒 中取り 十右衛門 …精米歩合60%・搾りの中盤のお酒
- NEW RAINBOW 貴醸酒無濾過生原酒…熟成させる前の貴醸酒
- 天上みりん
※精米歩合…精米して残った米の割合。精米歩合が低いほど、米を削っている割合が高い
精米歩合が5%違うだけで、風味や旨味にわずかな差を感じます。精米歩合が低いほどフルーティーで澄んだ味わいになり、高いほどお米の深い旨味を感じました。
はじめて飲んだ貴醸酒は、フルーツのような芳醇な香りと甘味にびっくり。少しとろみがあり濃厚な味わいなので、デザート感覚で楽しめる一杯です。
製造方法によって顔が異なる日本酒に面白さを感じ、思わず全種類の試飲を2周してしまった筆者。
東京最古の酒舗の歴史や日本酒づくりを学びながら、ほろ酔い気分を味わえる素敵な酒蔵見学でした。
試飲で気に入った日本酒は、KAMOSHI no BAで購入が可能です。
筆者は、KAMOSHI no BAで限定販売されているNEON(PINK)とNEON(BLUE)を購入。
ほんのり甘く澄んだ味わいと上品な香りが特徴の日本酒で、酵母が生み出す微発泡も楽しい逸品です。
豊島屋酒造は酒を醸し、人と人との縁も醸す場所
「醸す」という言葉には、2つの意味があります。
- 麹 (こうじ) を発酵させて、酒・醤油などをつくる。醸造する。
- ある状態・雰囲気などを生みだす
引用:goo辞典
まさに豊島屋酒造は、酒をつくり、人と人との縁を生み出す雰囲気をもつくりだす「醸しの場」でした。
KAMOSHI no BAで試飲をしていると、はじめまして同士の見学者の間で会話がはじまり、自然と和やかな雰囲気が生まれます。
1人でも、カップルでも、夫婦でも、海外から来た方でも、日本酒をあまり知らない方でも、ここに来れば、いつの間にか日本酒に魅了され新たな縁にも恵まれるかもしれません。
会社情報
・会社名:豊島屋酒造株式会社
・所在地:東京都東村山市久米川町3-14-10
・アクセス:西武新宿線「東村山駅」東口より徒歩20分
・電話:042-391-0601(平日 9:00~17:00)
・酒蔵見学料:1,000円(試飲込)
・公式HP:http://toshimayasyuzou.co.jp/
・公式Instagram:https://www.instagram.com/toshimaya_shuzo