知的障がい者ソフトボール大会「ハンズホールディングスCUP 2024 東日本大会」に招待枠として出場する福井県代表のビッグドルフィンズ。
ハンズホールディングスカップは、日本知的障がい者ソフトボール連盟が主催する東日本大会の名称です。ハンズホールディングス株式会社の協力により、9月15日・16日に宮城県で開催されます。
この大会は、知的障がい者スポーツの認知度向上と魅力発信を目的とし、8チームが参加して熱戦を繰り広げる大会です。各チームには1企業が応援サポーターとして付き、大会を盛り上げます。
ハンズホールディングスカップは、知的障がい者の自己実現と余暇活動の場を提供するだけでなく、社会の理解と支援を促進する重要な機会となっています。
そんなハンズホールディングスカップに福井代表として出場するビッグドルフィンズを取材しました。
今年でチーム設立33年という老舗チーム
ビッグドルフィンズ取材日の練習には8名の選手が参加し、強い日差しと蒸し暑さの中、他県のチームから“福井アップ”と呼ばれる独特のアップから練習をスタートしていました。
福井アップとは、いきなりランニングやキャッチボールなどから始めるのではなく、まずはゆっくりした動きで体を慣らしていくというアップ方法で、監督やコーチがスポーツ科学などを勉強して取り入れているもの。
福井県で活動するビッグドルフィンズは、1991年に設立し今年で活動33年という歴史あるチームです。現在の所属選手は15名。そのうち2名は転勤で遠方に住んでいるなどの事情があり、なかなか練習や試合に参加することができず、常時参加しているのは13名です。
現在所属する選手の中にはチーム設立時からのメンバーが1名、設立から1〜2年ほどで参加したメンバーが2名所属しています。活動歴30年以上の選手が3名もいるということです。
ここ数年でチームに参加するようになったメンバーもいるため、年齢層が17歳から51歳までと幅広いのはチームの歴史が長いゆえの特徴。さらに、所属している選手たちが県内の広い範囲から集まってきているのも珍しいといいます。
福井県は嶺北地域(昔の越前国)と嶺南地域(昔の若狭国)で文化圏や生活圏が分かれていますが、嶺北地域に活動拠点があるビッグドルフィンズに、わざわざ嶺南地域から参加している選手も。それだけ知名度が高く“このチームでやりたい”という選手が多いのです。
チームが活動する小さくて大きな意義
知名度の高さは、長い歴史と2018年の福井国体で準優勝という成績を残したこともある実績から。
ただし「今回の大会に出るチームはどこも強いチームなので、厳しい大会になると思います。でも、こんなに続いてるチームはほかにないんじゃないですかね。長くやっていれば強いときも弱いときもあります。存続することに意義があると思います」と語るのは、監督の猪股由武さん。
チームを設立したのは猪股監督が大学生だったとき。大学で障がい児教育を学んでいた監督が、自身の野球経験を生かして始めたものです。
卒論のテーマが“障がい者の余暇”だったという猪股監督は「毎週日曜日に練習があるこのチームの選手たちは、休日も活動的に過ごすことができます。ご家族も、毎週がんばって練習に参加している選手たちを応援してくれるし協力的なんですよ」と言います。
選手たちの多くは、社会人として一般の企業などに勤めながら、日曜日になると練習に参加しています。なかには日勤と夜勤を繰り返すような仕事をこなしながら練習に参加している選手もいるそうです。
喜びも悔しさも試合での経験が何より大きい
チーム設立の目的が余暇利用だったため、当初は練習試合などの勝ち負けも二の次で、本人たちが楽しめればそれでいい、というのがビッグドルフィンズの方針でした。
しかし、設立から3年ほどが過ぎた頃、一人の選手が自分の趣味に関するスピーチをする場で「私はソフトボールをやっています。まだ1勝もできません。勝ちたいです」と発表したことがありました。
ほかの選手にも話を聞いてみたところ「練習が厳しくなってもいいから勝ちたい」という声が多く、それがきっかけで勝つ楽しみを味わえるよう、厳しい練習をするようになったそうです。
また、現在所属している選手たちに話を聞いても「試合という目標が一つあることでモチベーションが上がる」「ソフトボールが楽しいと感じるのは試合で活躍できたとき」「地元を背負っているので一つでも多く勝ちたい」など、試合に関する声が多数上がってきました。
猪股監督も試合での経験から得られる刺激や学びは大きいと言います。ビッグドルフィンズは健常者チームを相手に試合を行うこともありますが、やはり相手が同じ障がい者チームの場合は特に試合で感じた悔しさなどの影響が大きくなるそうです。
そういった経験から、猪股監督は福井県内でウイングカップという知的障がい者ソフトボール大会の立ち上げに関わり、長年、事務局業務を務めています。今では県外チームも複数参加するような大会となり、障がい者スポーツの活性化に一役買っています。
知的障がい者にとってスポーツは最高のコミュニケーションツール
猪股監督が長年活動を続けるなかで感じるのが、スポーツはコミュニケーションツールであるということ。
「障がい者に限らずスポーツを見ていると、気が強いなとか、粘り強いなとか、真面目やなとか、なんとなく人となりを感じますよね。そういう意味ではコミュニケーションを苦手とする人が多い知的障がい者にとって、自分を伝えるいいツールになるなと思います」
さらに、スポーツの中でもソフトボールは全員に活躍の機会が必ず回ってくることも、知的障がい者スポーツに適していると感じるそうです。
「例えば、バスケットボールだと上手い人が3人ぐらいいればその人にボールを集めて試合ができてしまいますよね。でも、ソフトボールや野球だと、9回に1回は打順が回ってきて全員にスポットが当たりますし、サードの選手がどんなに上手でもライトに飛んだボールを捕ることはできませんからね」
また、特別支援学校の教員として働く猪股監督は、学校で障がいがある生徒を指導するときはその子の成長のために計算しながら褒めることがあるそう。しかし、スポーツではそういう計算なく心の底から、100%の気持ちで応援することができるのも魅力だと語ります。
盛り上がることはもちろん、長く続けてほしい
福井県では2018年に福井国体が開催されました。そのため、国体を目標として学校関係者などを中心に障がい者スポーツを盛り上げる機運が高まった時期がありました。
長年障がい者スポーツに関わっている猪股監督としては「国体を期にさらに盛り上げていこう」と思っていたのですが、実際には国体終了とともに燃え尽きたような状態となり、今は県内では障がい者スポーツへの関心や注目度は低下気味だと感じるそうです。
ハンズホールディングスCUPのような知的障がい者スポーツの大会が盛り上がること、そして長く続くことは、チームとその関係者、それから障がいのある人とその家族にとって、とても価値あることになるはずです。
日本知的障がい者ソフトボール連盟では知的障がい者スポーツの魅力を伝え、理解を広げるため本大会の成功と規模拡大を目的としたクラウドファンディングを行います。
8月12日より支援スタート!「希望のバットを振れ」知的障がい者ソフトボール東日本大会を応援してください
日本知的障がい者ソフトボール連盟が立ち上げたクラウドファンディング「希望のバットを振れ!」は、知的障がい者スポーツの未来を切り拓く重要な一歩です。9月に宮城県で開催されるハンズホールディングスカップは、選手たちに自己実現と希望をもたらす貴重な機会。この大会を通じて、知的障がい者スポーツの魅力を広く発信し、社会の理解と支援を促進することを目指しています。
このクラウドファンディングは、単なる大会運営支援にとどまりません。知的障がい者の余暇活動の充実、指導者への支援、そして将来的には西日本大会や全国大会の実現まで視野に入れた壮大なプロジェクトです。
皆様のご支援が、知的障がい者スポーツの新たな章を開く力となります。このプロジェクトにご注目いただき、共に知的障がい者スポーツの未来を創造しませんか?あなたの支援が、選手たちの希望の光となるのです。
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