愛知県の「株式会社 巴製作所」が新たなクラウドファンディング企画を立ち上げました。その企画とは……なんとグリルスタンドの製品化です。

詳細はこちらから:https://www.makuake.com/project/tomoe2/
グリルスタンドといえば、本格的なキャンプ料理をする方には必須のアウトドア用品です。無骨で渋いデザインが男心をくすぐりそうな商品ですが、巴製作所はレンチを製造している小さな町工場です。
ではなぜ今、従業員40人規模の小さな町工場がアウトドア市場の開拓に乗り出したのでしょうか。本プロジェクト発足の背景やその狙いについて、株式会社巴製作所 代表取締役社長の坂井聡佑さんに伺いました。
はじまりは、レンチ市場の縮小に対する危機感
同社の主力製品は高い鍛造技術や切削加工技術で製造されたレンチ。「ランドクルーザーやレクサスなど、レンチを搭載しているトヨタ車の実に約95%に採用されるという圧倒的シェアを誇っています」と坂井さん。
▼レンチとは?
タイヤがパンクした時などの有事の際に、スペアタイヤの脱着に使う車に搭載する工具。スペアタイヤを搭載する大型自動車やバス・トラックなどで使われるほか、車ごとに必要になるレンチの型は異なり、巴製作所では実に20種類以上のレンチを取り扱っています。


「そもそも日本では道路事情が良い為、パンクする場面が少ない。さらにはロードサービスが充実している為、車載スペースを確保する為にパンク修理キットを搭載するケースが増えている」と、坂井さんは業界の未来を危惧しています。実際、出荷本数はこの5年で約3分の2まで落ちてしまっているそうです。
そんな危機感もあり、今回全社をあげて新規市場の開拓に乗り出すことにしました。その新事業の第一弾となるのが、今回のグリルスタンドです。
「タフシリーズ」展開で見据える会社のブランディング

今回の企画の主役であるグリルスタンドは、なんと耐荷重90kg 以上。グリルスタンドとしてはオーバースペック気味とも思えますが、実はこれも自社ブランディングの一環なのだとか。
「トヨタ自動車のTier1サプライヤーとして、レンチ業界トップクラスの頑丈な商品を提供している自負があります」と坂井さんは語ります。その強みを全面に押し出すべく、このグリルスタンドにはレンチの鍛造技術を多く転用。高い技術力や品質を示す商品として、これ以上ないデザインに仕上がりました。ブランディング企画のひとつとして、Instagramも開設。本製品以外にも積極的な情報発信を行い、企業の認知度向上に取り組んでいます。
巴製作所ではこの製品を皮切りに、今後「タフシリーズ」としてアウトドア用品や携帯灰皿、防犯グッズなど様々な商品を展開予定です。
新商品そのもののヒットはもちろんのこと、こうした新製品の開発をきっかけに新規のBtoBクライアントを開拓するのも狙いのひとつ。「従来の受け身なものづくりに依存しすぎるのではなく、自ら提案するものづくりを通じて自社のブランド力を高めていきたい」と強い想いを語ってくれました。
プロジェクトで広がる会社の輪、町工場から広がる地域の輪
しかし、町工場が全くノウハウのない新業界に進出するのは苦難の連続。「現在進行形で苦戦していることもたくさんあります」と、坂井さんの顔には日々の苦労が滲みました。
「新規プロジェクトは現在一部の社員を中心に進められていますが、今後は周りを巻き込んで渦のように会社に変革をもたらしていきたい」と、新規事業に取り組むことによる会社全体の変化にも期待を寄せています。実際、「商品開発の中で社員同士のコミュニケーションが活発化しています。『社内で考える仕組み』が出来上がっていくのは、これからの会社経営においても重要だと考えています」と、一定の手ごたえも感じているそうです。
新規事業は社内の輪を広げる一方で、地域間の連携強化にも一役買っています。例えば本クラウドファンディング企画のリターン品のTシャツのデザインは、会社のある愛知県丹羽郡大口町周辺にあるデザイン事務所に相談中 。ブランディングやビジュアル面での強化を図る狙いと同時に、地域経済の活性化にも貢献しています。
同じような規模の中小企業に勇気を与えるひとつのモデルになりたい
今後どういうブランドにしていきたいかとの問いかけに、坂井さんからは「会社として目指すのは、社会に安心感を与えるお守りのような存在」という回答が。
というのも、日常生活においてレンチが日の目を見ることはそう多くはありません。有事の際にあると安心――いわば、ドライバーにとっての「お守り」。会社の強みを深くまで探れているからこその回答だと感じます。
「このプロジェクトを通じ、中小企業のひとつのモデルになりたい」と坂井さんは語ります。「自分たちのように今後に悩む中小企業に『巴製作所がこんな風に頑張っているんだし、自分たちも頑張ろう』と思われる企業になりたい」という言葉に、ただ自分たちの利益だけではなく、国内での製造業の存在感そのものを上げたいという強い想いを感じました。
小さな町工場の挑戦はまだまだ続く
今回のクラウドファンディング企画は、4/23(水)より開始しています。グリルスタンド以外にも様々なリターン品があるので、ぜひこちらからプロジェクトをご覧ください。
自社の持つ能力を最大限に引き出し、対外的に「見える化」する。ブランディングで生まれる無形の力を活用した巴製作所の新たな挑戦は、日本の製造業に新しい可能性をもたらす第一歩となりそうです。