地方創生メディア  Mediall(メディアール)

オンリーワン・ナンバーワンがそこにある 応援の循環を作る 地方創生メディア

もの・こと  |    2025.08.04

花火の灯を未来へ!浅川町から始まる「人の温度」のまちづくり

打ち上げ花火の写真

福島県浅川町では、毎年8月16日に開催される「浅川の花火大会」をきっかけに、町の活性化と持続可能な地域づくりを目指す「花火の里あさかわ2.0プロジェクト」が始動している。

このプロジェクトを牽引するのは、浅川町の地域おこし協力隊と、今年2月に着任したまちづくりコーディネーターの塩村忠信さんだ。

今回は、塩村さんが着任から数ヶ月のあいだに見えてきた浅川町の姿、そして花火を旗印に描こうとしている持続可能なまちづくりの構想について話をうかがった。

福島県の南部に位置する浅川町では、約300年の歴史を持つ花火大会が受け継がれている。現在、浅川町ではこの花火大会を核とした町おこし「花火の里あさかわ2.0プロジェクト」が進行中だ。

しかし、花火大会は基本的に年に1度しか開催されない。はたして、花火大会をどのように町おこしに結びつけていくのだろうか。そして、浅川町が描く持続可能なまちづくりの構想とは。

この疑問を紐解くため、プロジェクトを牽引しているまちづくりコーディネーターの塩村忠信さんにお話を伺った。

花火の里あさかわ2.0プロジェクトとは

打ち上げ花火の写真

「花火の里あさかわ2.0プロジェクト」は、浅川町の伝統行事である「浅川の花火」を起点に、町の活性化に取り組むとともに、持続可能な観光・地域づくりに寄与することを目的とする非営利の任意団体だ。

中心となるのは地域おこし協力隊であり、若い世代を中心に、多様な視点から浅川町の魅力を掘り起こそうとしている。

プロジェクト名にある「2.0」には、ただ伝統を守るだけでなく、次の時代に合わせてアップデートしていくという想いが込められている。

外部からやってきたまちづくりコーディネーター

人物像

塩村さんは、これまで都市部でまちづくりに携わってきた経験を活かし、2025年2月に浅川町へと赴任した。

「整っていない町には“余白”があり、町の人と一緒に形を作れる」と語る塩村さんにとって、浅川町はまさにその思いを実現できる場所だった。

「まちづくりコーディネーター」とは、地域に関わる多様な主体をつなぎ、持続可能なまちづくりを推進する専門家だ。神奈川県出身の塩村さんは、全国の自治体と連携し、地域再生に取り組む「地域創発機構」のメンバーとして、町と人々をつなぐ活動をしている。

着任当初、塩村さんが浅川町に抱いた印象をこう語ってくれた。

「浅川町では、まだ地域活性化や町おこしが始まっていませんでした。だからこそ、町の人たちとアイデアを出し合いながら、もっとも効果的なまちづくりを始められる。私は浅川町を、大きな伸びしろがある場所だと感じています」

塩村さんの任期は3年間。彼はこの期間を活かして、浅川町の人たちが誇りに思える持続可能なまちづくりをしようと考えている。

はじめたのは小さなお茶会から

セミナーの写真

塩村さんが浅川町で最初に始めたのは、小さなお茶会だった。

「僕は、町づくりは雑談から始まると思っています。お茶を飲みながらリラックスして話していると、アンケートや視察などでは分からない本音を聞けますから。そういう時間の積み重ねが、人と人との絆を深めてくれるのではないでしょうか」(塩村さん)

浅川町で暮らす人たちが、地域の魅力をどのように感じ、子どもたちに何を残したいと思っているのか。塩村さんはくつろいだ時間の中から、町の内側にある声をすくい上げていった。

そこで浮かび上がったのが、300年続く伝統行事である花火大会「浅川の花火」だった。

浅川の花火は町の誇り

浅川の花火は、一般的な夏祭りとは異なり、故人や先祖を供養するための祈りの行事として長年受け継がれてきた。町内の有志によって始められ、住民にとっては特別な意味を持つ行事だ。

塩村さんは「花火は単なる観光資源ではなく、町の歴史や人々のつながりを象徴する文化だ」と語る。それは町の誇りや記憶を映し出す「旗印」のような存在だという。

まちづくりを進めるうえで、「何を旗印にするか」はとても大切である。浅川町には、すでに「花火」というシンボルがある。

この花火をきっかけに、人が集まり、つながりが生まれ、町に活気が広がっていく。そんな良い循環をつくっていきたいと塩村さんは語ってくれた。

塩村さんが感じる課題と話し合いの重要性

セミナーの写真

しかし、浅川町にはいくつかの課題もある。「宿泊施設がない」「交通手段が限られている」「観光客の滞在時間が短い」など、受け入れ体制が整っていないのが現状だ。

こうした課題を解決し、持続的な取り組みにするためには、まず町の人たちが「なぜこの活動をするのか」という思いを共有し、自分ごととして関わっていく姿勢が不可欠だ。

目的や意義が共有されていなければ、いくらイベントを企画しても形だけの取り組みになり、持続させることは難しい。

塩村さんは、浅川町にはすでに「花火」という町を象徴する強力なシンボルがある。この花火を起点に人が集まり、つながり、そして町に活気が生まれるような、良い循環を生み出していきたいという。

浅川町の人たちの間では、花火大会の捉え方にバラつきがあるという。年配の方がたには花火の歴史が浸透しているものの、若い世代からは「なぜ花火なのか」という疑問の声も上がる。塩村さんはこのギャップを解消し、浅川の花火の価値を共有するために、話し合いを重ねていこうと考えているそうだ。

浅川町を「誇れる故郷」にするために

塩村さんは、地域の声に耳を傾ける中で、浅川町が抱える課題が見えてきた。

自然豊かなのどかな町である一方で、都市と比べるとやや閉じた雰囲気もある。昔ながらの地域のつながりが強く、人との距離が近い地域性が残っている。

近年では、まちづくりに関わる人々のうち、地元出身者と県外からの移住者が半々になってきている。

「派手なものはないけれど、だからこそ落ち着く」「自然の中での暮らしが心地よい」と感じる移住者も多い。特に子育て世代からは「仕事がしやすい」「子育てにはとても良い環境だ」という声も聞かれる。

しかし一方で、子どもが高校や大学へ進学する時期になると、教育や進路の選択肢が限られ、都市部へ出ていかざるを得ないという現実もある。

「それでも、浅川に来てよかったと思えるような経験があることが大事だ」と塩村さんは語る。

観光誘致のために一方的に「移住してください」とアピールするだけでは不十分だ。現状では町内に働き口が少なく、暮らしのすべてを浅川町だけで完結させるのは難しい。

だからこそ、今ある浅川町の魅力に改めて目を向け、それをどう伝えていくかが問われている。

日々の暮らしの中にあるささやかな会話やつながりを大切にすること。そうした関係性の積み重ねこそが、未来の浅川町を支える力になるという。

「僕は浅川町を、町を離れた子どもたちが誇りに思える故郷にしたいと考えています。そして、町で暮らす人にも外から訪れる人にも『ここにいると元気になる』と思ってもらえるよう、さまざまな工夫を重ねていきます」

たとえば町民向けのバーベキューイベント、親子で楽しめる花火づくり体験、ロードバイクレースの開催。人と人とが交流し、町の行事について話し合う経験は、まちづくりを自分事として捉えるきっかけになるだろう。

この町が、誰かにとって「帰りたい場所」であってほしい。塩村さんはそう願いながら、一歩ずつ、ていねいにまちづくりを進めている。

塩村さんと浅川町の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

浅川の花火

開催日時:2025年8月16日(土)19:00~21:00

場所:浅川町民グラウンド


記事をシェアする

この記事を書いた人

森崎 遼平

福島市担当ライター 2022年から副業ライターとして活動しています。3人の子どもを育てる中で、より良いまちづくりに興味を持ち、地域の魅力を発信する活動を始めました。 福島市の歴史、文化、そして未来について、様々な角度から発信することで、地域活性化に貢献したいと考えています。 福島に来た際にはぜひ「寄ってこらんしょ」    

関連記事