鹿児島を代表する伝統行事といえば、「おはら祭」。このお祭りは昭和24年から始まった南九州最大の祭典だ。毎年11月2日と3日に鹿児島市最大の繁華街・天文館を中心としたエリアで開催される。
そのおはら祭は2020年以降、コロナ禍の影響で中止や規模縮小が続いていたが、今年ようやく2019年以来の規模感で開催されることが決定した。
今回は鹿児島の秋の風物詩ともいえるおはら祭の魅力を紹介したい。
おはら祭の思い出
少しプライベートな話になるが、私の家族は毎年11月2日、つまりおはら祭の前夜祭を会場で楽しむことが恒例だった。私が幼稚園生の頃から小学校を卒業するまではその恒例行事が続いていたと思う。
この日の夜は会場の道路が踊り連で埋めつくされるため、会場周辺は歩行者天国となり交通規制される。そのため、私は母と弟と3人で市営バスに乗車して会場周辺まで向かう。そして、当時会場周辺でサラリーマン勤めをしていた父と仕事帰りに合流するのだ。
まずは家族揃ってレストランに入り、食事を楽しむ。レストランの場所は会場近くにあるビルの上階。窓際を選び、窓越しで踊りを見物しながらいただく食事が格別だったのを今でも鮮明に覚えている。そして「早いもので今年もこんな時期がやってきたか」と毎年この日の決まり文句のように会話をしていた。
美味しい食事で心も体も満たされた後は沿道を歩きながら会場の雰囲気を楽しんだ。そんな家族の恒例行事が今思い返すととても懐かしく、そんな思い出を残してくれた両親に感謝している。
おはら祭の始まり
おはら祭は鹿児島の伝統的行事だが、鹿児島にゆかりのない人でももしかしたらどこかで聞いたことがあるかもしれない。なぜなら、おはら祭は毎年5月に渋谷でも開催されているからだ。
まずは本家・鹿児島おはら祭について紹介したい。「おはら祭」という名前は鹿児島の代表的民謡「おはら節」に由来する。この民謡の誕生は江戸時代の初期といわれている。薩摩の隣国である日向国・安久(現在の宮崎県都城市)の武士が陣中で唄った唄を、薩摩の原良(はらら)の武士がその唄に合わせて作詞し歌い始めたことで広がり、「原良」に「お(小)」が付けられ「小原良(おはら)節」と呼ばれるようになったという一節がある。
この「おはら節」に合わせて練り踊るおはら祭は、昭和24年に「鹿児島市政60周年」を記念して始まり、今年で第72回を迎える歴史のあるものになっている。また、回を重ねるごとに規模が拡大し、鹿児島の秋の風物詩として市民だけでなく、観光客にも親しまれている。
おはら祭の主なプログラム
11月2日の前夜祭では、先ほど説明した「おはら節」に加え、「鹿児島ハンヤ節」、「渋谷音頭」などに合わせて練り踊る総踊りとおごじょ太鼓競演が行われる。また、通常は車道の間の線路を走る路面電車がこの時期には装飾やライトアップされる「花電車」として運行する。この花電車が夜の祭りを一層盛り上げてくれてとても風情を感じる。
翌3日には本祭が開催。1部と3部は総踊りとおごじょ太鼓競演、2部はマーチング、4部はダンスタイム「オハラ21」といった全4部構成になっている。
ここで補足説明すると、「おごじょ」とは鹿児島の方言であり、「女性」という意味だ。おごじょ太鼓競演では勇ましく美しい薩摩おごじょたちが太鼓と笛を演奏する。
渋谷で鹿児島おはら祭が開催されるようになった背景
渋谷・鹿児島おはら祭は毎年5月中旬の土日2日間、渋谷109前を交通止めして、道玄坂・文化村通りを主な会場として開催されている。
なぜ、渋谷でおはら祭なのか?そう疑問に感じる人も多くいるだろう。実は渋谷と鹿児島には古くから深い縁があるのだ。
鎌倉時代に相模国の豪族・渋谷氏が源平合戦の功によって所領を得て、一族で薩摩(現在の鹿児島県薩摩川内市あたり)に移住したといわれている。薩摩では渋谷家は五家に分かれ、土地の名から入来院氏、祁答院氏、東郷氏、高城氏、鶴田氏を名乗った。確かに薩摩川内の地域ではこの氏の土地名が現存しており、それらの苗字の人はこの地域周辺の出身者だ。
渋谷・鹿児島おはら祭は、そんな流れを汲む「ふるさとへの思い」を強くするお祭りで平成10年から始まっている。この日の沿道では鹿児島の物産展や観光案内も開かれており、大都会・渋谷は鹿児島色に染められ、鹿児島にゆかりのある人たちで賑わう。
ちなみに今年は5月27日と28日の2日間、第26回を開催し、この2日間に合わせて「鹿児島焼酎&ミュージックフェス」も実施されたようだ。
踊り連の数と規模が復活する2023年
コロナ禍以降、自粛や規模縮小が続いていた全国各地のイベントや行事だが、ようやくコロナ禍以前の活気が戻ってきている。ここ数年、踊り連も見物客も一堂に集まっておはら祭を楽しむことが制限されてきたからこそ、今年は一層躍動感があるものになるに違いない。
秋の行楽を楽しんだり、風物詩を味わったりしていただく過ごし方として、今年の文化の日はおはら祭を見物しに行ってみるというのはどうだろうか。きっと会場の雰囲気を心の底から楽しんでもらえるに違いない。