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もの・こと  |    2024.04.30

『自立援助ホーム』をこのまちに|太陽に向かって飛び立つ準備を

NPO法人『にじまち』代表の林さん

「地球上にいれば、全員出席!」

滋賀県長浜市在住のNPO法人にじまち代表の林ともこさんはにこやかに語ります。NPO法人にじまちでは、週1回のフリースクール『虹の学び舎』を開催中。さらに今年5月には自立援助ホーム『ななほし』をオープンさせる予定です。

林さんは元小学校教諭で、『あ〜ちゃんの虹』(文芸社)の著者。10年以上、全国各地で講演し、命や生き方などについてメッセージを発信し続けています。

今回は林さんが自立援助ホーム『ななほし』の設立に至った経緯や、自立援助ホームの必要性について伺いました。

自立援助ホームって何?

自立援助ホーム『ななほし』にて(画像提供:林さん)

「現在、滋賀県内には4つの自立援助ホームがありますが、私の住む長浜市にはありません。ですので、長浜市内で利用を希望する人がいても、遠くの自立援助ホームを利用することになります。必要とする人は必ずいるので、長浜市内で開所することになりました」

林さん自身、自立援助ホームの存在を知ったのがつい最近のことなので、一般的にもほとんど知られていません。

自立援助ホームとは、児童福祉法第6条の3、同法第33条の6において定められている児童自立生活援助事業のことです。具体的には、青少年に自立のための援助及び生活指導を行います。

なんらかの事情により家庭にいられなくなった青少年たちは、もはやニュースやドラマの中だけの話ではありません。じつは、児童相談所への虐待相談件数は年々増え続けています。一方、自立援助ホームは手続きや準備が大変なため、簡単に増やすことができません。

子どもたちが経済的にも精神的にも自立するには、自立援助ホームが重要な役割を担います。

クラウドファンディングではなくリアルファンディング

『NPO法人にじまち』と『リアルファンディング(個人用)』のリーフレット

自立援助ホームの運営にかかる費用の多くは、公的な補助金でまかなえます。しかし、補助金は申請してから実際に給付されるまでのタイムラグがあるため、どうしても自己資金が必要です。

また、ホームで使用する電化製品や事務用品などの購入費用には、補助金が適用できません。したがって、自立援助ホームの開所までには、比較的大きな自己資金が必要です。

「やろうと決めたまでは良かったのですが、『お金が足りない』となりまして。家具や電化製品なども必要だったので、リアルファンディングを始めることにしました」

リアルファンディング開始時には、Facebookでライブ配信による事業説明を行っています。4月初旬には多くの企業、個人からの支援により、目標金額の半分である100万円を達成しました。しかし、まだまだ資金は足りず、今も林さんは企業を回って支援を依頼しているといいます。

「約100万円の資金が集まったのですが、すでに支払先は決まっているので手元にはほとんど残らない状態です。だからもう、なりふり構っていられません。最近は色々な会社を訪問することも増えました」

クラウドファンディングではなくリアルファンディングを選んだ理由は、直接お会いして支援をお願いする意図がありました。また、最近はAmazonの『ほしい物リスト』から物品を直接寄付していただくことも増えたといいます。

「銀行振込はちょっと手間がかかりますし、その点Amazonならスマホで簡単に寄付していただけるようです。先日もベッドや机など、多くの商品が届きました。本当にありがたいです」

5月の開所に向けて急ピッチで準備を進めなければならず、林さんは休みなく動き続けます。

NPO法人『にじまち』と林さんのこれまでの実績

『レインボー春祭り』での講演の様子(画像提供:林さん)

林さんは小学校の教員でしたが、先天性の難病である総動脈幹遺残症を抱えて生まれてきた娘さん(あ〜ちゃん)のために退職されました。あ〜ちゃんが虹の向こうへ旅立った後、書籍『あ〜ちゃんの虹』を出版し、全国各地で命や生き方などのメッセージを講演会やYouTubeで発信しています。

その後、小学校の非常勤講師として勤めることになりますが、学校に居場所のない子どもたちのために何かできないかと考えて退職。2018年に滋賀県内7か所で開催する不登校の子どもたちの居場所『にじっこ』を、さらに2020年には長浜市内の古民家で、小中学生を対象としたフリースクール『虹の学び舎』を設立しました。

『虹の学び舎』では、山登りや料理教室、茶道などのさまざまなチャレンジ活動を実施するだけでなく、味噌つきや餅つきなど、季節の手仕事も大切にしています。

『虹の学び舎』での餅つきの様子(画像提供:林さん)

「フリースクールと聞くと、『学校に行けない子が行くところでしょ?』と言われることがあります。でも、私はそうは考えていません。フリースクールは選択肢の1つだと考えているので、子どもたちが何を選ぶのも自由です。地球上に命があるだけで、生きているだけで奇跡的なことだと思っています」

フリースクールではさまざまな取り組みを行っていることもあり、子どもたちからは「こんな学校やったら毎日通いたい」と言われるそうです。

林さんは、フリースクールや講演会での経験を経て、自立援助ホームを開所することになります。自立援助ホーム開所に先立ち、2024年2月に『虹の学び舎』と『ななほし』の事業をメインにNPO法人『にじまち』を設立しました。

ナナホシテントウのように飛び立つ準備を

『虹の学び舎』で制作した300個の餃子(画像提供:林さん)

「『虹の学び舎』は、それぞれがしたいことをする場所です。先日も餃子を300個作ったのですが、中には餃子の具材に触れない子もいます。多少のサポートは必要ですが、大人も子どもも自分の苦手なことを伝えたり、お互いを認め合ったりしていることがとても尊いと思っています」

ときには、大人から見て注意したくなる言動もあるそうです。しかし、どこかに発散する場所も必要なのかもしれません。また、そういう姿を見せてくれることが、大切で嬉しいことだといいます。

林さんが提供する場所は、それぞれがやりたいことのできる自由な場所です。やりたいことをするだけでなく、社会とのつながりを持つ大切な役割を担っています。

自立援助ホームに名付けられた『ななほし』には、幸せの象徴とされるてんとう虫の意味も込められていました。てんとう虫は「お天道様の虫」のこと。フリースクールや自立援助ホームを利用する青少年たちにとって、『ななほし』は太陽に向かって飛び立つ準備をする場所です。

それぞれが、この場所から天高く飛び立つことを願っています。

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この記事を書いた人

のがわ

滋賀県担当のアラフィフライター「のがわ」です。地元の滋賀県や隣県の福井県に関する情報をお届けします。趣味の剣道は練士七段ですが、試合は中学生にも負けるレベルです。色々な地域に出稽古に行き、出会った方々の物語や観光情報などを記事にします。

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