こんにちは!福島県いわき市担当のライター、さわきゆりです。
福島県双葉郡浪江町には「大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)」という国指定の伝統的工芸品があります。
窯元が生み出すのは、独特の風合いを持つ、使う人の手にやさしい器たち。
大堀相馬焼はその使いやすさから、普段使いの食器として親しまれています。
大堀相馬焼の特長のひとつが、お湯の熱が器に伝わりにくいこと。
沸かしたてのお茶でも、湯呑みを持って楽しむことができます。
さりげないポイントですが、実はここに、大堀相馬焼独特の技術が隠されているのです。
大堀相馬焼の特徴と魅力
大堀相馬焼には「走り駒」「青ひび」「二重焼」という3つの特徴があります。
焼物では聞きなれない特徴ばかりです。
特に、器なのに青ひびとは違和感がありますね。
どういうことか、詳しく見ていきましょう。
走り駒
大堀相馬焼に描かれた左向きの馬が「走り駒」です。
この馬は、かつて浪江町周辺を治めていた、相馬藩の御神馬。
躍動する走り駒を描いた大堀相馬焼は、日用品であると同時に、持つ人を福へ導く縁起物でもあるのです。
青ひび
大堀相馬焼は素材である土と、焼く前に塗る釉薬(ゆうやく)との収縮率の違いから、器にひび割れが生じます。
このひび割れを「貫入(かんにゅう)」、貫入が広がった地模様を「青ひび」といいます。
青ひびが入るときには、とても美しく澄んだ音が聞こえてきます。
窯から出た器たちの、繊細な産声です。
大堀相馬焼では、青ひびに墨汁を丁寧に擦りこむことで、その味わいを際立たせています。
二重焼
二重焼とは、隙間が空いた二重構造のことです。
縦割りの写真を見ると、大きな隙間がはっきりとわかりますね。
二重焼の外側には、ハートのような形の透かし模様が入れられます。
これは、水辺で暮らす小鳥である「浜千鳥」。
「ともに荒波を乗り越える」という意味が込められています。
実は、大堀相馬焼が人の手にやさしいのは、二重焼に秘密があるのです。
二重焼が手にやさしい理由
一般的な湯呑みは、お湯の熱が器全体に伝わってしまいます。
しかし、二重焼の大堀相馬焼は、外側が熱くなりません。
淹れたてのお茶が入っていても、安心して湯呑みを持つことができます。
大堀相馬焼の器には、もうひとつポイントがあります。
冷たいものを入れたとき、表面に結露が起きにくいのです。
これもまた、二重焼の効果です。
人々が普段使いする器を、より使いやすいように。
その思いから生み出された技術が、人の手にやさしい器を作っています。
大堀相馬焼のお店
浪江町には、大堀相馬焼を扱っているお店があります。
道の駅なみえの敷地内にある「なみえの技・なりわい館」です。
展示品として飾られている、伝統的な大堀相馬焼。青ひびの美しさが際立っています。
新しいデザインのカップは、浜千鳥の透かしで大堀相馬焼とわかります。
装いをがらりと変えても、人の手へのやさしさは変わりません。
人気上昇中のぐい呑み。
小さな器でも、走り駒の躍動感は健在です。
しょうがやにんにくをすりおろして、そのまま醤油を注げる薬味皿も人気の一品。
渋い色合いの箸置きもいいですね。れんこんやうさぎ型もあります。
他にもランプシェードや酒器など、素敵な器がたくさん揃っていました。
このお店では、大堀相馬焼の体験教室も行っています。
世界にひとつだけの器を作ってみてはいかがでしょうか。
消えなかった灯火
今回の記事では、大堀相馬焼の魅力とやさしさをご紹介しました。
大堀相馬焼のふるさと・浪江町は、2011年の東日本大震災に伴う原発事故の際、壊滅的な被害を受けた地域です。
大堀地区に20件以上あった窯元は、浪江を離れ、それぞれの避難先へ行くことを余儀なくされました。
それでも、窯元たちは避難先で活動を再開しました。
あれほど甚大な被害を受けても、大堀相馬焼の灯火は決して消えなかったのです。
時が流れ、避難指示が解除された大堀地区では、拠点である「陶芸の杜おおぼり」が再開しました。
困難に負けず、伝統と技術をつなぎ続けた大堀相馬焼。
故郷の登り窯に火が戻り、青ひびが貫入する美しい音が奏でられるとき、新たな歴史が幕を開けることでしょう。
なみえの技・なりわい館(道の駅なみえ敷地内)
住所:福島県浪江町幾世橋知命寺40
営業時間:10~17時(火・水曜定休)
電話:0240-35-4917
URL:http://www.somayaki.or.jp/hall/
アクセス:JR常磐線 浪江駅より徒歩約15分
常磐自動車道 浪江ICより車で約10分
参考文献
・大堀相馬焼協同組合パンフレット「大堀相馬焼の技を未来へ」
参考サイト:
・大堀相馬焼協同組合HP http://www.somayaki.or.jp/index.html
・大堀相馬焼WEB本店 https://www.soma-yaki.shop/