今年3月、木更津市下郡の廃校をリノベーションしたグランピング施設「ETOWA KISARAZU(エトワ木更津)」で防災キャンプイベントが開催されました。
前半は「地域循環」をテーマに、地域の学生たちによるチャレンジ発表会を実施。その後「防災」をテーマに、自分たちで炊き出しを行い、体育館で避難を想定した宿泊をするイベントです。
今回は、企画運営を行った「木更津CYCLE」代表の羽賀優太さん、「エトワ木更津」を運営する株式会社コスモスイニシアの山形さん、「学生団体C&F」代表の雅樂(うた)さんの3人にお話を伺いました。
きっかけは「学校に泊まってみたい」の一言
「学校に泊まってみたい」という誰もが一度は抱く夢。
この一言を現実にしたのが、多世代で交流できる場所作りや中高生の“やりたいこと”をサポートする活動を行っている羽賀さんと地元の中高生たちです。
「せっかくやるなら、ただ学校に泊まるのではなく多世代が交流できる場所にしたい」
そう考えていた3月初旬、木更津市で立て続けに大きな地震が発生しました。幸い大きな被害が出るほどのものではありませんでしたが、今年1月に起きた能登半島地震の直後だったこともあり、多くの市民が「いつまた大きな地震が起こるかわからない」という不安を抱いていました。
「学校に泊まりながらさまざまな年代の方が集まってできること」と「防災」にヒントを得て、このイベントが実現。
開催場所は廃校をリノベーションしたグランピング施設
「防災キャンプ」が開催された場所は、およそ145年の歴史がある木更津市立富岡小学校跡地にあるグランピング施設。
「行政から借りている地でもあるので、もともと地域や市民のためになる取り組みをしたいと思っていました」とコスモスイニシアの山形さん。
羽賀さんとのご縁がつながり、施設を無料で貸し出しました。
市の緊急避難場所に指定されている「エトワ木更津」にとっても、実際の避難を想定できる機会となりました。
避難訓練を兼ねた非日常体験
「防災キャンプ」は、避難所での生活を実際に体験してみようというイベントです。
持ち物は避難に必要だと考えるものだけ。
3月に2度実施された「ETOWA ESCAPE CAMP」には、2歳から70代まで合計約60人が参加しました。
子どもと大人が一緒になって薪割りをして、みんなで協力し合って豚汁を作る。日常ではなかなかできない、年齢や障がいの有無を超えた交流が生まれました。
体育館で遊んだり、炊き出しを作ったり、寝袋で寝たり…。
“みんなで楽しく”避難訓練をすることで、地域コミュニティの結束が強まったのを実感できたのだそう。
実際に泊まってみたからこそ「まだ寒い3月下旬に体育館で寝袋で寝る大変さも実感できた」と羽賀さん。
高校生の雅樂さんも「実際の避難を想定した状況で寝泊まりしたことで思いもよらぬ課題が見え、防災意識の向上につながった」と振り返ります。
次世代を担う学生による発表会
第2回「ETOWA ESCAPE CAMP」では、地域の学生たちが活動内容を発表する地域チャレンジピッチ「ETOWA CYCLE FES」も同時開催されました。
「若者がさまざまな活動をしてるということ、次世代を担う自分たちが作っていきたい未来を、大人たちに知ってもらいたい」
そんな想いを持った若者たちが、自分たちで資料を準備して、人前でのプレゼンテーションに挑戦。
企画運営にかかわった中学3年生は、第1回の防災キャンプで感じたゴミ問題について発表。第2回では地域の方々からいただいた食器を使用することで、ゴミを出さない工夫をしました。
学生団体代表の雅樂さんは、SDGsや地域の問題は一人ひとりが取り組む必要があるということや、若者がやってみたいことが尊重される環境づくりの大切さについて発表しました。
参加した中高生からは「自分たちが考えてることややってみたいことを大人に伝える良い機会になった」「またこのような発表の機会を持ちたい」といった感想が寄せられました。
大人たちからは「子どもたちがこのような活動をしているなんて知らなかった」「今後はできるサポートはしていきたい」という声が上がり、世代を超えたディスカッションの場となりました。
多世代が生み出す“循環”
昭和、平成、令和生まれの3世代の人々が集まった「ETOWA ESCAPE CAMP」。
ヒト・モノ・コトが循環する「学校」という場所で開催できたことにも意味があったのかもしれません。
阪神淡路大震災や東日本大震災、そして今年1月の能登半島地震。「それぞれが経験したことを、新しい世代に伝えていくことが大切だ」と、6歳で体験した東日本大震災を思い出しながら雅樂さんが話してくれました。
さまざまな年代の人が集まるからこそ、新しいアイデアが生まれる。
「経験豊富な大人の知識を若い世代に伝え、若い世代のやりたいことを大人たちがサポートする。その恩返しとして未来を作っていくことが僕たち若者の使命だと思います」と。
続いていくからこそ意味がある
「今後もシーズンごとに防災キャンプを実施していきたいと考えています。災害はいつ起こるかわからないからこそ」と羽賀さん。
SNSで全国の学生団体とつながっている雅樂さんは、次のイベントの企画をすでに始めています。「防災グッズを作っている友人がいるので、実際にキャンプで使用してみたい」とワクワクした表情を見せてくれました。
山形さんも「引き続きETOWAを地域のイベントに活用できることを楽しみにしています。施設が主催するのではなく、地域の学生が中心となって自分たちで作り上げることが大切だと思います」と。
今回企画運営に関わったゆきさんともえかさんは「1回目の反省点を2回目に生かすことができました」「楽しくも貴重な経験ができたと思います」と感想を寄せてくれました。
多世代の交流が生まれた「防災キャンプ」。繰り返し行われることで、ヒト・モノ・コトが循環していきます。
次回のイベントは夏休み中に開催予定とのこと。参加してみると、普段見過ごしがちな人と人との関わりから得られる新しい発見があるかもしれません。
取材協力
羽賀優太さん
木更津CYCLE代表/クリエイティ部共同代表
中高生が行う課外活動のサポートや、多世代が「共助・お互い様」でつながるリアルな場づくり、商品企画、ブランドプロデュースまで幅広いジャンルで境界線を彩る活動をしている。
原颯汰さん/活動名 雅樂(うた)
木更津市内の高校3年生/C&F 代表
自然環境の未来を変える・身の回りの未来を変えるの2つがある「C&F」を軸に、環境活動・カメラマン・教育活動などを行っている。
株式会社コスモスイニシア・山形侑雅さん
R&D部門 R&D戦略部 新規事業推進一課所属
株式会社コスモスイニシアに新卒入社後、営業や人事を経て、茨城県笠間市と千葉県木更津市にあるアウトドアリゾート「ETOWA」を担当。
ETOWA KISARAZU(エトワ木更津)
所在地: 〒292-0205 千葉県木更津市下郡1886
電話番号:0438-53-7086
公式サイト