10月30日都内にて、京都府舞鶴市による「引き揚げの史実を後世に伝える取り組み」について記者説明会が開かれました。
舞鶴市は第二次世界大戦後の1945年から1958年まで、海外からの引揚者約66万人を最後まで受け入れてきた歴史があり、市所蔵の引き揚げ資料が世界記憶遺産に登録された町としても知られています。
2025年には、戦後・引揚事業開始から80年、ユネスコ世界記憶遺産登録10周年という節目を迎えます。
説明会では引揚体験者の高齢化が進む課題に対し、引き揚げやシベリア抑留の史実をどのように伝承していくか、その取り組みについて発表がありました。
引き揚げ事業とは?舞鶴市が担ってきた役割
引き揚げとは「終戦後、海外に残された日本人約660万人を帰国させるための事業」です。
第二次世界大戦終結後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)とアメリカ軍の方針のもと、日本政府は中国やアジア各国に残された日本軍の兵士や民間人を帰国させるための手続きを開始します。舞鶴市は引き揚げ事業の全期間(13年)にわたり、旧ソ連や中国などから約66万人の引揚者と約16,000柱の遺骨を迎え入れ、故郷や新天地へ見送る役割を担ってきました。
海に面し、軍港として発展してきた舞鶴市
舞鶴市は京都府北部に位置し、縄文時代から交易の要所として栄えてきた港町です。
市の西部は戦国武将「細川幽斎(藤孝)」が切り開いた城下町の情景が色濃く残り、東部は明治維新後、旧帝国海軍の鎮守府が置かれる海軍ゆかりの地として発展してきました。
1945(昭和20)年に第二次世界大戦が終結すると、舞鶴市は外国に抑留された人たちを受け入れる「引き揚げのまち」としての役割を果たすようになります。
1988(昭和63)年には引き揚げ・抑留体験者からの熱望を受け、引揚事業と戦争の史実を伝え続けるための資料館「舞鶴引揚記念館(以下、記念館)」が開館しました。
2015(平成27)年、市が所蔵するシベリア抑留の資料がユネスコ世界記憶遺産に登録。翌年2016(平成28)年には「日本近代化の躍動を体感できるまち」として、旧軍港が置かれた横須賀市、呉市、佐世保市とともに日本遺産にも認定されています。
現在は海軍ゆかりの港を巡るクルーズ体験や、明治〜大正期に築かれた赤れんが建造物の見学、さまざまな食材が味わえる観光地としてその魅力を発信しています。
引き揚げや抑留の史実を後世に伝える取り組みを推進
戦後79年が経ち、引き揚げやシベリア抑留を体験した人の年齢は平均100歳を超えているといいます。
「体験者なき戦後」の始まりを迎えるにあたり、舞鶴市では継承が難しくなる課題に向け、さまざまな活動に取り組んでいくと鴨田市長は説明会で話していました。
学生語り部による「次世代への継承から次世代による継承」を目指す
継承に向けた取り組みの一つが学生語り部です。
舞鶴市には学生が主体となって史実の発信を行う学生語り部があり、一般の語り部とは別に、中学生21名、高校生19名、大学生5名の合計45名が所属して活動を続けています。
説明会では学生語り部代表の今野さんから、活動内容についての紹介もありました。
「学生語り部では、記念館に訪れた来館者に資料説明をしたり、他県の高校生や大学生と戦争や平和についてディスカッションをしたりと、さまざまな交流を図りながら引き揚げ・シベリア抑留について歴史を伝え続けています。また、活動を行ううえで学びを深めることも大事だと考え、抑留体験者から話を聞く機会も設けてきました。戦争を知らず、当時の人の気持ちを完全に理解することは難しいという意見もあるなかで、いかに同世代の人に史実を伝えられるか。学びや交流を重ねながら、自分たちの言葉で届けられるよう、これからも活動を続けていきます」(今野さん)
祖父がシベリア抑留者だった今野さんは、高校生時代のSNSがきっかけでシベリア抑留に興味を持ち、5年ほど活動を続けています。現在も東京と舞鶴を行き来しながら、語り部の活動を行っているとのこと。将来は舞鶴に移住することも検討しつつ、引き揚げやシベリア抑留の歴史を自分なりの言葉で伝えていきたいと話していました。
AI技術を駆使した継承のための新システムを開発
継承課題の解決に向けたもう一つの取り組みは、AI技術を活用した双方向システムです。
舞鶴では、これまで舞鶴工業高等専門学校の学生グループが最新のAI技術を活用し、抑留体験者の証言映像と会話を行える双方向システムのプログラム開発に取り組んできました。
先日10月12日に実践発表会を実施するなど、今後はシステムを活用し、記念館や小中学校での平和学習にも使用できるようにしていくとのことです。
鴨田市長は説明会で「若い世代が自らの言葉・技術・知見を生かし、関心を高めながら史実を伝えていきたいというこの活動に対し、舞鶴の希望であると感じている」と話していました。
舞鶴引揚記念館では引き揚げ史実を伝える1万点以上の資料を所蔵
戦後40年を契機に1988年に開館した舞鶴引揚記念館では、所蔵されている1万6000点の引き揚げやシベリア抑留に関する資料のうち、「白樺日誌」を含む570点の資料が2015年10月「ユネスコ世界記憶遺産」に登録されました。
今回の説明会では、白樺日誌のレプリカも手に取ることができました。
白樺日誌
【白樺日誌】とは
シベリア抑留中の日々の様子や心情を、和歌などでつづった日誌。白樺の皮をはいでノートにし、ペンには空き缶の先を尖らせ、収容所のストーブの煤を水に溶いてインク代わりにした手作りのもの(配布資料より引用)
終戦後も続く苦難の日々で心の支えとなった白樺日誌は、唯一無二の資料として有識者からも高い評価を受けています。現在は保存・修復の研究で名高い、奈良県の元興寺文化財研究所と連携を取りながら、世界的にも貴重な日誌の研究に着手しているとのことです。
記念館ではほかにも、往復はがき「俘虜(ふりょ)用郵便葉書」や「手作りのメモ帳」、当時使用されていた水筒や軍靴など、1000点を超える資料が常設展示にて見学できます。
観光スポットやグルメも楽しめる舞鶴市には魅力が満載
「引き揚げのまち」として知られる舞鶴市ですが、観光地としての魅力も数多くあります。
主な観光スポットやグルメ
遊覧船や海軍ゆかりの建造物など、舞鶴ならではの観光スポットにも注目です。
食に関しても海の幸・山の幸・里の幸を使用した四季折々の食事が楽しめます。
冬の海産物では重さ800gの身が詰まった「舞鶴かに®」や、漁獲量No1を誇る脂たっぷりの「京鰆」、身がたっぷりの「マガキ」が今冬の旬の食材として特に人気があるとのことです。
肉じゃがは舞鶴が発祥
舞鶴は、海上自衛隊の後方支援部隊や調理を担う人材を育成する「第4術科学校」が存在している町です。学校に残された旧海軍の料理レシピ「海軍の料理教科書『海軍四等主計兵厨業教科書』」には、ロールキャベツやハンバーグをはじめ、現在も馴染みのある西洋料理が掲載されているようです。また鴨田市長はメニューの説明中に「この話をすると驚かれる方が多いのですが、肉じゃがの表記は舞鶴が発祥なのです」と、舞鶴には私たちに身近な料理がたくさん存在していることにも触れていました。
舞鶴のことをもっと知っていただきたい
説明会の後、鴨田市長に舞鶴市の魅力をどのように伝えたいのか、学生語り部に期待することについて話を伺いました。
「舞鶴は海上自衛隊の基地と海上保安庁の管区両方が唯一存在する港町であり、加えてクルーズ船やフェリーなど、おそらく日本でも相当数の種類の船が見学できる観光地としての魅力があります。豊富な食材に培われた食文化も含め、まずは、舞鶴を知ってほしいということに尽きます。京都に海があること自体あまり知られていないため、舞鶴という港町があることを引き続き周知していく予定です。
学生語り部に期待するのは、彼らが自ら関心を持ち続け、継続的に活動していくこと。これから30、40と年齢を重ねていくなかで、下の世代である10代20代の若者にも語り部として史実を継承していかなければなりません。彼らは舞鶴の宝であり、引き揚げ・シベリア抑留の歴史を風化させないことが舞鶴の財産につながるといえます。そのために、今後も彼らをしっかりとサポートしていくことが大事だと考えています」(鴨田市長)
舞鶴では今後も引き揚げや食に関するさまざまなイベントが開催される
今年から来年にかけて、引き揚げやシベリア抑留、舞鶴市の魅力を伝えるさまざまなイベントが開催されます。舞鶴の食文化を体験したい、引き揚げやシベリア抑留についてもっと知りたいと思う方は、下記のイベントにも注目してみてください。
- 特別展示「京都舞鶴―世界記憶遺産×日本遺産巡回展in丸の内」
期間:2024(令和6)年12月23日(月)~26日(木)4日間
時間:10時~19時
場所:東京シティアイ パフォーマンスゾーン
所在地:東京都千代田区丸の内二丁目7番2号 KITTE 地下1階
概要:
①日本遺産に認定された旧海軍の舞鶴鎮守府の歴史から引き揚げに至る、舞鶴の歴史を紹介
②ユネスコ世界記憶遺産登録資料(レプリカ)を中心に展示
[白樺日誌、手作りのメモ帳、俘虜用郵便葉書、抑留体験画ほか]
③舞鶴引揚記念館の継承の取り組みを照会
- 次世代による継承を考える「ミニ平和未来フォーラム」(仮称)
概要:継承をテーマとしたフォーラムを開催する予定
体験者の思いを聞き、若い世代が自らの言葉や最新の技術で伝える方法や意義について考えるディスカッションを予定
開催日:2025(令和7)年3月23日(日)
時間:13時30分~16時30分※未定(11月現在)
場所:新宿住友スカイルーム
所在地:東京都新宿区西新宿2丁目6-1 新宿住友ビル47階
- 「グランド グルメ トリップ~京都・舞鶴~」
概要:舞鶴が誇る食材「舞鶴かに®、京鰆、京式部(米)、舞鶴茶、レモン、地酒、和菓子」贅沢に使用したランチやディナーメニューの提供
期間:2024(令和6)年11月15日(金)~12月8日(日)
ランチ:平日11時30分~14時30分、土日祝11時30分~15時
ディナー:18時~21時30分
場所:グランドハイアット東京 日本料理「旬房」
舞鶴市の情報(舞鶴市 公式ホームページ)
- 人口:75,083人・・・2024(令和6)年10月1日現在の推計人口
- 面積:342.13k㎡・・・2022(令和4)年4月1日現在
首都圏、中京圏、京阪神からのアクセス
(電車)
JR 東京駅・品川駅から約4時間10分
東海道新幹線JR「京都駅」経由、山陰本線(舞鶴線)特急利用~JR「東舞鶴駅」降車
JR 名古屋駅から約2時間20分
東海道新幹線JR「京都駅」経由、山陰本線(舞鶴線)特急利用~JR「東舞鶴駅」降車
(車)
京都から約1時間10分
京都縦貫自動車道「綾部JCT」~舞鶴若狭自動車道「舞鶴西IC」下車
(高速バス)
京都駅~東舞鶴まで約2時間
大阪梅田~東舞鶴まで約2時間50分
大阪なんば~東舞鶴まで約2時間10分
神戸三宮~東舞鶴まで約2時間