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もの・こと  |    2024.12.14

史跡整備予定地の芝生スペースを”みんなの広場”に  |地域住民のアイデアを形にした実証実験「ステキなみちくさ」神奈川県小田原市

神奈川県小田原市といえば「小田原城を中心に栄えた歴史と伝統のある城下町」というイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。休日ともなると、たくさんの観光客であふれかえる人気のまちです。

そんな小田原市で、普段は使われていない、史跡整備予定地の芝生スペースを有効活用する実証実験が行われています。地域住民のアイデアを大胆にとり入れた「ステキなみちくさ」と題したユニークな取り組みについて、運営に携わる小田原市の山口さんと、コトラボ合同会社(以下、コトラボ)の齊藤さんにお話を伺いました。

プロフィール

右:山口さん 左:齊藤さん

山口洋平さん
小田原市都市部都市政策課

齊藤一樹さん 
コトラボ合同会社


物を「作る」から「使う」へ。より効果的で持続可能なまちづくりへの挑戦

ーーどういう経緯で始められたのでしょうか。

山口 小田原市では駅前の公共施設や地下街など、ハード面での事業を進めてきました。それに合わせてマンション建設など、民間の動きも増えてきたため、物を「作る」段階から次の「使う」段階へとシフトチェンジして、まちづくりの効果を上げていく必要性を感じていました。
具体的な場所を検討する中で、整備途中で発生する一時的な空き地に着目しました。この空間を活用して、観光客の方々や地域住民の方々の日常をちょっと豊かにしてくれるような取り組みができないだろうかと。ただ、行政主導のまちづくりだけでは、できることに限りがあると感じていたのです。ちょうどその頃、コトラボさんが手掛けている愛媛県松山市三津浜地区のプロジェクトを視察する機会がありました。行政からの委託事業で、約10年という長期スパンで地域に根ざしながら、空き家などの使われていない資源を活用し地域活性化を図る取り組みです。コトラボさんの粘り強く活動を続ける持続力と、地域と良好な関係を築く力に魅力を感じ、小田原市でも一緒にできないかと考えていたところ、手をあげていただきました。

齊藤 プロジェクトを始めるにあたり、既に小田原市で活動されている方々をお招きし、2023年10月にキックオフイベントを開催しました。話を聴くなかで「子供たちの居場所があまりない」という意見が上がっていたので、まずはそこにアプローチしてみようかという話になり、実験的に2023年12月に5日間、小田原城のお堀近くにある2つのポケットパークで「ステキなみちくさ」を開催しました。

「ステキなみちくさ」の様子

齊藤 片方には、キッチンカーやテーブル、ジャングルジムなどを置き、幅広い年代の方が楽しめる空間を作り、もう一方には、子供たちが遊べるプレイパークを設け、親子で一緒にくつろげる場にしました。道行く人々が気軽に立ち寄り、くつろいだり、のんびりしたり、遊んだり、自由に”みちくさ”する光景が日常の一部になればという想いを込めて「ステキなみちくさ」と名づけました。

「ステキなみちくさ」の様子

地域住民がやりたいことを自分たちの手で実現していくワークショップ

ーーその後はどのように進められたのでしょうか。

齊藤 子育て世代の方が多く遊びに来てくれたので、その世代の方からもっとお話を伺いたいと思い、2024年1月に子育て世代を対象とした「親子まちづくりワークショップ」を行いました。屋外のポケットパークにラグを敷いて、遊具も用意して『子ども達がまちなかで”みちくさ”するには何が必要か?』をテーマに、フランクに話し合いました。 
その後も「おだわら・街・妄想ワークショップ」と題したワークショップを開催しました。テーマは『小田原のまちなかにある余白を、日常的に楽しめるスペースにするにはどうしたらいいか』。こちらは、特に参加対象の制限はありません。1回あたり30名弱、高校生からシニア世代まで幅広い年代の方に参加していただきました。

「おだわら・街・妄想ワークショップ」の様子

山口 持続的なまちづくりの実現には、人へのアプローチも必要不可欠です。もともと公民連携は意識していましたが、そこからもう一歩先へ進んで、地域の方々が自発的に活動に参加して、自らの手で作り上げていくかかわりが生まれたら、より皆さんが求める暮らしが実現できるのではないかと考えています。

ーー地域住民のアイデアがベースにある取り組みなんですね。より多くの方にワークショップに参加してもらうために、どのような工夫をされましたか。

山口 広報という点では、SNSに加え、いろいろな取り組みをしている団体に、あいさつに行きました。

齊藤 保育園で行われたイベントに出展し、私たちの活動をより多くの方に知っていただく声掛けもしましたね。これは、子育て世代に認知を広める上で、効果があったと思います。

山口 ワークショップの内容でいうと、お子様連れでも参加しやすいように、子供達が遊べるスペースを用意しました。

「おだわら・街・妄想ワークショップ」の様子

 参加者の方には、実験的な取り組みなので自由な発想がほしいことをお伝えし、実現可能性からいったんはなれて「楽しい日常をつくるためのコンテンツ」を自由に妄想してもらいました。

山口 妄想なので、もう本当に自由でしたね。「UFO呼びたい」とか(笑)

齊藤 ありましたね(笑)

ーー複数回開催されたワークショップと並行して、2024年3月には「ステキなみちくさ-春の広場でピクニック-」が行われました。詳しく教えていただけますか。

藤 「ステキなみちくさ-春の広場でピクニック-」は、場所を旧商工会議所横の弁財天通り沿い史跡整備予定地に移し、芝生の上でゆったりくつろげる空間を用意しました。小田原城の周辺に、くつろげる空間があまりなかったので、その受け皿になるのではという考えもありました。

「ステキなみちくさ-春の広場でピクニック-」の様子

山口 多くのキッチンカーの方々にもご協力いただき、日替わりで出店していただきました。お花見客が見込まれる観光シーズンなので、資金面での継続性を考えて、キッチンカーの方々から負担金をいただく実験的な取り組みでした。今後は、地域の事業者さんたちにもお話を伺いながら、いろいろな発想を共有し、一緒に取り組んでいきたいと考えています。

「ステキなみちくさ-春の広場でピクニック-」の様子

齊藤 「ステキなみちくさ-秋-」は、ワークショップで参加者の方に出していただいたアイデアがベースにあります。たくさんの「こんなのがあったらいいね」の中から、できそうなことを選定し、現実的な形に落とし込みました。例えば「入りやすい仕掛けがほしい」というアイデアは、「ODAWARA」のモニュメントに形を変えて実現しました。

「入りやすい仕掛け」というアイデアを形にした手作りの「ODAWARA」のモニュメント

山口 まちづくりに関心のある市内事業者の方からもご協力いただきました。遊具などを並べた木の棚は、以前から繋がりのあった設計事務所の方にデザインをお願いし、ワークショップの参加者と一緒に塗装をしました。

事前準備ワークショップの参加者が塗装したアイテム棚
体を使ってのびのび遊べる遊具を用意
お絵描きボード
テーブルとイスで休憩もOK!
「ステキなみちくさ」で大活躍!蓮の葉や蓮の花の形のマット

日常をちょっと豊かにする持続的な取り組みを、地道に続けていきたい

ーー実証実験「ステキなみちくさ」は今までに3回行われてきました。ここまでの取り組みを振り返って、いかがでしょうか。

山口 視察させていただいた愛媛県松山市三津浜地区と小田原市は、まったく状況が違うので、正直、どうなるのかなと未知の部分はありました。ところが実際に始めてみると、良い意味で想像もしなかった場面を目の当たりにすることが多々あり、人や空間の持つ可能性を感じています。

藤 実際に参加された市民の方々からは「遊べる場所ができて嬉しかった」「普段は関わらないコミュニティと接して新しい友人ができた」など、好意的な反応をいただきました。

山口 「ステキなみちくさ」の取り組みを通して、主体的にまちづくりにかかわる人の輪が広がれば、いずれこの場所が史跡に姿を変えた後も、愛着を持っていただけるのではないかと考えています。

ーー今後についてお聞かせください。

山口 まちづくりの取り組みは、今回「ステキなみちくさ」を行ったエリアだけではありません。駅前の広場や既存の公共施設など、有効活用できる場所がまだたくさんあります。いろいろな方の声を聞きながら、新たな取り組みにも着手していきたいと考えています。

齊藤 私たちが一番大切にしているのは「日常を作っていくこと」なんです。ちょっと楽しめる瞬間を、少しずつ日常のなかに積み重ねていって、日常を豊かにする。それには、5年10年という長い時間が必要になります。単発の花火みたいに一過性のあるイベントではなく、継続性のある地道な取り組みが大切です。
また、日常に入っていくには、まちに足を運び、様々な方からお話を伺うことが重要だと考えています。実現したいのは、私たちのやりたいことではなく、まちの皆さんがやりたいことだからです。そこで出てきたアイデアをもとに、仮説をたてて実験します。対話の場とアクションを起こす場をくり返すサイクルを通じて、徐々に発展させていきたいと思います。

山口 ”実証実験”という言葉通り、チャレンジを重ねていくことが大切だと感じています。チャレンジして得たものをまた次のチャレンジで活かし、粘り強く進め、だんだんと広げていく。そうすることで、まちが変わっていくのではと期待しています。時間のかかる長期戦である以上、大きな責任も伴いますが、そこは覚悟しながら一生懸命取り組みたいと考えています。

取材後記

自分たちのまちを自分たちで作っていくことで、日常を豊かにする。一見シンプルでありながら、非常に困難なこの取り組みに、地道に挑む山口さんと齊藤さん。近い将来、小田原市がより一層魅力あふれるまちへと発展していくことを、心から楽しみにしたいと思います。

実証実験「ステキなみちくさ」
cannomaru事務局(小田原市都市政策課・コトラボ合同会社)
HP:https://cannnomaru-odawara.localinfo.jp/
Mail:kotolab.odawara@gmail.com
Tel:080-5015-2621
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コトラボ合同会社
HP:https://koto-lab.com/

場所:弁財天通り沿い史跡整備予定地(旧商工会議所横の芝生スペース)
※「ステキなみちくさ-春の広場でピクニック-」「ステキなみちくさ-秋-」の実施場所です

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この記事を書いた人

野田 茜

兵庫県生まれ、横浜市在住|3児の母|フリーランスライター|ジャンルは教育・本・地域活性・地方創生|教育系のコラムを執筆中|kindle本4冊出版|取材・インタビューを通して地域のモノ、ヒト、コトの隠れた魅力を引き出して、多くの方に届けるお手伝いをしていきたいです。【note】https://note.com/timor07/【ポートフォリオ】https://nodaakane.edire.co/

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