こんにちは!福島県いわき市担当ライターのさわきゆりです。
今回の記事では「16フィートジャーマン・チェンバロ」(以下16ftチェンバロ)という、日本にたった2台しかない、とても美しい鍵盤楽器をご紹介します。
16ftチェンバロの1台は個人所有ですが、もう1台は「いわき芸術文化交流館アリオス」(以下アリオス)という文化施設にあります。
実は、コンサートホールで16ftチェンバロの演奏を聴けるのは、日本でアリオスだけなのです。
チェンバロとは
チェンバロとは、17世紀〜18世紀半ば(バロック時代)のヨーロッパで活躍した鍵盤楽器です。
チェンバロの外見はピアノに似ていますが、その構造はまったくの別物。
ピアノはハンマーで弦を叩きますが、チェンバロは爪で弾きます。
そのため、チェンバロはピアノに比べて、音の一粒一粒がとても軽やかです。
楽器を分類すると、チェンバロはギターや琴と同じ、撥弦(はつげん)楽器になります。
見た目はピアノ、仕組みはギター。チェンバロはとても興味深い存在です。
いわき芸術文化交流館アリオスについて
アリオスがあるのは、市役所や合同庁舎が集まったいわき市の中心部。
大小のコンサートホール、劇場、音楽練習室などが入った複合文化施設です。
アリオスのコンサートホールは、国内外の指揮者や演奏家が認める、日本最高水準の音響性能を備えています。
NHK交響楽団が定期演奏会の提携を結んでいたり、世界的指揮者の小林研一郎さんがタクトを振ったりと、アリオスは一流の音楽家たちに選ばれてきました。小山実稚恵さんや辻井伸行さんのような日本を代表するピアニストも、何度もアリオスで演奏会を開いています。
アリオスの16フィートジャーマン・チェンバロとは
チェンバロは「ストップ」という、音色とオクターブを選ぶ機構(仕組み)を持っています。
日本で見ることができる一般的なチェンバロには、音域の異なる「4フィートストップ」と「8フィートストップ」があり、1つの鍵盤で同時に2オクターブの音を出すことが可能です。
16ftチェンバロはさらに「16フィートストップ」という、低い音域のストップも備えています。
これにより、16ftチェンバロは1つの鍵盤で、同時に3オクターブの音を奏でることができるのです。
アリオスの16ftチェンバロは、ドイツ・ハンブルクの楽器博物館に収蔵されていたフタと、楽器の設計図から復元されました。
そのフタには、緑豊かな自然の中で、笛や歌を楽しむ人々の姿が描かれています。
一度は実物を見ておきたい、とても印象的で美しい絵画です。
側面には、大きな楽器を華やかに彩る、緑と赤の唐草文様があります。
目で見て、耳で聴いて楽しめる、日本ではここにしかない宝物。
それが、アリオスが誇る16ftチェンバロです。
アリオスに貴重な楽器がある理由
それにしても、どうしてアリオスに16ftチェンバロがやってきたのでしょうか。
音楽学芸員の足立優司さんが、その経緯を教えてくださいました。
2008年にアリオスが開館する前、購入する楽器を選んでいた足立さんは、合唱連盟からパイプオルガンの設置依頼を受けたそうです。
クラシック音楽の中で、パイプオルガンやチェンバロは「古楽」というジャンルに入ります。
足立さんは「アリオスで古楽のコンサートを開けるように」と、ポジティフオルガン(持ち運べるパイプオルガン)と同時にチェンバロも購入することにしました。
日本で行われるチェンバロのコンサートでは、ほとんどの会場でバッハの作曲した曲が演奏されています。
バッハはドイツ人ですから、演奏家の多くは「バッハならドイツのジャーマン・チェンバロで弾きたいと」望みます。
しかし、日本のコンサートホールにあるのは、ほとんどがフランスのフレンチ・チェンバロ。
そのため、演奏家が運賃などの経費をかけて、ジャーマン・チェンバロを会場に持ち込むことも珍しくありません。
「それでは予算がかかりすぎて、いわきで古楽のコンサートを継続するのは難しい。アリオスには、演奏家がいわきへ行って弾きたいと思うような、魅力のあるチェンバロを用意しよう」
そう考えた足立さんは、他のホールが持っていない「16フィートジャーマン・チェンバロ」を選びました。
この明断があったからこそ、アリオスでは今、有名なチェンバロ奏者のコンサートやCD収録が行われているのです。
アリオスの楽器庫は室温23℃、湿度41~45%を維持するようにコンピューターで管理されています。
定期的なメンテナンスも行っているため、中の楽器は常にベストコンディション。
このことも、演奏家たちが弾きたくなる理由のひとつです。
後半の記事は、その貴重な楽器庫からお届けします!
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