今回の記事は【日本で聴けるのはいわきだけ!極上の音色「16フィートジャーマン・チェンバロ」】の後編になります。
前編はこちら
前編では「いわき芸術文化交流館アリオス」(以下アリオス)にある「16フィートジャーマン・チェンバロ」(以下16ftチェンバロ)をご紹介しました。
後編は、なかなか入ることができないアリオスの楽器庫からお届けします。
音楽学芸員の足立さんと一緒にエレベーターを降り、貴重なその部屋へ向かうと、声楽のようなポジティフオルガン(持ち運べるパイプオルガン)の音が聴こえてきました。
楽器庫にいらっしゃったのは、ピアニスト/チェンバリストの溝井麻佐美さんです。
溝井さんは16ftチェンバロを始め、楽器庫にある貴重な鍵盤楽器を実際に弾いて、コンデションの管理をしていらっしゃいます。
16フィートジャーマン・チェンバロにご対面
長く大きな16ftチェンバロは、フタの絵画や側面の唐草文様だけでなく、脚まで芸術的です。
16ftチェンバロの鍵盤は、白鍵が牛の骨、黒鍵が着色した柘植(つげ)の木でできています。
本体は楓(かえで)で作られ、くるみの皮が貼られているそうです。
丁寧に張られた弦には凛々しさがあります。
美しい音色の仕組み
チェンバロはギターや琴と同じ、弦を弾いて音を鳴らす撥弦(はつげん)楽器です。
鍵盤の後ろには、弦の一本一本をつま弾く爪が並んでいます。
チェンバロの奏法技術はピアノに使えますが、現在のピアノの奏法ではチェンバロを奏でられません。
ピアノは鍵盤を叩くように演奏できますが、チェンバロで同じことをすると、爪が折れてしまうからです。
音楽学芸員の足立さんが、撥弦機構(弦を弾く仕組み)の部品を外して、見せてくださいました。
白い小さな部分が、弦を弾く爪です。小さくて繊細、そしてとても貴重なパーツですね。
この後、溝井さんが実際に、16ftチェンバロの音を聴かせてくださいました。
まずは16フィートストップを外して、高音域と中音域だけを使った「G線上のアリア」。
溝井さんが鍵盤を弾き始めた途端、極上の音色があふれ出しました。
軽やかで優雅なメロディは、夢を聴いているような心地良さです。
次に弾いたのは、16フィートストップを入れた「イタリア協奏曲」。
日本ではアリオスでしか聴けない、貴重な低音域が加わると、音色の表情ががらりと変わります。
重低音の深みを増した響きには、思わず驚いてしまうほどの迫力がありました。
バッハが生きていた頃、ドイツの人々がコンサートホールで楽しんでいた16ftチェンバロ。
この重厚で美しい音色を、現代のいわきで聴けるというのは、本当に素晴らしく幸福なことです。
すべての音楽は歌から生まれた
「演奏会を聴きにホールへ集まるのは特別なことではない。だから、映画を見たり飲み会を開いたりするのと同じように、生活の一部になればいいと思う」
足立さんと溝井さんは、口をそろえてこう話します。
すべての音楽は歌から生まれ、楽器へと発展していきました。
そして、歌は言語で成り立っています。
実は、世界各国で言語が異なるように、楽器にも国によって違いがあるのです。
左はドイツのジャーマン・チェンバロ、右はフランスのフレンチ・チェンバロの先端です。
ドイツは曲線でフランスは直線。まったく違う輪郭をしています。
この差は弦の張り方の違い、つまり音の響きの違いから来ています。
そして、同じチェンバロなのに響きが違うのは、母国語の響きが違うからなのです。
こんなところにも「音楽は歌から生まれた」という歴史が垣間見えます。
クラシックコンサートは敷居が高く感じられますが、歌うような軽い気持ちで、ホールへ行ってみてはいかがでしょうか。
生演奏ならではの、全身で音を浴びる心地良さをお楽しみいただけます。
アリオス・チェンバロコンサート情報
2024年秋、アリオスで16フィートジャーマン・チェンバロを使ったコンサートが開かれます。
・9月21日(土)18:00 いわしん音楽小ホール
音楽の隠れ家「銀の鈴を振るがごとくvol.5」大塚直哉さん(東京藝術大学教授)
※2002年から続けられている人気の講座です
・12月15日(日)14:00 いわしん音楽小ホール
「チェンバロ・コンサートのススメ⑥小林道夫さんチェンバロ・リサイタルー
日本古楽界の至宝、その音楽を聴く」
※91歳になられるチェンバリスト/ピアニストのゴルトベルク変奏曲をお楽しみいただけます
お問合せ先:アリオスチケットセンター
0246-22-5800(10:00~20:00・毎週火曜定休)
いわき芸術文化交流館アリオス
住所:〒970-8026 福島県いわき市平三崎1-6
TEL:0246-22-8111
FAX:0246-22-8181
URL:https://iwaki-alios.jp/