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アート  |    2024.12.27

北斎たんけん隊 2024 in  湘南国際村|いのちを感じる二日間に参加者は何を想う

あなたは「葛飾北斎」と聞いて、
何を思い浮かべるだろうか?

『神奈川沖浪裏』

稀代の浮世絵師として名を馳せ、風景画を世に知らしめた人物である北斎。海越しに富士山を描いた『神奈川沖浪裏』は、新千円札の裏面を飾り、レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』と肩を並べるとも言われる傑作だ。

故に、『富嶽三十六景』の富士山が最初に頭に浮かんできた方も多いのではないだろうか。

『山下白雨』通称:黒富士

しかし、北斎は人物や物、生物、植物、幽霊、自然現象に至るまで、この世の全てを紙面上に描き出す対象として捉えた。北斎を知れば知るほど、やがて“ただの浮世絵師”というイメージは脆くも崩れ去ってゆくだろう。

北斎が描いた幽霊や滝

無形有形問わず、森羅万象に “いのち”を見出した北斎。11/30(土)と12/1(日)に湘南国際村で行われた「北斎たんけん隊」は、そんな彼のユニークな視点から “いのち”について考える二日間であった。

私は、二日目にあたる12/1(日)にお邪魔し、ワークショップと講演会に参加した。本記事では、湘南国際村をご存知でない方のために、本イベントを通じて湘南国際村と三浦半島の魅力を存分に語っていく。

そして、なぜ北斎と三浦半島とを掛け合わせたイベントであるのか、その理由にも迫った。

湘南国際村:湘南国際村は、三浦半島の中心に位置し、横須賀市と葉山町にまたがるエリアの名称。“歴史と文化の香り高い21世紀の緑陰滞在型の国際交流拠点”として、1994年(平成6年)に開村した。

なぜ、北斎なのか。「北斎たんけん隊 2024」へかける想い

森羅万象にいのちを見出した天才絵師「葛飾北斎」をテーマにした「北斎たんけん隊 2024」は、2019年に開催された企画に端を成す。

当時、湘南国際村の活性化と持続的な発展に向けた検討の中で住民アンケートを実施したところ、湘南国際村の魅力は「緑豊かな自然環境」であり、「芸術との共生」にも力を入れてほしいという意見が多く見受けられたと言う。
そのような中、県民から「世界的に有名な葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』には県の名前が入っているのに、なぜ葛飾北斎を神奈川県のPRに使わないのか?」という連絡があったのだそう。その言葉をきっかけに調べてみると、北斎は三浦半島とゆかりがあり、葉山町や横須賀市の絵を描いていたことがわかった。

かくして2019年に、湘南国際村のイベントで北斎をテーマにした企画を実施した。この企画は大盛況に終わり、2020年から本格的に企画を動かそうと歩み出した矢先、コロナウイルスが蔓延したことで塩漬けになってしまったと言う。

大好評を得たと言う点字による“触れる展示”

時を経て、2023年にコロナの療養施設から復活を遂げた湘南国際村。北斎の企画も再び始動したが、企画を進めるための苦難は続いた。

「湘南国際村は、葉山町と横須賀市にまたがっているのですが、葉山の人には葉山じゃないと言われ、横須賀の人にも横須賀じゃないと言われてしまっているんです。なので、湘南国際村に地元のあるなしに関係なく人を呼んで、もっと活性化させて、ここを地域に根付かせたいと思っています。そのために、自然やアート、教育を大切にし、未来につながるイベントを作りたいと思っていました。ただ、このイベントのために集まった3つの団体が、それぞれにこだわりが強く、コンセプトや内容に、めちゃくちゃ時間がかかってしまったんです」

一連の企画に最初から携わっている担当の方に聞いたお話によると、イベントを作り上げるのに相当な時間を費やしたそうだ。驚くべきことに、クロージングセッションは当日の前夜まで打ち合わせが続いたと言う。

二日目のクロージングセッション

話を戻そう。なぜ、北斎なのか。それは県民のたった一言の提案に過ぎなかったのかもしれない。

だが、北斎の名に引き寄せられ、多くの人が関わるイベントへと進化を遂げた。そして、北斎の視点を持って三浦半島を知ることで、地域が活性化し、交流が生まれた。

北斎と湘南国際村との間に決定的な関連性がないとしても、少なからず自然とアートを大切にする三浦半島にとって、北斎は必要不可欠な存在だったと言えよう。

『神奈川沖浪裏』に代表される海越しの富士山は、三浦半島ならではの風景であるうえに、森羅万象にいのちを見出した北斎の視点は、湘南国際村にとって重要なもの。北斎をテーマにしたイベントをきっかけに、多くの人が湘南国際村を認知し、神奈川県における雄大な自然と多様な文化に興味を持ったのなら、「なぜ、北斎なのか」という問いも不要なのかもしれない。

「あなたは北斎です」参加した方々の感想

生命が光に変わる体験シアター“あなたのいのちが光なら。”

光を使って、いのちを感じるワークショップが開催されていた。非常に興味をそそられ、予約の欄に名前を書く。

いよいよ始まった体験型のワークショップは、いのちの尊さを感じられる美しい体験だった。内容は、自分の心臓の鼓動が光として点滅するというもの。小さな球体をいのちに見立てて、各々が静かに自分の心拍を感じるという体験だ。

私は自分の心臓が動くごとに光る球体を見つめ、働き続ける鼓動に不思議な感動を覚えた。

終了後、親子でワークショップに参加していたお母様と娘さんにお話を伺った。

——はじめまして!取材に来ているライターです。少しお話をお伺いしてもよろしいですか?

お母様「いいですよ!」

——光をいのちに見立てた体験を通じて、どのようなことを感じましたか?

娘さん「心臓は、いつも動いてるから当たり前に感じちゃうけど、でも光にして見てみると、止まったら怖いなと思った」

お母様「こういうかたちで心臓の鼓動を実感するのは初めてですけど、娘が言うように、普段は当たり前に生きてるし、呼吸してるし、パクパクしてるけど、これを光にして見てみると、これが止まったら困るなとか、怖いなとか感じました。ずっと光っていてほしいし…長生きしたいなって思いました。あと、命を大切にしないといけないなとも」

——そうですよね…お話を聞かせていただき、ありがとうございました!

インタビューにお答えいただいたお母様と娘さんも、ワークショップを通じて改めていのちの尊さに気付かされたと言う。

北斎なりきりお絵かきクラブ

「北斎なりきりお絵かきクラブ」は、万物を絵の対象として捉えた北斎になりきり、生き物や植物などを自由に描くことができるワークショップである。

陽気な子どもたちが、鳥や草花などの対象を見つめながら一心に絵を描いている。その光景は、まるで興味に忠実だった北斎そのもの。楽しげな雰囲気の中に、子どもたちの純粋な好奇心と真剣な眼差しが感じられた。

途中、「北斎なりきりお絵かきクラブ」で絵を描いているお子さんのお母様にお話を伺った。

——こんにちは!今日は、なぜ息子さんをこのイベントに連れてきたのでしょうか?

「私たちは葉山に住んでいるのですが、自分は息子に魅力的なことをそんなに伝えられていない気がしていました。だけど、ここに来て息子が『あ、自分は素敵な街に住んでいるんだな』って、少しでも感じてくれたらいいなと思って来ました」

——お母さん的には、今住んでいる葉山で息子さんにすくすくと育ってほしいみたいな想いがあるのでしょうか?

「そうですね。ここは時間の流れが割とゆっくりな方で、のびのびとしています。他の都内とかの話を聞くと、結構せかせかしているのかなって思います。こっちは時間の流れがゆっくりなので、ゆっくりのびのび過ごしてもらいたいなって想いはありますね。あと、一番はやっぱり海や山などの自然があるので、みんなが社会の一部っていうよりかは、自然の一部だって思って育ってくれたらいいなって思います」

湘南国際村はもちろんのこと、三浦半島全域は豊かな自然に囲まれた地。その中で育てられたら、豊かな価値観を養うことができるだろう。

都内に住まわれている方は、街の喧騒から離れて、この大自然を満喫しにやってきてはいかがだろうか。

世界を驚かせた北斎と北斎漫画

「世界を驚かせた北斎と北斎漫画」と題し、浦上 満氏が北斎漫画と呼ばれる絵手本をもとに、葛飾北斎の人生や感性を紐解く。

私は個人的に、非常に感銘を受け、葛飾北斎への興味が大波のように引き寄せてきた講演であった。(もちろん、その他の講演も興味深かったのはお伝えしておこう)

最後に浦上氏への質問タイムが設けられたため、私は北斎と三浦半島の関連性について尋ねてみた。

——葛飾北斎と三浦半島に何かしらの関係があったのでしょうか?

浦上氏「あると思います。まず北斎って人はね、江戸の人なんだけど、『北斎漫画』も初編は名古屋で出しているでしょ。だから結構、旅をしているんですよ。よく旅をするので、北斎は隠密だったと言う説もあったくらいです。まあ、そんなことはないと思いますが、三浦半島については、やっぱりたくさん描いています。このあたりは彼の旅した範疇だと思います」

——ありがとうございます!

浦上氏の軽快なトークから繰り出される北斎の逸話は、実に小気味よい。ぜひともこのあと、お茶を入れて3時間くらいお話を聞かせていただきたいものだ。

浦上氏の講演が終了したあと、質問タイムで私のあとに秀逸な質問を投げかけた少女とそのお母様にお話を伺った。

——今、北斎漫画の講演で質問をなさっていましたよね?もともと北斎が好きだったのですか?

お母様「そうですね。私は北斎のことを嫌いではないので来てみたのですが、このイベントに参加して今の講演を聞いてみたら、もっとすごいなっていうのがわかりましたし、ますます好きになりましたね」

5〜6年前に六本木でやっていた北斎展にも行ったことがあると言うご家族。イベントに参加する以前から、子ども向けの本でも北斎を知っていたそうだ。

——この湘南国際村でこういうイベントがあって、やっぱりお子さんに感じてほしいものがあっていらっしゃったんですか?

お母様「やっぱり東京だとあくせくしちゃうんですよ。そこから離れてみて、非日常的な体験をするのも今の子どもたちや、私たち大人にも必要なんじゃないかなと思って来ました。でもやっぱり、早くしなさいとか言って、母親として急かしちゃう部分もあり、そういう部分をちょっと俯瞰して見てみたいという思いもありました。デジタルデトックスでもないですけど、忙しさデトックスみたいなのをしたくて」

お母様だけでなく、「昔の人が気になったから」と言って一緒に参加していた娘さんにも、今回の講演について感想をお聞きした。

——今の講演は、どうだった?

娘さん「より詳しく説明してくださって、頭に入りやすかった。色々なことを知れて良かった」

このイベントを通じて、北斎に触れ、湘南国際村や三浦半島全域の大自然を感じることができた子どもと大人たち。ゆったりとした時の流れを感じながら、すくすくと感性を育んだ一日だったに違いない。

当然、私もその一人だ。

「北斎たんけん隊 2024 in 湘南国際村」まとめ

11/30(土)と12/1(日)の二日間にわたり開催された湘南国際村でのイベント「北斎たんけん隊 2024 in 湘南国際村」は、以上を持って幕を閉じた。

多くの子どもたちが “いのち”について考え、自然に触れ、独自の感性を育むことができた当イベントは、湘南国際村でしかできなかった企画だと感じる。

湘南国際村で眺められた絶景

『神奈川沖浪裏』を筆頭に、さまざまな“いのち”を描いてきた北斎。彼が未来に託した “いのち”は、今もなお、受け継がれているに違いない。

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この記事を書いた人

みくと

映画と映画館をひたすら愛するフリーライターです。2000年に横浜で生まれ、現在は妻と娘と大和市に住んでいます。普段は映画レビューの寄稿やSEO記事の執筆、ホームページのライティングなどをしています。趣味は、次に観る映画を「何にしようか」と悩むことと、文章を書くことです。Mediallでは、地域の映画館や神奈川の魅力溢れるお店などをご紹介します。

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