今年は暖冬の影響で、全国的に梅の収穫が近年まれにみる不作でした。
気候変動の影響で、いつか梅干しが食卓から消えてしまう未来を心配していたら、小田原の梅干し屋さんに「未来にはあり得るかもしれないけど、あんたが生きている間は大丈夫」と励まされました。
梅を使ったおやつをきっかけに、地域(や日本)の歴史や文化に触れられることに気づき、梅おやつを探す旅を続けています。今回は、私が住んでいる三島からもアクセスしやすい小田原を訪れました。
関東3大梅林の1つとされる「曽我梅林」を中心に栽培されている小田原梅を使ったおやつは、予想をはるかに超えた豊富さでした。
小田原の梅の歴史
小田原市の特産物であり、かながわブランドに指定されている小田原梅。
その歴史は戦国時代までさかのぼり、北条氏の時代に軍の保存食や健康維持のために梅干し作りが奨励され、発展しました。
小田原で梅干し作りが発展した理由は、当時塩田が広がり塩の供給が豊富だったことがあります。そして、箱根八里の山越えの旅人が増え、小田原宿が栄えると、梅干しは弁当の腐敗防止などの必需品として人気になりました。江戸時代の「東海道中膝栗毛」でも小田原の名物として梅漬が紹介されています。
小田原の梅栽培は明治40年以降、戦時需要で急増し、昭和16年に最盛期を迎えましたが、戦後は需要減と塩不足により衰退し、梅園は荒廃しました。昭和30年代、鈴木十郎市長の梅復興運動により再び小田原の特産物として復活します。
小田原市の梅は、関東3大梅林の1つとされる「曽我梅林」を中心に栽培されています(関東3大梅林ほか2つは水戸の偕楽園、埼玉の越生梅林)。そのほとんどが十郎(じゅうろう)という品種で、『小田原市梅研究会』が命名した小田原オリジナルの梅干用品種なんです!種が小さく肉厚で柔らかく、梅干用品種の最秀品と言われています。「十郎」の名は、日本三大仇討ちの1つ『曽我物語』の曽我兄弟のうちの一人「十郎」に 由来しているそうです。
【参考】
石川 友理(小田原市経済部農政課).地方品種「十郎」を用いた梅干作りへの小田原市の取り組みと課題.日本海水学会誌 第 67 巻 第 4 号(2013)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/swsj/67/4/67_191/_pdf/-char/ja
梅と梅の歴史が楽しめるお店、欄干橋 ちん里う
小田原駅から徒歩15分ほどの場所にある、明治時代(1871年)創業の梅干、佃煮などの専門店には、「小田原街かど博物館」があり、100年前に漬けた梅干しや梅干しの種を使った細工などを見学できます。
※小田原街かど博物館は、工夫を凝らした展示、店主との会話、体験を通して、小田原の地場産業や歴史を紹介し、訪れた人に地域の魅力を伝えることを目的としています。
お店の方が読んでくれた梅長寿の心得
窓に「梅長寿の心得」と書かれた布が掲げられていました。
お店の方によれば、作者は不明ですが、昔からずっと伝わるものなんだそうです。
お店の方が音読してくれました。
梅干製造図
梅長寿の心得 人生は六十歳から
一、七十歳でお迎えの来た時は 只今梅を喰っていると云え
一、八十歳でお迎えの来た時は 梅干しの種をしゃぶっている所だと云え
一、九十歳でお迎えの来た時は 種の中の天神さんを喰う所だと云え
一、百歳でお迎えの来た時は 頃合をみて自分から種の中に入る所だと云え
年齢を重ねる度、粋で力強くなる表現のたくましさに、長寿への祝福が込められているようでした。梅と一緒なら前向きに長生きを楽しめそうです。
梅の種の中にある薄皮に包まれた実「仁」は、別名「天神様」と呼ばれています。
梅好きだった菅原道真公にちなんで名付けられたそうです。
「天神様」 が宿る梅の種を粗末に扱うことはできないという考えから、江戸時代には太宰府天満宮に 「梅干の種納め所」が設けられました。この納め所は現在もあるので、いつか訪れてみたいと思います。
お店の情報
店名: 欄干橋ちん里う(らんかんばしちんりう)
住所: 神奈川県小田原市本町4-2-37
営業時間 :9:00〜18:00
電話: 0465-23-1547
定休日: 不定休
公式サイト:https://umeyorozu.info
小田原梅を使ったおやつ紹介
小田原梅を使用したおやつは、梅ブラウニー、梅あめ、梅ゼリー、梅クッキーなどなど、定番から季節限定まで種類が豊富でした。実際に私が購入した梅おやつとお店をご紹介します。
青梅の甘納豆、のし梅、青梅の甘露煮
上述の「欄干橋 ちん里う」で購入した梅おやつたち。右上から時計回りに青梅の甘納豆、のし梅、青梅の甘露煮、梅茶漬け(これはおやつではないですね)。
すべて美味しかったのですが、青梅の甘納豆は予想を超えたおいしさでした!
甘納豆のようにむっちり食感に青梅のさわやかなジューシーさが加わり、今まで食べた梅おやつの中で1番だったといっても過言ではありません。もう一度食べたくて再訪しましたが、その時はありませんでした。
ああ、もう一度食べたい。
梅干屋パウンド
人気商品「梅干屋パウンド」は、バターの香りと梅の酸味が絶妙で、甘すぎず、しっとりした口当たりでした。連れ合いが「おいしい!」とかなり気に入っていました。
バター、砂糖、卵、粉の4つの素材を中心に、梅以外にも季節ごとのケーキが作られています。
お店の情報
店名: ちん里う本店(小田原駅から徒歩1分の場所にある、明治4年(1871年)創業の老舗)
住所: 神奈川県小田原市栄町1-2-1
営業時間 :9:00〜18:00
電話: 0465-22-4951
定休日: 第2水曜日(祝日の場合は翌水曜日)
公式サイト:https://umeyorozu.info
◾️のし梅、梅寄せ羹・馥郁(ふくいく)
神奈川県の指定銘菓「うめ〜いのし梅」を買いに行き、「梅寄せ羹・馥郁(ふくいく)」というお菓子にも出合いました。どちらも小田原梅の味を楽しめます。とくに、馥郁はその名の通り、梅の香りと味がしっかり感じられて、ゼリーのような食感でおいしかったです。
お店の情報
店名: 右京(四季料理と和菓子のお店)
住所: 神奈川県小田原市本町4-3-29
営業時間 :和菓子店 9:00~17:30
電話: 0465-23-7878
定休日: 水曜日(祝日の場合は営業)
公式サイト:https://umeyorozu.info
まとめ
小田原は箱根観光の拠点であり、小田原城や石垣山一夜城、相模湾の美しい景色など見どころが満載です。徒歩でもドライブでも、梅を堪能できるスポットが揃っているので、梅好きの方は、梅林散策や梅のおやつを楽しめるお店をコースに加えてみてはいかがでしょうか。梅の花が咲く2月や梅の実の収穫が始まる6月以外の季節でも、梅を使ったおやつを楽しむことができます。