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バックストーリー  |    2026.04.28

「あのとき何もできなかった私が、今はできる」女性消防団員・内田真澄美さんが思う地域防災とは

神奈川県横浜市都筑区。

消防団の制服を着てインタビューに答えてくれた、内田真澄美(うちだ ますみ)さんは、 都筑消防団 第三分団に所属して7年目の消防団員です。2人のお子さんを育てるお母さんでもあります。

「消防団員」と聞くと、多くの人は消防署の職員と同じように、火災現場で放水する姿を思い浮かべるかもしれません。 

「私も最初そう思ったんですよ。火災現場に行って、さすがに火は消せないと思って」と内田さんは笑顔で言いました。

消防署の職員と消防団の団員の役割は、大きく異なります。

消防署の職員は、常勤の地方公務員で消防署に交替で勤務する職員や、消防本部に勤務する職員をいいます。
一方、消防団員は、普段は生業を持ちながらも「自らの地域は自らが守る」という精神に基づき、災害発生時や訓練時には自宅もしくは職場等から出動して活動します。
(参考:総務省消防庁公式HP抜粋)

消防団の活動は、防災訓練や火災予防の啓発活動、地域行事での警備、備品の点検など、地域の安全を「裏方」として支える仕事が中心です。

火災発生時も、消防隊の後方支援や現場周辺の警備が主な役割だといいます。

女性でママでもある内田さんは、なぜ消防団に入団したのでしょうか。
本人に直接伺いました。

目の前で人が倒れて、何もできなかった過去

内田さんが消防団に入る前、人の命と向き合う出来事がありました。

営業の仕事中に、商店街を歩いていたときのことです。高齢の方が突然、目の前で倒れました。

周りにはたくさんの人がいましたが、内田さんを含め、救急車を呼ぶ以外、誰も何もできなかったといいます。

「本当にそのとき、何をしていいかわからなくて。ただ見守ることしかできませんでした」と内田さんは当時を振り返ります。

何かできることがあったのではないかという思いが、ずっと心に残っていました。

万が一のときに役に立てればと、横浜市の救命講習を受講しました。講習の中で、知識があるだけで人の命を守れる可能性が広がることを実感したそうです。

その後、地域の行事や防災訓練に参加するなかで、消防団の活動を目にするようになりました。 

内田さんは「もしもの時に、大切な家族や地域を守れる存在でありたい」という気持ちが強くなり、都筑区民まつりで、子どもがうれしそうに防火衣着装体験をする姿を見て、入団を決めました。

女性だからこそできる消防団員の活動

2020年4月、内田さんは都筑消防団に入団しました。

都筑消防団の団員数のうち、女性は5分の1程度。入団当初、女性でも消防団員として活躍できるのか不安だったといいます。

それでも活動を続けていくうちに「女性だからこそ、できることがある」と確信を持ったそうです。

火災現場で、消防団員は後方支援の役割を担います。具体的には、近所の方への声かけ、安全確保です。

「災害時、ただでさえいつもとは違う雰囲気の中、男性の消防士を怖がってしまう子どもは少なくありません。女性団員がいることで、子どもが安心できる環境を作れます。救急の場面では、女性の傷病者の方には女性の消防団員が声をかけたほうが安心できることもあります。高齢者や小さなお子さんへの対応が細やかにできるのも女性の強みですね」と内田さんは笑顔で答えてくれました。

都筑消防団が独自に取り組む「一時預かり」制度

小さなお子さんがいるお母さんも、消防団員に参加できるといいます。

消防団の活動に参加したくても、小さな子どもがいて講習を受けることすら難しいという方のために、 都筑消防団には、子育て世代のための「一時預かり」制度があります。

訓練や会議など、団員が活動に参加する際に、子どもを預けることができるサービスです。保育士やママさんの消防団員が子どもを見てくれるので、安心して活動に集中できます。

実は「一時預かり」は、都筑消防団が独自に取り組んでいるもので、他の区への広がりはまだこれからです。しかし、女性団員を増やすうえで大きな後押しになっています。

「消防団に興味があっても、小さい子どもがいるから無理だと思う必要はありません。私も、一時預かりサービスに携わっています。ぜひ気軽に利用してほしいです」と内田さんはにこやかに話してくれました。

初めての心肺蘇生は愛犬

内田さんが、初めて心肺蘇生を行った相手は、愛犬のチャンプでした。

ある日、内田さんが仕事から帰宅すると、目の前でチャンプが突然倒れました。

夜間だったので病院が開いておらず、内田さんは不安と焦りに襲われたといいます。倒れたチャンプは、しゃくりあげるような途切れ途切れの呼吸をしていました。その様子を見た内田さんには、ある言葉が脳裏をよぎりました。

「これは、死戦期呼吸だ」

迷っている時間はないと、内田さんは即座に心肺蘇生を開始しました。

「残念ながらチャンプは天国へ旅立ってしまいましたが、不思議と後悔はありません。知識がなければ、私はただ不安で立ち尽くすことしかできませんでした。心肺蘇生の処置ができたのは、方法を知っていたからです」と、内田さんは当時の様子を話してくれました。

いざという時、迷わず一歩を踏み出すことは勇気が必要です。そのためには「対応を知っていること」が大切で、身近な人たちを最期まで守り抜くための力になります。

※死戦期呼吸:心停止直後に見られる呼吸のことで、あえぐように呼吸していたり下顎を動かして呼吸したりしているように見えるのが特徴。

「防災を特別なものにしない」ための心構え

内田さんに、地域防災の未来について聞きました。

「住民の皆さんが、防災を特別なものだと思わないこと。防災に対する意識を日常の中で少しずつ身近に感じて、いざという時に自然と助け合える地域になってほしいと思います」

「防災」というと固く感じてしまいますが、何も特別で専門的な知識ではありません。日常生活の中で「周囲の人が困っていたら助けられる」知識があれば、大きな力になるといいます。

内田さんは消防団員になってから、AEDの場所を普段から意識するようになったり、散歩中に消火器の位置を確認するようになったそうです。

「AEDって、難しそうだと思っている人が多いんです。でも、電源を入れたら手順をしゃべってくれます。その通りにやればいいだけなので、手順は簡単なんですよ」

地域の防災訓練でAEDの指導をする側に立った内田さん。

かつて目の前で人が倒れたとき何もできなかった自分が、今は使い方を教えられる存在になりました。

「あのとき、何もできなかった私が、今はできる。それが一番大きな変化ですね」

「消防団に内田さんがいるなら」と思ってもらえる存在に

「消防団は、特別な知識や体力がなくても大丈夫です。地域のために何かできたらいいなという気持ちがあれば十分だと思っています」と内田さんは話します。

内田さん自身も、最初から自信があったわけではありません。周りの消防団員に頼ることで、不安や戸惑いが少しずつなくなっていきました。

消防団員はチームです。1人ではできないことを支え合いながら進んでいくことで、関わりが深くなっていくといいます。

「私は、積極的に消防団員の活動に参加しています。内田さんがいるなら、参加してみようかなと、思ってもらえる存在でありたい。 消防団活動に少しでも興味がある人たちを集めて、説明会の開催を実現したいと思っています」

内田さんの穏やかな笑顔の向こうに、地域を静かに守り続ける決意が見えました。

◆都筑消防団についてはこちら(横浜市HP)

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この記事を書いた人

戸倉有紀 (とき)

神奈川県横浜市都筑区在住 | 子ども3人 | よく行くお店はサイゼリア🍝と回転寿司🍣 | 海が好き | 将来の夢は子どもとシュノーケル&ダイビングすること

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