2024年12月下旬、都内某所で行われた「『ちひろの子どもたち ハッピータイム』刊行イベント」に行って参りました。講演をなさったのは、絵本作家の松本春野さんです。
【プロフィール】絵本作家・画家 松本春野(まつもとはるの)
1984年、東京都生まれ。多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。2009年山田洋次監督の映画『おとうと』の題字やポスターイラストを担当したことから、同年山田監督監修のもと『絵本おとうと』(新日本出版社)で絵本作家デビュー。
主な絵本の著書に、盲目の男性の通勤を、近所の子どもたちが10年以上に渡り支え続けたエピソードを描き、多数賞を受賞した『バスが来ましたよ』(文/由美村嬉々 アリス館)、黒柳徹子氏の戦争体験を絵本化した『トットちゃんの 15つぶの だいず』(文/柏葉幸子 講談社)
春野さんは、日本を代表する絵本画家・いわさきちひろの孫として生まれました。
実は春野さんは祖母「いわさきちひろ」さんに会ったことがありません。ちひろさんが55歳という若さで癌で逝去したためです。春野さんたち孫は誰もちひろさんに会ったことがないそうです。
そのような中、春野さんは、現在も練馬区下石神井にある「ちひろ美術館・東京」の旧建物で「まさに絵本に囲まれて」17歳まで暮らしてきました。
その中で、会ったことのない祖母「いわさきちひろ」の息吹を感じながら、天真爛漫に育った春野さんです。
絵本は、世界への窓であり、最高のコミュニケーションツール
春野さんは絵本を「0歳から100歳を超える人々まで楽しめる文化遺産」と表現します。文字が分からなくても絵だけで物語を理解できるため、赤ちゃんから大人まで楽しむことができる。同じ絵本でも、読む人の年齢や経験によって感じ方が変わる。そして絵本は他者との出会いを促すコミュニケーションツールと明言します。親子、友人、先生など、大切な人と絵本を共有する時間は「愛された記憶であり、愛された経験のアルバムなのです」と笑顔を絶やさず、会場に語り掛ける姿は、きっとちひろさんに似ているのではないでしょうか。
「シンプルで簡単で優しい社会(絵本)を子どもの身近に置いておく、それが安全で大切な場所です」人を傷つける言葉が横行する現代で、絵本の力が試されている、それに挑戦していくかのような春野さんの言葉は会場の人たちを大きくうなずかせていました。
ちひろの描く「余白」引き算の絵とは
「ちひろの絵は圧倒的に白が多い。白が多いとは、見る人が自分の経験やいろんな思いを、その上に乗せて見ることができるということなんです」
つまり、ちひろの絵の「余白」とは、見る人の想像力を刺激し、それぞれの解釈や感情移入で創造力も養う力を持っているのだと春野さんは言います。
かつてはみんな、子どもだった。
いわさきちひろの孫として生まれたことに気負いのようなものはなかったかという問いに対し、春野さんは毅然と答えました。
「画家としても、人間としても、自立し、立派に生きたちひろは、プレッシャーを残してくれた部分もありますが、圧倒的な感謝の方が大きいです。それはちひろという人が残してくれた絵の中に『子どもは大切にされるべき存在である』というメッセージが惜しみなく表現されているからです。そして、その思いに共感するお客さんや職員が集う『ちひろ美術館』で、ありがたいことに私は幸せな子ども時代を過ごすことが出来ました。子どもを大切にする社会というのは、かつて子どもだった人たちをもちゃんと大切に思う社会でもあります。この考え方に、私はとても救われています」
後編は、絵本作家「松本春野」の持つ使命感と今後の展望について、インタビューの内容をお送りします。