北海道遺産の札幌軟石とは?
北海道札幌の開拓の歴史や人々の暮らしの痕跡を、可能な限り自分の足で歩いて紹介したいと考えている、Mediallライター小糸あきです。
今回は北海道札幌の開拓時代の建築を支えた「札幌軟石」についてご紹介します。
札幌軟石とは北海道で採掘される石の名前で、北海道遺産に指定されています。
北海道遺産とは、北海道の有形・無形の財産から次世代へ引き継ぎたい宝物として選ばれたもののことです。
北海道の観光名所のひとつでもある支笏湖は、約4万年前の支笏火山活動の噴火によってできました。火山活動の時に流れ出た火砕流が、長い年月をかけて札幌近辺で冷えて固まり、札幌軟石となったのです。
保温・耐熱性に優れていた札幌軟石は、北海道の建築や建造物を支えてきた重要な石でしたが、現在軟石で造られた建物は減り続けています。
軟石採掘の歴史が感じられる公園とアーティスティックな緑地
今回は軟石切り出しの歴史を偲べる藻南公園と、かつて軟石採掘場で現在はアーティスティックな公園である石山緑地。そして、軟石発展に貢献した石山地区を散策して見つけた石造たちをご紹介します。
藻南(もなみ)公園
かつての札幌軟石の採石場跡地を、“切り出し作業場のような公園”をテーマに市民参加のワークショップで完成したのが「藻南公園の札幌軟石ひろば」です。
このように当時の軟石切り出し状況を再現したコーナーもあり、札幌軟石採掘の歴史を偲ぶことができます。チェーンソーもなかった時代、熟練の石工たちの手によって軟石は切り出されていました。
その軌跡を残そうという地域の人たちの想いが感じられる場所です。
石山緑地
「石山緑地」もかつて軟石の採掘場でしたが、、現在古代の神殿を思わせるようなアートな公園として変貌を遂げています。豊かな緑と共に日常の喧騒から解き放たれる開放感のある場所です。
神秘的な雰囲気は写真映えもするとのことで、コスプレイヤーにも人気だという噂も聞きました。確かにここでならファンタジックな写真がたくさん撮れそうです。
ふとした散策路にも札幌軟石の建造物がたくさん
石山地区は軟石と共に発展した地区のため、あちこちに軟石の建造物や石造があります。気持ちの赴くままに散策していろいろ探してみました。
石山神社
こちらは鳥居から灯篭まで、すべてが軟石でつくられたという石山神社です。狛犬も軟石作りでした。堂々とした雰囲気ながらも、どこかぬくもりを感じてしまうのは気のせいでしょうか。
手水鉢も軟石作りです。神社の中にはほかにも地域の歴史を感じさせる石碑があり、地域から愛されてきた神社だということがわかります。
ぽすと館
こちらの「ぽすと館」は「旧石山郵便局」です。趣あるこの建物を維持し使用していくために、軟石を愛する地域の人の手によって「ぽすとかん再生 プロジェクト」が立ち上げられ、現在は軟石グッズ販売やカフェとして多くの人が訪れる場所になっています。
住宅街やふとした道路にも
目立った建造物以外にも、石山地区にはあちこちに軟石で作られた石造たちがあります。
地元の方の手作りのような石造も。苔むしたような風合いがいいですね。
札幌軟石を運ぶため明治42年(1909年)には、石山から南2条西11丁目付近まで馬車鉄道が敷設されたそうです。切り出した軟石を各地に運ぶのに、昔は馬が使われていたんですね。「馬鉄の路」と書かれた石造にはその時代への想いを感じます。
石造が並ぶ通りにはお寺があり、馬頭観世音の碑が建てられていました。人々のために尽くした多くの馬の慰霊でしょうか。その石碑もまた軟石であるのがとても象徴的です。
こちらは住宅街の中にひっそりとあるソフトクリーム屋さんですが、お店の外堀に軟石が使用されていました。昔からこの地域に住んでいるという店主兼お父さんは「軟石はこの辺では昔から当たり前のように使われていた石ですよ」と教えてくれました。
ちなみに、店主であるお父さんが定年退職してからはじめたというお店のソフトクリームは絶品でした。
閑静な住宅街の通りを歩いてみると、かつては人が住んでいたであろう軟石で作られた建物が、今は空き家となって放置されていました。地域の風物を感じさせる建物がこのような状態になっているのは残念です。
地域に必要な何気ない建物まで軟石で造られているのを見ると、この土地と軟石の深い関りを感じずにはいられません。軟石がこの地域の人々の生活にいかに密着していたかがわかります。
まとめ:北海道の悠久の時を伝えてくれる札幌軟石たち
札幌軟石はその独特の風合いやレトロ感から、いまでも多くのファンが存在し、軟石を使用したアクセサリーまで作られています。なぜ、そこまでの魅力を軟石に感じるのでしょうか。
軟石を使用した石造たちは、無言で北海道の雄大な自然と悠久の時を私たちに伝えてくれているからではないか。
人々の暮らしの中にこそ見つけられる歴史と時間に大きな魅力を感じるからではないか。
今回石山地区を散策し、そこに佇んでいるたくさんの軟石の石造たちを見て、そう感じました。たくさんの石造たちはこれからも地域の歴史を静かに見守っていきます。
写真撮影:文
参考:札幌軟石ネットワーク