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アート  |    2024.10.16

山本容子版画展「世界の文学と出会う〜カポーティから村上春樹まで」 

来年デビュー50周年を迎える山本さんの作品の中から「世界の文学」をテーマに構成

村上春樹氏訳の最新翻訳書の挿画制作過程とは?

ブックデザイン、広告、パブリックアートなど、多彩な活動を続ける銅版画家、山本容子さんの版画展が、早稲田大学 国際文学館 、The Haruki Murakami Libraryにて、2024年10月1日(火)より開催されています。会期は2期に分かれ、I期は、2025年1月31日(金)まで、II期は、作品を入れ替えて、2025年3月3日(月)〜2025年5月27日(火)まで行われます。
本展は、2025年にデビュー50周年を迎える山本さんの膨大な作品の中から「世界の文学」をテーマに構成されています。カポーティから始まり、シェイクスピア、ルイス・キャロルなどの文学作品を題材にした版画を次々と発表していった山本さん。

今回は、村上春樹氏訳の最新翻訳書、カーソン・マッカラーズの『哀しいカフェのバラード』に描いた挿画をメインに、これまでの文学作品をテーマにした銅版画作品を振り返るレトロスペクティブな展覧会となっています。

展示の中でも、『哀しいカフェのバラード』の挿画制作過程や作品は、見応え十分。書籍は、見開きごとに村上氏の文章と並行して山本さんの挿画がリンクしたスタイルで綴られています。
ページごとに入れる挿画のスペースと文字数を計算しなければならない複雑な編集作業のベースは、山本さんが細かい設計図を作り実現したもの。これまでに見たこともないような斬新で美しいページ作りになっています。  

カポーティが村上氏との初タッグ、再びの共同作業

山本容子さんしかいない、と村上氏からラブコール

山本さんが、初めて文学をテーマにしたのは1979年、トルーマン・カポーティの小説を描いた「CAPOTE SUITE」でした。この作品をきっかけに、村上春樹氏訳でカポーティのクリスマス三部作『おじいさんの思い出』『あるクリスマス』『クリスマスの思い出』の挿画を担当。村上氏との初タッグがカポーティとなりました。それから36年、村上氏の「山本容子さんしかいない」との強い希望で再び2人による共同作業が実現したのです。

村上氏は「カポーティの小説世界に寄り添った絵を描ける人というと、どうしてもその範囲は限られてくる。あれこれ考えた末に、残ったのは山本容子さんしかいなかった。
そのようにして山本さんに画作をお願いし、引き受けていただいたのだが、出来上がって来た絵を目にして、僕は安堵の息をつくというか、深く感心してしまった。山本さんの絵には彼女自身のストーリーがあり、一枚一枚の絵に生き生きとしたつながりがあった。そしてそれでいてそのストーリーは、カポーティのストーリーの流れを少しも妨げてはいなかったからだ。
その後も山本さんとは、一連のカポーティ作品を『大人のための絵本』として翻訳出版した。酒落た装丁、温かい物質、手ごろな厚さーこれは大事な人に何かの折にプレゼントするには、まさに最適なシリーズになったのではないかと、僕としては密かに自負している。

そして今回、僕と山本さんは初めてカーソン・マッカラーズの伝説的作品に挑戦することになった。『哀しいカフェのバラード』、登場人物の一人ひとりに強烈なクセがあり、絵を添えるのはまさに至難の業ともいうべき中編小説だ。そして今回もやはり、山本さん以外に装画をお願い出来そうな人はいなかった」と言葉を寄せています。

また、江國香織さんは、書評でこのように書いています。

「小説が絵とともに共存するとき、文字のみの場合とこんなに空気が変わるものかと驚く。こわいほど、風通しがよくなって、物語が目の前にひらかれる」。

それほど、山本さんの挿画がこの本の中では、ストーリーを伝える上で大きな役割を担っているのです。

村上春樹さんとのコラボレーション本が36年ぶりに誕生した不思議

作品に囲まれてタイトルを考えるのが楽しい

山本さんは「今、改めて村上春樹さんとのコラボレーション本が36年ぶりに誕生した不思議に、驚いてもいます。この会場では、アトリエで銅版画が刷り上がったところを再現しました。銅版画は凹版ですので、プレス機を使って紙に刷ります。
紙はあらかじめ水に浸して湿った状態です。ですから刷り上がると紙テープでベニヤ板に貼りつけて乾燥させるのです。部屋一杯に立てかけられて、紙もインクもゆっくりと乾く間に、作品に囲まれてタイトルを考えるのが楽しい」と制作課程を振り返ります。

ぜひ、作品を間近に見て、村上氏と創り出した豊かな感性の世界を堪能してください。また、館内には村上氏の書籍がそろっていますので、懐かしい愛読書との出会いもあるかもしれません。

山本容子版画展「世界の文学と出会う〜カポーティから村上春樹まで」 

1. 「世界の文学」をテーマに山本容子の版画作品を紹介。トルーマン・カポーティの小説を描いた「CAPOTE SUITE」(1979年)から、カーソン・マッカラーズ『哀しいカフェのバラード』(村上春樹訳、2024年9月予定)の最新作まで、150点を超える作品を展示予定。シェイクスピア、ゲーテ、ジェイムズ・ジョイス、ルイス・キャロル、モンゴメリなど、世界の文学をテーマに構成。
※会期中に一部作品の入れ替えを予定。詳細はウェブサイトにて。


2. 最新作、カーソン・マッカラーズ『哀しいカフェのバラード』のアトリエ制作風景を再現(I期展示)。作品とあわせて制作過程の資料も展示。


3. 児童文学・絵本作品を紹介(II期展示) 『赤毛のアン』や『不思議の国のアリス』など、おなじみの児童文学や絵本作品がII期に登場。


会期 : 2024年10月1日(火)-2025年5月27日(火)
I期:2024年10月1日(火)-2025年1月31日(金)
II期:2025年3月3日(月)-2025年5月27日(火)
※2025年2月1日~3月2日は休館
* 開館時間:10:00〜17:00
* 休館日:毎週水曜日ほか 
* 入館料:無料
* 会場 : 早稲田大学国際文学館 2階展示室ほか

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monparis

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