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フード  |    2024.02.11

「チーズの科学と浪漫」を多方面に伝え続けるチーズ職人・是本健介さん(ボスケソ・チーズラボ)

チーズ工房「ボスケソ」は、元HONDA F1チームの空力エンジニアである是本健介さんが勤務のかたわら2012年頃から週末にキッチンでチーズ作りを始め、2015年に退職し株式会社ボスケソを設立。翌2016年長野県佐久市春日に「ボスケソ・チーズラボ」を開店し、近隣地域から得る乳(牛乳、山羊乳)を用いたナチュラルチーズ(現在約25種類)を製造しています。


単にチーズを作ることに留まらず、チーズの知識を多方面に伝える努力を惜しまない是本さんの2023年のトピックスを追いました。

各種コンテストの賞状や認定証と写る是本健介さん

冷涼な標高900Mの長野県佐久市春日の山里にある「ボスケソ・チーズラボ」

1.日本ソムリエ協会機関誌で「チーズの科学と浪漫」を連載 

ーー2023年は1月から日本ソムリエ協会機関誌「Sommelier」でチーズに関する連載が始まりました。チーズラボを開店後、望月馬事公苑横の「ウマバル」という飲食店を経営され、その関係からソムリエの資格で協会にも関わりができたようですが、どのようなキッカケで連載が決まったのですか?

もともとワインエキスパートではあったんですが、近くでカフェを始めてからソムリエの資格も取り、2021年に機関誌の編集長の目に留まったんです。車関係の編集のキャリアがあったそうでウマが合って。

ーー前職のキャリアが意外なところで縁を結びましたね。

チーズに関して「科学的にこだわった作りを連載にしてみては」と勧められて1年間連載(隔月刊)しました。文章にすることで裏付けをとり、科学的にどうなっているのかをハッキリとした言葉で人に伝えることで、自分の知識も整理されたと思います。連載ではチーズ作りの最適化、凝固(固め方)、乳酸菌、酵母、熟成、ペアリングなど毎回テーマを決めてソムリエの方の理解が進むよう努めました。

ーーソムリエを含め飲食店の方に、指標になるものが求められていたということでしょうか。

今までは、漠然とワインやチーズに関して「これとこれは合う」っていうのがあるけれど、じゃあそれは何故?っていうのがなかなか無かった。ワイン以外でも日本酒とチーズは合うと思いますが、日本酒にチーズを合せる習慣自体が少なく、これもどう合わせるかが分からない。

この連載の中では、どのワインやどの造りの日本酒とどのチーズが合うのかを

お互いを高め合う対比効果 
お互いを打ち消し合いバランスをとる抑制効果
更に味わいを高める相乗効果

が、それぞれどのような成分を持つものを合せると科学的に効果があるのかというところまで触れています。

理由7割、感性3割。これには何が合うということに関しての科学的な理由が分かっていれば大きく外すことはないし、後は自分の感性を加えるだけ。

ーーはじめから脇道に逸れる無駄がなければ豊かな食卓により近づけますね。

消費する側、提供する側の人だけでなく、これからチーズ工房を目指す人にも為になる内容になったと思います。自分が手探りでやった部分を、これから作り始める人の役に立ててもらえたらいいなと思っています。

2.審査員として初参加「World Cheese Awards2023」

ーー10月にはノルウェーで行われた「World Cheese Awards」に審査員として派遣されたと聞きました。

「World Cheese Awards」は主にヨーロッパで毎年行われるチーズの品評会で、私は出品者としては4年連続となりますが、今年は日本の団体から審査員での推薦があり、その役目も担っての参加となりました。

ーー出品者としての立場と違う目も持って参加され、感想はいかがでしたか?

舞台裏が分かってとても参考になりました。チーズにはいくつもの種類がありますが、ひとつの種類をひたすら審査していくのではなく、私が担当した右上の50番の写真でも分かるように、種類の異なる混在した45個のチーズを1ブロックとして優劣を決めて、それが勝ち上がっていく審査手順なんです。

なので、個性が強かったり、味の濃いものが比較的残る傾向になります。日本人の好む綺麗な味わいでは埋もれてしまうんですね。

ーー日本で好まれるものとは別の「World Cheese Awards」仕様が必要ということでしょうか?

審査を勝ち上がるには今までと同じではダメだということは分かりました。だから、これまでの味わいがダメだということではなく、

どう変えていくか?

それを考えるのが楽しいんです。コンテストには評価が返ってくる。足りないものを補う、こういう味にする、こういう香りを加えていくといったことを考えていくのが楽しい。車でいったらマイナーチェンジですね。

今年1月に日本ソムリエ協会機関誌「Sommelier」で「World Cheese Awards2023」のレポートも寄稿し、日本チーズ協会のチーズ職人トークライブでも業界の仲間と知識をシェアしました。審査員として得た経験も活かして今年も挑戦しますよ。

3.日本航空ファーストクラス機内食(2023年12月~2024年2月期)に採用

ーー12月には日本航空ファーストクラスの機内食に製品のひとつ「KARAMATSU Mike」が採用になりました。とても目を引く可愛らしいビジュアルですね

名前のとおり三毛猫から着想を得ました。白は本来のチーズの色。黒は竹炭。オレンジは紅の実を使ってこの色合いを出しています。

たくさんのご注文をいただいて、ありがたいと思っています。苦労と言えば今までより多く生産しないといけないことと、採用後も日本航空様側の納入基準をクリアすることが求められるので、そういった意味で気の抜けない時期は続きます。

ーー今までの各種コンテストでの活躍が認められた形ですね。雑誌「レタスクラブ」のwebサイトや「料理王国」、「CREA WEB」などで注目されてきた評価の一端が機内食採用という形で示されたのではないでしょうか。

もっとも個性的な見た目だったのが、「World Cheese Awards2023」に審査員としても参加した是本健介さんの工房「ボスケソ・チーズラボ」がつくる「KARAMATSU Mike」。別々の製法でつくった黒、オレンジ、白のチーズを合わせた三色模様は、三毛猫をイメージしているそうで、猫好きの人にはたまらない!複雑な風味なのに食べやすく、香ばしくて、美味でした。

「レタスクラブ」2023/12/6(水) 11:30配信

4.一般の人にチーズを教える

写真中央のオレンジの帽子が是本さん(チーズづくりワークショップ)

2023年、是本さんはソムリエ以外にも、いろいろな方々に教えることを実践しました。

 1.チーズセミナー(小諸市荒町 etcetera. in 合間)
   一般消費者向けのチーズを試食しながらの座学。

 2.チーズづくりワークショップ(佐久市望月地域コミュニティセンター他)
   チーズが好きな方、チーズ料理が好きな方、チーズ職人を目指す方向けのチーズ作り教室

   (左右の写真は、昨年7月のワークショップ・モッツァレラ編)

 3.専門学校生への授業(宇都宮市)
   IFC調理製菓大学校 発酵醸造科 講師

小諸市での「チーズセミナー」と佐久市望月での「チーズづくりワークショップ」は各7回開催。IFC調理製菓大学校発酵醸造科での講義には20回ほど宇都宮市まで講義に出向かれたそうです。

チーズづくりワークショップは是本さんが器具・原料など一式を地元公民館施設に持ち込み、10名の定員の作業場所を確保してチーズ作りを1日かけて教えてくれる講座。参加者は近隣だけでなく関東や愛知など遠方からの方も参加も。熟成が必要な種類は、各自持ち帰り後にfacebookのメンバーサイトで是本さんからアドバイスも交えながら情報共有し、自分のチーズを育てていきます。

5.是本さんがチーズを通じて実現させたいこと

BOSQUESO(ボスケソ)のミッションには次の3つがHPで表記されています。

 1)チーズを通じて食卓に笑顔を与え、健康増進、地域経済の発展に貢献する

 2)チーズの原料となる乳を作り出す家畜の力 (Animal power)を使い、里山の環境を保
   全し、高付加価値製品を作り出し、牧歌的な癒しの空間を創造する

 3)チーズを通じ他職能集団をブリッジングし、市町村の枠を超えた地域発展に貢献する

チーズ作りだけでなくそれを軸に活動の幅を広げ、より多くの人に「笑顔」と「健康」を届けていってほしいと是本さんの活動を知るにつれ、そう思いました。

Bosqueso Cheese Lab.(ボスケソ・チーズラボ)

URL:https://bosqueso.official.ec/
facebook:https://www.facebook.com/bosqueso
住所:〒384-2205 長野県佐久市春日2208-2 
TEL & FAX: 050-1170-2575
定休日:金・月を除きどちらかの店舗でチーズの販売を行っています(1, 2月除く)。

 Bosqueso UMA Bar(ボスケソ・ウマバル) 

住所:〒384-2205 長野県佐久市春日5928-21 
TEL & FAX :050-1037-5797 
定休日:金・月を除きどちらかの店舗でチーズの販売を行っています(1, 2月除く)。

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この記事を書いた人

Kunie

20代で首都圏エリアの情報誌のライターをしていました。その後、一般企業に転職。東京から長野へ移住、単身赴任、親の介護を経て子供の独立を機に退職。地元誌のインタビュー記事を担当させていただいたご縁から、20代から長いトンネルを経て、またライターで働いてみようと日々奮闘中です。

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