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フード  |    2025.03.05

設立から10年 仲間とともに作り上げた東京産ワインの輪|東京・練馬区

東京ワイナリー

東京・練馬区にある「東京ワイナリー」。都内初のワイン醸造施設としてスタートし、2024年に10周年を迎えました。立ち上げから現在に至るまでの道のりや、東京ゆえの特色について、代表の越後屋美和さんにお話を伺いました。

丁寧に育てられる野菜を見て、東京の野菜を発信したいと考えるように

「ここが東京なのかと思いました」

初めて練馬に訪れたのは2003年。当時の越後屋さんは、大田市場の仲卸として働いていました。社内で東京の野菜を扱おうと話が持ちあがり、最初にアポイントが取れたのが、練馬区にある農家さんだったそう。
実は、それまで東京に農業のイメージが全くなかった越後屋さん。実際に訪れて目にしたのは、広々とした畑でひとつひとつ手作業で丁寧に野菜を育てる姿でした。口にした野菜は、日々何気なく食べていたものとは全く違う味わい。それまでの東京のイメージがガラッと変わったのと同時に「東京の農業を発信したい」と強く考えるきっかけになったそうです。

新聞配達所を改装した東京ワイナリーは、西武池袋線大泉学園駅から徒歩10分のところにあります。

未経験からのワイナリー立ち上げを支えてくれたのは、家族とたくさんの仲間たち

農産物を広めるにはどうすればいいか。考え抜いた末に思いついたのがワインでした。

「ワインは100%農産物だけで作られますし、地元の野菜と掛け合わせることもできます。農産物を発信するツールになると思ったんです」

ワインはもともと好きだったという越後屋さん。しかし、醸造技術も人脈も全くありませんでした。そこでまず、東京都が開催する起業セミナーに参加し、事業計画を練り上げることに。また、他のワイナリーを見学したり、ワインイベントに参加したり、実際に醸造を学んだりしながら、2年間かけて準備を進めてきたそうです。

「初めてのことだらけで、何度もつまづいたり不安になったりする瞬間がありました。でも、起業セミナーやイベント先で、東京でワイナリーをやりたいと口に出し続けていると、その場で出会った方たちが『実現できるよ』って応援してくれるんです。その声かけがいつも後押しになっていましたね」

仕事をしながらワインの製造や品質管理を学び、ワイナリー立ち上げに奔走したという越後屋さん。「立ち止まる暇がないくらい忙しかった」そう。

「一番支えになっていたのは家族の存在です。最初にワインをやりたいと言ったときに『やったらいいんじゃない』と言ってくれたのが本当に大きかった。ワイナリーを立ち上げるのに初期投資もかかりましたし、当時住んでいた住居から練馬に引っ越すことにもなりました。たくさん迷惑をかけたと思いますが、あのとき家族の一言がなかったら、最初の一歩を踏み出せなかったかもしれません」

集まった仲間たちに支えられた10年

東京のブドウシーズンは8、9月頃。収穫したら実を選果・除梗(じょこう:実から茎を取り除くこと)し、プレスしていきます。
また、東京ワイナリーでは地元産以外にも立川や国分寺、長野や北海道などのブドウも扱っているため、地元のブドウ仕込みと並行しながら各産地をまわるのだとか。また、数年前からは地元で使われなくなった農地をブドウ畑に転換し、自分たちで栽培にも取り組んでいるそう。

「実際の収穫のタイミングは天候やブドウの様子で毎年変化します。産地の農家さんから突然収穫の連絡が入るので、収穫シーズンは常に動けるよう予定を空けているんです」

そんな越後屋さんの活動を支えてくれるのは、仲間であるたくさんのスタッフたち。ブドウを収穫して発酵・熟成させて瓶に詰めるまで、一緒に作業を進めます。実は、スタッフは全員ボランティアでの参加だそう。

「ワイナリー立ち上げ当初から、ボランティア制で仲間を募っています。日常使いできるよう商品コストを抑えたいという理由もありますが、一番はワイン造りの過程を知ってもらいたいからなんです。自分たちで実際にブドウに触れながら、ワインを仕込む体験を楽しんでほしいんですよね」

摘んだブドウは搾汁機でプレスしていく。なお、赤ワインは茎や皮ごと発酵させてからプレスし、白ワインはプレスしてから発酵させるのだそう。

以前は新聞配達員の仮眠室だったというスペースには、大きなステンレスのタンク5台が並び、繁忙期には1ヶ月に延べ40〜50人のスタッフがワイン造りに加わるそうです。毎回SNSで募集をかけると、たちまち人が集まるのだとか。

「立ち上げた頃から、募集はずっとSNSを使っています。正直、最初は本当に誰か来てくれるのかなと不安でした。でも蓋を開けてみると、応募してくれた人がいてホッとしたのをよく覚えています。当時参加してくれた方が、今でも手伝いに来てくれるのが嬉しいですね」

参加するのは近所の方たちばかりではありません。電車で1時間近くかけて来る方もいれば、たまたま出張で東京にいるから来たという沖縄の方も。

「SNSが身近になったことも大きいですが、声をかけると誰かが集まってくれるのは、人が多い東京の強みだと思います」

発酵が終わって貯蔵されているワイン。ステンレス製タンクで時間をかけながら、ゆっくりとまろやかに仕上がるまで寝かせます。

「不特定多数の人を受け入れる状況は、ほかのワイナリーからすると少し特殊かもしれません。でも、実際に仕込みの現場を見ていると、みなさん楽しそうに作業をしているんですよね。たくさんの人たちが関わるからこそ、複雑な味わいが生まれるんじゃないかなと。そんな光景を見ていると、美味しく楽しいワインになると思うんです」

練馬のワイン畑は、一つひとつ小さなところが多いそう。そのため、練馬産だけを使った「ねりまワイン」は、それぞれの畑のブドウを混ぜて作られます。例年の生産量は約600本、全体の6%ほどの生産量ですが、年々少しずつ収穫量が増えているとのことです。

取材時に販売していたワインは5種類。カウンター奥では100ml単位の量り売りもあります。

設立から10年 自分が楽しむからみんなで楽しむワイナリーへ

自分自身が楽しむところからスタートしたという東京ワイナリー。少しずつ仲間が増え、栽培から醸造までみんなで楽しみながら作っていく場所になりました。取材の間、何度も「まわりに恵まれている」「いつもみんながサポートしてくれる」と繰り返していたのが印象的でした。越後屋さんの大らかな人柄が、まわりの人やワインにとって居心地の良い場所を作っているのかもしれません。

次の10年は、ワイナリーを通じて練馬の人たちともっと繋がりたいと話す越後屋さん。取材中も初めてお店を覗きに来た親子をあたたかく迎えていました。

2025年4月13日、東京ワイナリーの10周年記念イベントが開催されます。当日は、全国のワイナリーや練馬の野菜を使ったマルシェが並ぶほか、2024年仕込みのねりまワイン約2,000本がお披露目される予定です。東京で作られたワインと料理を味わいに、ぜひ遊びに来てください。

東京ワイナリー

住所:東京都練馬区大泉学園町2-8-7
ホームページ:https://www.wine.tokyo.jp/
イベント特設サイト:https://nerimawine.com/nerimawinefestival2025/

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この記事を書いた人

みつはしさなこ

生まれてから40年以上、東京の下町で暮らすライターです。食を中心にインタビュー、ブランドストーリー、コラム、レシピ記事などを書き、食べものとまつわる人の魅力を届けます。野菜ソムリエプロなどの資格あり。

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