人生100年時代と言われる現代。「生涯現役」という言葉はあっても、実際に一歩踏み出すのは簡単ではありません。
そんななか、60歳目前にして初めての就職に挑戦し、人生を大きく前へ動かした女性がいます。
専業主婦から家事代行スタッフとして「第二の人生」を歩み出した小島紀子(こじまのりこ)さんにお話をうかがいました。

ずっと専業主婦の自分にできることなんて無いと思っていた
——簡単な自己紹介をお願いします。
株式会社ベアーズで週3日、パート勤務をしています。お仕事は、お客様のご自宅のお掃除代行がメインです。不定期でトレーナー業務(ベアーズに新しく入った家事代行スタッフのサービスへの同行、業務補助)もやっています。現在68歳です。
——いつからお仕事をされているんですか?
約9年前、59歳のときからです。それまでは一度も就職したことがなく、ずっと専業主婦でした。
——仕事をしようと思ったきっかけは何ですか?
娘と一緒に三人の孫の面倒をみていたんですが、それぞれ成長して手が離れてきたので時間が空いて、何かやってみたいなと思い始めていたんです。
当時59歳で、まもなく60歳になるので、今動かなければだんだん難しくなってくるなという年齢でした。でも、ずっと専業主婦をしていて働いたことがなかったので、「こんな私でも働くところはあるのかな」と思っていたんです。
そのころ、ドラマで家事代行の仕事を知りました。ドラマの監修をしていたベアーズという家事代行会社があることを知り、「もしかしたら私の好きなことでお仕事をさせてもらえるかもしれない」と思い応募しました。
家事は毎日していましたし、もともと掃除が好きなので、何か役に立つかもと思ったんです。

ガチガチの緊張を溶かした「大丈夫」の一言
——応募したときは不安でしたか?
とっても不安でした。お掃除は好きだけど、お仕事としてできるのかなという心配がありました。すごく緊張して、ガチガチだったと思います。
でも、担当者の方がとっても優しい笑顔で接してくださったので、その笑顔と包容力で、「ああ、大丈夫だ」と思えました。
働いたことがないという不安を正直にお伝えしましたが、「大丈夫です。これまでの生活での経験をお持ちなので、そのままで大丈夫です」と言ってくださったんです。とても安心できて、「自分でもいいんだ、やってみたい」という気持ちになりました。受け入れてくださったことに感謝しかありません。
また、プロとしてサービスに伺う前に、研修の時間をしっかり設けていただけたことも、とても安心できました。専業主婦として家事は続けてきましたが、お掃除の正しい手順や洗剤の種類、汚れの特性などを基礎から教えていただいたことで知識もつき、より自信をもって訪問できるようになりました。
——ご家族の反応はいかがでしたか?
私はもともと体が弱かったので、娘は心配していました。それでも「やってみたい」の気持ちが強かったので、娘に「ちょっと様子を見ててもらえるかな?」とお願いして、挑戦してみることにしたんです。
——初めてのお仕事のことを覚えていますか?
すごく緊張して、普段ならできることができないこともありました。仕上げをすっかり忘れてしまって、「ここにホコリがあるよ」とお客様にご指摘いただいたことを覚えています。
当日は営業の方が同行してくださいました。家事代行の実務にも詳しい方だったので、教えていただきながら業務に取り組めて安心できましたよ。

お客様の笑顔と喜びの声が元気の源
——お仕事をしていて嬉しいのは、どんな瞬間ですか?
もともとお掃除が好きなので、好きなことが仕事に結びついていることが本当にありがたいです。仕事自体ものすごく楽しいですし、お客様に喜んでいただけるので本当に素敵なお仕事だなと思っております。
お客様はお忙しいので、なかなか隅々までお掃除ができないんですよね。やりたくてもやれないお掃除を私たちが代行して、お客様の嬉しいお顔を見ると、またお掃除したいなと思います。
「こんなに綺麗にしてくれてありがとう」「ずっとお願いね」と言われた時は本当に嬉しいです。一番の元気の源は、お客様からの感謝の言葉と笑顔ですね。
——定期的に家事代行を依頼されるお客様だと、やはり信頼関係も築かれていくのですね。
そうですね。何年も通っているお客様のところでは、お子様と私の孫の受験が重なった年がありました。お互いに合格だったので、一緒に泣きながら喜びあったことが印象に残っています。
お客様に嬉しいことがあると私も嬉しいですし、お体がちょっと辛いというお話を聞くと心配になります。
ただ、やはりお仕事なので、踏み込みすぎないように一線を引くことやプロとしての姿勢を忘れないように気をつけています。

人との出会いが、自分を変えてくれた
——お仕事を始めて良かったと思うことは何ですか?
この仕事のおかげで、とても豊かな人生になったと思っております。
専業主婦だったら、こんなにたくさんの方と知り合うことはなかったと思います。本当にいろんな方と接することができて、自分の視野が広がりましたね。
トレーナーのお仕事でもいろんな場所に行きますので、行動範囲も広がりました。いろんなことが開けていくというんでしょうか。本当に素敵な出会いがいっぱいありました。

トレーナー業務で関わる新人の方は緊張していらっしゃるので、「大丈夫だよ」の気持ちが伝わるようにちょっとだけ背中を押すようにしています。「手には愛情がある」と思っているので、そっと肩や背中に手をおいたり、時には手を握ったり……。同行して喜んでもらえることも本当に嬉しいですね。先輩後輩という上下関係ではなく、同じ仲間だからねと伝えています。
新人の方に関わらせていただくのも新しい出会いです。先に働いている人間として知っていることをお伝えすることもありますけども、その方たちから学ぶこともたくさんあります。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
——昔から、積極的に人と関わるタイプでしたか?
いえ、子供の頃から引っ込み思案でした。今は正反対で、前に出なきゃ楽しいことが体験できないって感じで、前に前にいくようになりました。今までとは全然違いますね。私からお友達に声をかけて、お話ししましょうとか会いましょうとか、いろんなことをやり始めるようになりました。
家事代行の仕事のおかげで、人と話すのがこんなに楽しいということに初めて気づけたんです。59年間、もったいなかったなと思っています。

長年憧れた習い事で、さらに充実した毎日に
——お仕事を始めたことによって、生活面でも変わったことはありますか?
もともとハワイが好きで、ずっとフラダンスを習いたかったんです。でも専業主婦のころは、自分のためにお金を使うのは気が引けて、できませんでした。
今は働いたお金を自分のために少し使えるので、憧れだったフラダンスに通えるようになりました。
フラダンスは、ハワイ語で「マハロ」と言う感謝の気持ちを何に対しても伝えるダンスなんです。おかげで、感謝の心がいっそう強くなりました。
——仕事と自分の時間とのバランスも取れているんですね。
そうなんです。実は、働き始めることを決意したときには、まさか両立できるとは思っていませんでした。仕事の経験がないので、少しでも働いたら疲れてしまって他のことは何もできないだろうと予想していたんです。もともと体も弱い方だったものですから。
でも家事代行のお仕事は楽しくて、その楽しさの延長でフラダンスもできそうだなと思えたんです。
もしかしたら、他のお仕事だったらフラダンスはできていなかったかもしれませんね。自分に合っていて、楽しくできる仕事だったことが本当にありがたいです。

前に進んだら、こんなに楽しい景色が待っていた
——お仕事に挑戦すると決意した当時の自分に、どう声をかけてあげたいですか?
「前に進んでよかったよ」って言ってあげたいです。
私は働いたことがないし、いろんな不安ばっかりだったんですけども、ドアを開けて行ってみたら、その先がこんなにすごく素敵で楽しいところだったなんて、予想外でした。ドアを開けるまでは分からないので、とりあえずは進んでみたらいいよと言ってあげたいですね。
——同じように、新しいことへの挑戦や働くことに不安を感じている人には、なんと言ってあげたいですか?
どうしても頭で考えて不安ばかりになってしまうかなと思うんですけど、始まってみると結構あっという間で、意外と「できてる」と思えると思います。あまり考えすぎずに行動してみるといいのではないでしょうか。
それから、私たちの年齢的にどうしても、中に中にと行動が狭まってしまうことが多くなりがちですが、そうすると本当に人とのつながりがなくなってしまうんですよね。できれば、どんどん外に行って、人とつながっていくといいことがあるよと伝えてあげたいです。
——今後について教えてください。
今後も体が動く限り働き続けたいです。お客様が喜んでくださるお顔を見たいので。
本当に今の毎日がすごく楽しいんですよ。この楽しさは、働き始めたことがきっかけで積み重なったものですから、働いて本当によかったとものすごく思いますし、これからも続けたいなと思います。
59歳で応募したときは、「10年ぐらい、70歳まで続けたいな」と思っていました。気がついたらもう70歳が近づいてきたので、もうちょっと延ばそうかな、と思っています。
まとめ
変化の激しい現代では、将来に漠然とした不安を感じる人も多いもの。
そんな世の中でも、無理な挑戦に打って出る必要はなく、自分にできることや自分に合うことに踏み出すだけで、人生は意外なほど動き始めるのかもしれません。
仕事や習い事などの新しい環境に飛び込む勇気を持ち行動してみることが、毎日を充実させるきっかけになります。小島さんの勇気と優しさからは、そんなヒントをもらいました。





