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もの・こと  |    2023.09.04

都市部と農をつなぐオアシス「奈良山園」|都市農業を守る循環型農業の取り組み【後編】

【前編】でご紹介した東京都東久留米市の「奈良山園」は、収穫体験のできる人気の農園です。

しかし、奈良山園の15代目農園主を務める野崎林太郎さんへお話を伺うと、収穫体験は奈良山園が行う取り組みのごく一部に過ぎないことがわかりました。

都市農業が抱える問題を解決する、奈良山園の「循環型農業」の取り組みとは。

“農ある豊かな暮らしをつくる”循環型農業の取り組み

奈良山園の循環型農業のしくみ
出典:奈良山園HP

奈良山園は、“農ある豊かな暮らしをつくる”をコンセプトにした、循環型農業に取り組んでいます。

循環型農業は、江戸時代から続く「食べ物」「エネルギー」「堆肥」の循環関係に倣っているのだとか。

その内容について、奈良山園で15代目の農園主を務める野崎林太郎さんに伺いました。

取り組み1:地産地消で食べ物を循環する「野崎書林マルシェ」

野崎書林
野崎書林マルシェ

「地域で作ったものをできる限り市内や都内で消費できるような、農作物の提供の形を目指したい」そう答えてくださった野崎さん。

その形を実現したのが、東久留米駅西口からすぐのところにある「野崎書林マルシェ」です。

こちらのお店では、奈良山園や市内農家の野菜・加工品・特産物などを購入でき、市内のアンテナショップ的な存在となっています。

新鮮野菜
伝統野菜や海外品種の変わり種野菜が並ぶ店内
野崎書林
野崎書林マルシェを奥に進むと書店が

野崎書林もまた、野崎さんが経営する書店なのだそう。2020年に書店をリニューアルし、野崎書林マルシェが誕生しました。

ではなぜ、書店をマルシェにしようと思われたのでしょうか。

東久留米市は農業のまちでありながら、畑は駅からは離れたところにあるため、市内に住んでいても特産物に触れられる機会が少ないそうです。そこで「畑や農協の直売所へ行けない会社員や学生、駅前に住む方などに東久留米市の野菜や特産品を知ってもらいたい」という野崎さんの想いにより、野崎書林マルシェは誕生したのだそうです。

店内には市内で育てられた野菜や奈良山園の果実・野菜を使ったジャム、市内名産の「柳久保小麦」のパンケーキミックスなど、市内自慢の名産品が並べられており、思わず目移りしてしまいました。

奈良山園を含めて、野崎さんのお知り合いの農園15件ほどが出荷しているそうです。

ひもとうがらし
奈良県の伝統野菜「ひもとうがらし」
フィレンツェナス
フィレンツェナスは、ステーキにするとトロトロな食感が美味しいそうです
コリンキー
名前のとおりコリコリとした食感のコリンキー。キンピラにしたら家族に大好評でした!
東京ジャム
甘さ控えめで素材の味を楽しめます。梅ジャムは梅の“酸味”と“優しい甘み”がヨーグルトと相性抜群!
柳久保小麦のかりんとう
一度は生産が途絶えた幻の小麦「柳久保小麦」。見事に復活を果たし、東久留米市の名産品に

取り組み2:産業ごみを資源に「肥料として循環利用」

奈良山園で作られる堆肥(奈良山園より提供)

奈良山園では、地域や東京のカフェのコーヒーかす・ビール工場のモルト・キノコ生産の廃菌床などの産業ごみを受け入れ、堆肥づくりを行い土づくりに活用。産業ごみの循環利用で、有機栽培を実現しています。

実は、有機栽培を行う中で、品種選びに気付きがあったと野崎さんは答えてくれました。大量の化学肥料や農薬を使った見た目のよい野菜や果物ではなく、力強く育ち、野菜や果物本来の味がする伝統品種をできるだけ選ぶようになったのだそうです。

化学合成農薬・化学肥料を使用しない有機栽培を行った結果、奈良山園の2.1haの果樹園と野菜圃場が東京都の有機栽培基準「東京エコ100」認証を取得(2023年1月)。安心・安全な野菜や果物の生産に成功しています。

取り組み3:「生産・加工・流通・販売」を一貫して行う

東京ジャム株式会社
出典:東京ジャム株式会社HP

野崎さんのお話によると、生産される野菜や果物のうち1〜2割は「形が悪い・傷がある」などの理由で農家で廃棄されてしまうそうです。

このような農作物の食品ロス問題をキッカケとして、野崎さんは「生産・加工・流通・販売」を一貫して行う認定農業法人「東京ジャム株式会社」を2012年に創立。奈良山園や提携農家で生産された農作物を活用した「東京ジャム」と、奈良山園の養蜂で生産されたはちみつ「東京百花はちみつ」などを販売しています。

東京百花はちみつ
奈良山園の養蜂で生産された「東京百花はちみつ」

東京ジャム株式会社が加工にとどまらず、流通・販売まで行う理由は、農家の所得向上が目的なのだそう。

実は、食品流通の総額のうち生産者が得ている売上は1割にも満たず、中間加工や流通がその多くの売上を確保しているのだとか。

そんな農家の厳しい現状を解決するためには、農産物を作るだけでなく、加工品の製造や最終的な販売までを自社で行わないと、農家の所得向上はできないと野崎さんは考えたそうです。

東京ジャム株式会社は市内の農家の持続可能なあり方を考え、畑から食卓までを一貫して提供できる地域の企業体として農業事業を行っています。

東京ジャムの商品はオンラインストアからも購入できます。家庭用・贈答品として、選んでみてはいかがでしょうか。

東京ジャムオンラインストア

奈良山園は“農”で地域を豊かにする「地域の企業体」だった

奈良山園がこんなにも「農家・地域・環境」を“農”で豊かにする取り組みをされているとは知らず、ただただ驚きの連続でした。

わたしたちの食卓は農家の方々が作る農作物なくしては成り立ちませんが、持続可能な農業の実現は決して簡単なことではありません。

奈良山園はあらゆる角度から循環型農業の形を次々と実現し、市内の農家とタッグを組んだ「地域の企業体」となることで、都市農業を盛り上げています。

最後に、奈良山園グループは今後「東久留米市内でどのような存在になりたいか」と野崎さんへ尋ねると、次のように答えてくださいました。

「農業も書店も、その時その場所で大きく利益の出る事業ではない反面、環境や教育、社会の持続性にとって責任のある事業だと思っています。そのような地域を豊かにする取り組みを一緒にできる仲間と活動できる場にしていきたいです

今後も、野崎さんの“農”で地域を豊かにする取り組みに注目していきたいと思います!

施設情報

野崎書林マルシェ
住所:東京都東久留米市本町1丁目3−1 東久留米本町ビル 1F
TEL:042-479-0201
アクセス:西武池袋線「東久留米駅」西口から徒歩1分
営業時間:10:00~21:30
休業日:元旦のみ
公式Instagramはこちらから

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この記事を書いた人

髙橋 ユミエ

取材・SEOライティングをする30代フリーライター(2児の母)。雑誌サイゾーのWebメディア『Wezzy』・Webメディア『東京フリーランス』など、数々のメディアで執筆。 結婚と同時に引っ越してきた東京都東久留米市の住み心地の良さに魅了され、実家よりも大好きな土地に。東久留米市を中心に、その周辺地域や家族で訪れた場所の魅力を発信します!

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