JR西明石駅から南へ徒歩20分の明石市藤江地区。数分歩くと瀬戸内の穏やかな海の景色が眼下に広がり、淡路島に架かる明石海峡大橋が一望できる地域です。
住宅街に溶け込むように、白壁に赤い扉が目印のジェラート店「ぐらなーと」があります。ここは3代続く酪農家・伊藤牧場が2013年にオープンさせた人気のお店。近隣からはもちろん、遠方からも多くの人々が訪れるようになり、この地域の名物と言っても過言ではありません。
市街地の牧場から生まれたこのお店が、試行錯誤を重ねながらも人々に愛される存在に成長してきた歩みと、そのヒントとなる独自の取り組みをご紹介します。
農業から酪農、そしてジェラート店へ。3代目夫婦の想い
牧場は3代目の伊藤靖昌さん、ジェラート店は妻の美喜さんが営んでいます。
「80年程前、初代がこの地域で農業を始めました。2代目で酪農に軸足を移して、規模を拡大していきました」と話す美喜さん。
しかし、リーマンショック後、牧場経営に行き詰まりを感じた靖昌さん。一時は100件近く明石市にあった酪農家が、資材の高騰や宅地開発の影響をはじめ、時代の流れと共に1桁台にまで減ってしまいました。
伊藤牧場が、市街地酪農を続けるには新たな道を切り開く必要がありました。そこで、6次産業としてジェラート事業を視野に入れ、安富牧場(岡山県)に学びに行きました。
「夫以外の家族は反対でした。しかし、夫は『搾った牛乳がジェラートとしてお客様に届けられるのが理想』と熱く語り、私も彼と一緒にジェラートの勉強を始めました」(美喜さん)
「牛乳が苦手な人にも食べてもらいたい」こだわりの味を求めて試行錯誤
隣の牧場から搾りたてで届く新鮮な生乳の味を最大限に活かしたい……。ぐらなーとならではのジェラートの味を決めるまで、試行錯誤の日々は続きました。
「牛乳が苦手な人にも食べてもらえるようにと、試作を重ねて、あっさり味のジェラートを目指しました。生クリームは脂肪分35%を使い、グラニュー糖とトレハロースで甘みの調整を行い、のどごしの良さを実現しています」(美喜さん)
一方で、コロナ禍の影響を受け、イートインを休止。代わりに地域のハンドメイド作家の雑貨販売を始めるなど、新しい営業スタイルに転換しました。ジェラートの自動販売機の設置や、UberEatsの導入によって、非対面でのお客様への対応も可能になりました。
地域密着の活動が人気の理由
2013年に開業し、11年目を迎えた今、ぐらなーとは地域に深く根づいています。
美喜さん自身も2人の子どもを育てる母親。近隣の保育園や幼稚園、小学校の食育活動に協力するほか、中学生の職業体験を受け入れるなど、地域で開かれた取り組みを続けてきました。ご自身の子育てと共に、地域の子どもたちの成長も見守っています。
「娘の通う幼稚園で先生が『私、小学生の頃にぐらなーとのジェラートを食べていました』と話してくれました。続けてこられたことにも感慨深く、めちゃくちゃ嬉しかったですね」(美喜さん)
美喜さんは「地域の子どもたちが、大人になっても通い続けてくれるお店でありたい」と話します。そのためにも、積極的に新しい取り組みにチャレンジし続けています。
たとえば、バウムクーヘン工房とコラボしたテイクアウト商品の開発を行うほか、後継者不足に悩む山田錦の産地と酒粕を使ったジェラートの開発を行っているとか。
「新しいチャレンジもしますが、オープンから変わらない想いは、おばあちゃんになってもこのお店を続けていきたい、ということです」(美喜さん)
『新鮮な牛乳をお客様にお届けしたい』という想いから生まれた「ぐらなーと」。これからも変わらぬ姿勢で、この地に根を下ろし続けていくことでしょう。
伊藤牧場のジェラートやさん「ぐらなーと」
兵庫県明石市藤江285-1
営業時間:10:00~17:00
定休日:木曜日・不定休(Instagram参照)
駐車場:9台
Instagram:https://www.instagram.com/granato__05.08/
HP:https://granato.sakura.ne.jp
※最新情報はInstagramをご確認ください。