笹埜醤油(ささのしょうゆ)は、岡山県岡山市東区瀬戸町宗堂にある創業154年の老舗醤油醸造元です。明治3年に創業し、現在は5代目の笹埜俊一さんが職人として店主として奮闘しています。
地域に根差した醤油屋さんをぜひ全国へ紹介したく、取材に伺いました。今回は、笹埜醤油のこだわりや人気の醤油などを紹介するので、醤油選びの参考にしてくださいね。
宗堂の笹埜醤油について
明治3年に創業した笹埜醤油は、地域に根差した醤油づくりに取り組んできました。上写真の左に写っているのは創業当時のポスターとなります。歴史を感じますね。
昔は、地元で大豆を作っている農家さんが「この大豆で醤油を作って欲しい」と大豆を持ち込まれることが多かったそうです。
そこで、60kgの樽で醤油を仕込む、セミオーダーの醤油づくりも請け負っていました。
また、平成になると健康ブームにより、お客さんが自分で選んだ大豆・麦・塩を持ち込んで「この材料のみで醤油を仕込んで欲しい」というOEM製造も請け負うことが結構あったそう。
なかなか60kgのスケールでOEMを請け負う醤油蔵はなく、探してまで笹埜醤油を頼ってこられたお客さんのオーダーに応えるべく、奮闘したとのことです。
その名残もあって60kgの樽が多くあるため、現在もこの樽を使って醤油づくりをしているそうです。
そして、おいしい醤油づくりが評価され、農林水産省からも表彰されています(上記写真右上)。
笹埜醤油のこだわり
笹埜醤油のこだわりは、地域に根差した醤油づくり。こだわりの理由は、その土地で採れた作物や魚、肉をおいしく調理するには、地元の醤油がもっとも合うからです。
もともと醤油は、調味料として様々な料理に使われるため、家庭料理や地域の味を決めるほど強い影響力があります。
例えば、九州の醤油は他の地方よりも甘みがありますが、地元の食材をこの甘めの醤油で味付けすると、郷土料理として完成します。しかし、これを岡山に持ってきて味付けに使っても、馴染みません。
そのため、笹埜醤油では、地元の食材にベストマッチする醤油になるよう、お客さんの声も反映しながら、真面目に醤油づくりをしています。
醤油は麴菌や酵母菌などの有用菌の発酵作用によって作られる自然発酵食品です。そのため、工業製品のように分量や時間を設定しても、思い通りの発酵にはなりません。
毎日、もろみの様子を見ながら混ぜる回数を調整し、1~1.5年くらい発酵。発酵期間は職人の肌感覚で決めるため、季節や商品によって変わります。
微生物の発酵を助けるために人ができることは、清潔さを保ち、必要に応じた撹拌を行うだけ。
醤油づくりは「複数の微生物と原料だけでなく、温湿度などが絡みあうオーケストラだ」と笹埜さんは表現されましたが、本当に全てが正しい旋律を奏でなければおいしい醤油になりません。
そのためには、毎日手をかけてあげることが大切なのです。
このように真面目で責任感がなければできない仕事を日々続けている醤油職人の心意気は、「もんげえなぁ」「でえれえなぁ」※としか言えません。
※「もんげえ」「でえれえ」は岡山弁で「すごい」の意
笹埜醤油で製造販売している醤油
笹埜醤油では、生揚醤油(きあげしょうゆ)に甘味料などで味付けをして販売する醤油、麹から作る醤油、再仕込み醤油、だし醤油、もろみなどを製造販売しています。
それぞれ、使用目的や使い方が異なりますが、どれも自信をもって製造販売している醤油です。お店や電話で笹埜さんに好みを相談して、自分に合うものを選んでくださいね。
一番人気は、本醸造こいくち醤油「紫(むらさき)」です。
なお、お店のおすすめは、以下のとおり。
- 本醸造こいくち醤油「紫(むらさき)」
- 白桃白だし
- たまごにかけるしょうゆ
笹埜さんがこだわって作る醤油の中でも味わってほしいと考えるものは、以下となります。
- さいしこみしょうゆ 本醸造「さしみしょうゆ」
- 濃口醤油「きじょうゆ」
- 生もろみ「桜もろみ」
笹埜醤油のおすすめ商品の紹介
上記で紹介したおすすめの醤油について、こだわりや概要を簡単に説明します。
ぜひ参考にしてくださいね。
本醸造こいくち醤油「紫(むらさき)」
実は多少甘口なのですが、調和のとれたまろやかな風味でどんな料理にも合います。1.8Lサイズのペットボトルタイプのものは、軽くて高さを抑えているため「一升瓶よりも使いやすくてしまいやすい」と人気です。
白桃白だし
羅臼昆布(らうすこんぶ)とかつお節から丁寧にだしを取り、うすくち醤油と合わせた風味豊かなだし醤油です。岡山の名産品である白桃の果汁を加えることで、上品な風味に仕上げています。
煮物やお吸物、茶碗蒸し、だし巻き卵などを簡単に美味しく作れます。取材日は、この商品が一番人気でした。
たまごにかけるしょうゆ
かつお節と昆布のうまみに加え、隠し味のわさびにより上品でまろやかな風味をもつ醤油です。卵かけご飯だけでなく、卵焼きや目玉焼き、照焼きなどにも使えます。
さいしこみしょうゆ本醸造「さしみしょうゆ」
濃口しょうゆには淡口(うすくち)しょうゆよりもメラノイジンという抗酸化物質が多く含まれており、魚の生臭さなどをやわらげる効果があります。この濃口しょうゆに原料の「大豆・麦・麹」を追加して再度仕込む(再仕込み)ので、塩味が弱めでうまみと風味が濃い「絶品のさしみしょうゆ」ができました。
まろやかな風味で「さしみの生臭さを消す効果が強い」ので、ぜひお試しあれ!
濃口醤油「きじょうゆ」
原材料は大豆と麦、麹、塩だけの無添加の濃口醤油です。「きじょうゆ」の「き」は「まざり気がない」ことを意味しており、昔ながらの本醸造醤油となります。
醤油本来の味を堪能できる醤油です。なお、発酵の具合により味に変化が生じることもあり、微生物による一興といえるでしょう。
生もろみ「桜もろみ」
もろみは食べられる醤油として、塩分を減らして熟成期間も少し短めで作られます。醤油を絞る前なので豆や麦の食感や甘味を感じられ、そのままでも食べることが可能です。ごはんにかけたり、野菜につけたりするだけでなく、焼き魚にも合います。
今回、和風ピザの味付けに使ってみたのですが、チーズとよく合うので美味しかったです(少しもろみのクセは残りますが)。発酵食品同士はどれも相性がいいですからね。
笹埜さんの想いと感じたこと
笹埜さんの醤油づくりへの想いは、とても熱かったです。笹埜さんの「岡山の小さな醤油醸造所が手を取り合い、大メーカーへ対抗したい」という想いからは、「醤油愛」「お客様に向き合う気持ち」「職人のプライド」を強く感じます。
小さな醸造所でしかできないことをやり、地域に根差した醤油をつくり続けることが未来へ続く鍵です。そのためには、地元の人や常連のお客様に愛される、その土地ならではの独自の醤油を時代に合うように変えていくことも必要でしょう。
また、昔ながらの醤油を絶やさず続けていくことで技術継承や伝統を守ることも必要です。
毎日の気配りと手をかけることが醤油づくりには必須であり大変な作業ですが、笹埜さんの想いが次世代に伝わり、6代目に引き継ぐ日が早く来ればいいなと思いました。
笹埜醤油には、昔の醤油の入れ物や大きなとっくりなどがたくさんあるそうです。時代の遺物は、時の流れを感じられるため素敵ですね。老舗ならではの光景でしょう。
笹埜醤油の人気の秘密
説明が上手い職人さんなので、ひっきりなしに訪れる初見のお客様を魅了し、醤油がどんどん売れていました。取材日は、特に「白桃白だし」が良く売れて、1Lタイプは売り切れそうな勢いでした。
また、お盆などで帰省された人が「家でも使いたい」とまとめ買いをすることも多いらしく、地域の人々に愛されていることが分かります。「こいくちしょうゆ紫」を4本も購入していたお客さんもいましたよ。
なお、電話でもアドバイスをもらえるので、遠方の人は相談して、通販で購入するとよいでしょう。
ちなみに私もうどんに一番合う醤油として「岡山白桃めんつゆ」をおすすめしてもらい、購入しました。
醤油の風味を感じられるめんつゆで、子どもの頃に食べた懐かしい味わいでした。醤油屋さんならではの醤油の風味を生かしためんつゆです。小学2年生の息子は「今まで食べた中で、笹埜醤油のめんつゆが一番自分には合う」と話しておりました。
【笹埜醤油の情報】
住所:岡山県岡山市東区瀬戸町宗堂459-4
電話:086-953-0616
営業時間:9:00~18:00
定休日:木曜日
公式ホームページ:笹埜醤油
駐車場:お店の前に5台分ほどあり
岡山に来るなら笹埜醤油を訪れてみませんか?
岡山に来られたら、ぜひ岡山市東区瀬戸町宗堂にある笹埜醤油を訪れましょう。宗堂は4月中旬~下旬に可憐な花を咲かせる、ここでしか見られない八重桜である「宗堂桜」が咲き誇る岡山の桜の名所でもあります。
お店に入ると、気さくな笹埜さんが「自分好みの醤油を選ぶためのアドバイス」をくれるので、安心して醤油などを購入できます。
自分に合う醤油を見つけられたら、毎日の食事がより楽しくなるでしょう。
ぜひ、創業154年の老舗醸造所である笹埜醤油に立ち寄ってみませんか?